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殿下からのミッション

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「それでは、各クラス委員の方、お揃いのようなので、5月の生徒会役員決めについて、会長から説明をしていただきます」

ワインレッドの髪のメガネの参謀風イケメンが司会を始めた。

「彼は、副会長のイスマイル様、3年生で、宰相のご子息であらせられます」

隣から小声でシリル君が教えてくれた。

この学園の3年生って、凄いメンバーなんだなぁ。

私はそんなことをぼんやりと考えながら、他人事のように話を聞いていた。

「……という訳だから、私はメイベル嬢にもうひとりの会長候補者として、庶務に推薦したいと思う。そして私が引退するまでに、我が婚約者としてそのどちらかを決定するつもりだ」


「ふあっ⁈ 」

急に自分の名前を呼ばれて我に帰る。

「な、何?シリル君!私、ちゃんと聞いてなかったよ~! 」

「メイベル様…… 貴女って人は…… 」

シリル君は溜息をついて、こっそり話の概要を教えてくれた。

それに寄ると、この学園では、生徒会役員は以下の通り。

会長⑴
副会長⑴
書記⑴
会計⑴
庶務⑷

庶務以外は3年生で占めている。
今回選出されるのは庶務の4人だそうだ。

その庶務の内ふたりは、次期会長と副会長の伏線として現会長と副会長が選ぶ事になっているそうだ。

そして秋の学園祭前に、3年が引退するのでその2名が発表される。生徒総会で承認不承認の投票がなされ、新会長・副会長が決定される。大抵それは通るので、新たに選挙になる事はないらしい。

「そこまでは分かったわ。分かったけど、何で今、私の名前が出て来たの?」

もうひとりの生徒会会長候補としてとか言った?

私はおばさんだから、クラス委員くらいはチョロいけど、生徒会会長なんて無理ですよ。

自慢じゃないけど、私の管理職経験は主任止まりです!

トップの地位には就いた事ないし、元は内気な女の子だったんだから、人前に立つのは決して好きな訳じゃないんです!

「しかも、婚約者候補って何?生徒会役員とは何の関係もないよね?」

私が縋るようにシリル君に尋ねると、紫の方、ジークフリード様が黒いオーラで微笑みながら私に言った。

「おや、私の大事な話をちゃんと聞いていない生徒が若干一名居たようですね?……貴女には、特別に、後でもう一度ご説明しますから、この後残るように 」

ひえええ~~!なんか、とてつもなく怖い、このお方。

私は背中に流れる汗を止められなかった。

◇◇◇

私は今、会長のジークフリード様と副会長のイスマイル様の3人で教室に残っている。

美形3人揃って凄いな……。

まだ自分の身体と認識し切ってない私は、メイベルの外見も含めて外側から見ている感覚だ。

異世界にいるんだな、私……。

改めて実感して、遠くを見つめていると、イスマイル様が口火を切った。

「殿下、なんか思ったよりもボンヤリしたご令嬢のようですが、大丈夫なのですか? 」

何ですと?今、初対面の私を、さりげなく貶めましたね?副会長?

私は我に返って睨むようにイスマイル様を見た。すると、ジークフリード様が笑いながら答えた。

「ああ。気に入ったね。美しくてしっかり者で包容力があると聞いていたから、優等生みたいなご令嬢かと思っていたんだが、中身は普通な感じが凄く良い」

悪かったですねー!
中身は普通の一般人のおばさんですからねー!
私は心の中でぶうたれる。

「……だが、普通のご令嬢ともどこか違う気がする。善良な感じでアクがなさそうだし。ミレーユを覚醒させるには適材だと思わないか?」

ジークフリード様はイスマイル様に同意を求めた。

「殿下がそれで良いなら私は従うまでです。メイベル殿、今日の話をもう一度ご説明します。生徒会役員の庶務は4人います。その内ふたりは次期会長と副会長候補なのです。会長候補は、ジークフリード様の婚約者候補でもあるミレーユ様で、もうひとりは副会長候補のフリードリヒ様です」

「はい。もうちゃんとご立派なおふたりが揃っていらして、私が出る幕などないではありませんか?」

私が言うと、ジークフリード様は言った。

「ミレーユは優秀な女なんだが、いかんせん自己評価が低くくてな。なかなか私の妃になることを承諾しないのだ。会長候補も辞退したいと言っておる。そこで、そなたをもうひとりの会長候補兼妃候補にしたのだ」

「ええ~っ、それでなんで私がもうひとりの候補なんですか~?私、ジークフリード様の知り合いでもないですよね?会長候補はともかく、妃候補は納得できませんけれど?」

「学園内で人気がありながら、ミレーユの立場を取って変わろうとしない人材が必要だ。その点、そなたは野心がなさそうに見えた。違うか?」

「そりゃあそうですけど……。その言い方だと、私を妃や会長にする気はないって事で合っていますか?」

それはそなた次第だ、とジークフリード様は答えた後、続けて言った。

「ミレーユと戦う素振りをしながらも支え、自信をつけさせろ。そして、私とそなたの接近により、ミレーユに嫉妬心を起こすのだ。それでミレーユがまんまと私に落ちればそなたは会長からも妃からも解放される。だが、失敗すれば、そなたがそのどちらも責務を追うことになる」

なるほど……。

「ようするに、ジークフリード様はミレーユ様がお好きだけど、ご自分だけでは振り向かせられないから私を利用しようと言うことじゃないですか?酷い話ですわねぇ 」

私は呆れたように言った。
この美しい、完全無欠に見えるような王子様も、やっぱり私から見ればただの若者のボンボンだわね。

私が非常に無礼な感想を抱いていると、イスマイル様が激昂して言った。

「貴様!そのような言い草、殿下に対して無礼であろう!殿下は幼き頃よりミレーユ様を大切に思っていらっしゃるし、ミレーユ様とて同じ気持ちでいらっしゃるのだ。ミレーユ様は頭脳明晰で公爵位で、殿下とは釣り合いもばっちりだと言うのに地味過ぎる見た目で、自信がないだけなのだ!さも殿下が片想いであるかのように言うなど、無礼千万!」

えー、なんなの、この参謀風イケメンは?王子様の信奉者?

「イスマイル、ミレーユは地味などではない。大変に可愛らしいではないか」

「ハッ!申し訳もございません、殿下!私の言葉のあやでございました 」

「分かれば良いのだ」

なんなのこのふたり……。

「シリル、と言ったか。あの平民は」

ギクリ。
今度は何を言い出すつもり?

「そなたは彼に随分と肩入れしているようだな 」

ジークフリード様はニヤリと笑んで言った。

「なっ!それが、なんだと言うんです?」

私は警戒してふたりを見つめた。

「足長おじさんならぬ、足長令嬢を気取っているとか? 」

「なぜ、それを⁈」

私は追い詰められたネズミのように震えた。

「もしも、ミッションが失敗すれば私の妃になる女だ。隅々まで調べるのは当たり前だ。シリルに援助者がそなただと知られたくなくば、私のシナリオ通りに動いてもらおうか」

黒い微笑みでジークフリード様が迫って来た。その黒さすら、美しいのが腹立つわあ。

「王太子に最も近い王子様が、脅迫ですか?」

私は冷や汗を垂らしながらも抗議した。

「私に気に入られたら、逃げられない、と言っただろう?この国を背負うからには、私は時には黒くもならねばならんのだ。しかし、そなたに一方的に悪い話はしていない」

「……といいますと? 」

「そなたを釣るにはシリルを利用するのが一番だと分かったからな。無事、ミレーユが私の正式な婚約者に収まり、次期会長候補にもなると言った暁には、シリルへの研究費用を私から出してやろう。彼は平民が使える魔道具を開発する夢があるらしいからな」

「……それは本当ですか?」

「何なら、書類契約を交わしても構わぬが?」

「……分かりました。シリル君のためなら、一丁やってやろうではありませんか! 」

私はこの話を断ることも出来ないと判断し、やけくそで当て馬役を引き受けた。



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