私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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メイベルのモテ期と最大のライバル〜アーサー視点

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「なあ、お前、白組のメイベル侯爵令嬢と仲が良いんだろう?羨ましいな 」

ある日突然、友人のクリスが言った。

「はあ?何だ、急に」

俺はメイベルの話と知って、眉を寄せた。

「お前は知らないのか?最近メイベル様は俺ら男子生徒の間で人気急上昇なんだぜ? 」

あの美しさで前から一定の人気はあったのだが、あまり表に出ず、影で高慢な感じの態度をするのでアンチも多かった。

そういう俺もそんなひとりだった。

「彼女が記憶喪失になったとの噂は白組から他クラスに移るのはあっと言う間だったろ?その後平民の生徒がクラス委員を押し付けられているのを見て、自分がそいつと一緒にやると言って華麗にホームルームでの司会をやってのけたとか。それに平民の生徒を蔑む事もせず、仲間に入れた事で気にくわない奴が心無い誹謗中傷をしたり、黒板やシューズなどに落書きされたりしたのだが、彼女はそれを気にもせず堂々としているのがかっこいい

ああ、それなら俺も知っている。
最近はあのシューズは〈悪趣味シューズ〉と名前までついているんだからな。良い加減買い換えろと言っても勿体ないと言って聞かない。高位貴族のご令嬢とは思えない図太さだ。

「それに彼女は、白組エリート以外の奴らにも挨拶をするし、気軽に話しかけたりしてくるんだ。俺みたいな低位貴族にもだぜ?気取ったところがなくて大らかだから、女子生徒にも人気がある。いいよなぁ、包容力ある美女は。彼女の胸で甘えてみたいな…… 」

鼻の下を伸ばして語るクリスの奴に手刀をお見舞いしてやった。

「テメーみたいなムッツリすけべにメイベルはやらないぜ。俺の婚約者にするんだからな! 」

俺がそう言うと涙目で頭をさするクリスは言った。

「俺には高嶺の花だってわかってるよ~。俺がせめて、子爵でなく伯爵位だったなら、一か八かで告ってやるんだがなぁ。お前はモテるイケメンだから、頑張れば彼氏に収まる可能性は無くもないが、先輩たちも狙ってるんだぜ。いや、後輩にも自分をわきまえない奴はいるんだ。簡単に彼女は手に入らないと思うぜ? 」

俺はクリスから話を聞いて一番に思った。

(あの時ヤダねとか、言うんじゃなかったー!俺の馬鹿野郎‼︎ )

性格が全然違ったとは言え、あの時から交際していれば、記憶を無くした彼女を慰める体で、優しく介抱してやれたのによー!

俺はひとりで自分に憤っていると、赤組の教室の入り口でキャロライン嬢が手招きしているのが見えた。

俺は入り口まで移動した。
キャロライン嬢の後ろには、ドロシー嬢とシリルもいる。

「……どうしたんだ?」

俺は嫌な予感がして、眉を寄せた。

「今ね、3年の先輩がメイベル様を呼び出して行ったのよ。心配だから、見に行こうかって。アーサー様も来て下さらない? 」

俺たちは急いで校舎裏へ向かった。


◇◇◇


「あの、もしも、告白とかだったら、俺たち見てたらダメなんでは……? 」

お人好しなシリルが言った。

「何言ってんだ。男とふたりきりにしておいて良いはずないだろ!」

「そ、そうですよね…… 」

俺たちふたりは植え込みの隙間に隠れていた。女性ふたりは、もう少し離れたところで待機している。
もしも何かあったら先生を呼ぶ手筈だ。

「……気持ちは嬉しいですけれど、私、あなたを全く知らないですからお付き合いなど出来そうもありませんわ。ごめんなさい 」

メイベルが断りのセリフを述べている。やっぱり告白だったか~!
良かった、断ってくれて。

「それは分かっています。だから、自分を知ってもらうための友達からでいいのです。どうか付き合っていただけませんか? 」

お前、しつこいぞ!ダメだと言っているだろう!

俺はギリギリと歯ぎしりしながら先を見守った。

「……本当にごめんなさい。私、他に愛でるのが忙しくて、お付き合いする時間なさそうなんです 」

「そうですか……。他に好きな方がいらっしゃるのですね…… 」

「好き?好きと言えば、好きだけど……? まあ、そうですね、大好きですわ。人として 」

男はがくりとうなだれた。

するとメイベルはオロオロして彼に同情し始めた。

「あなた!そんなにガッカリなさらないで!私なんて、見てくれだけの女なんですのよ。中身はほとんど図太いオバサン!……みたいな女なんですからっ!あなたみたいに魅力的な男性なら、もっとピュアで可愛らしい女性がお似合いでしてよ?ねっ?」

そう言って、男の頭を撫でている……。

「メイベル様……俺はピュアな女性より、包み込んでくれそうな貴女が良かったのに……! 」

男はメイベルを抱きしめようとした。

「メイベルー!どこだぁ⁈ あっ、こんなところにいたのか? 探してたんだぜ!」

俺は思わず飛び出していた。

男はギクリとして去って行った。


「……馬鹿!フッた男にまで優しくしてんなよ!つけ込まれるところだったぜ? 」

「えっ?そうなの?傷つけてしまって、なんだか申し訳なくて…… 」

メイベルは眉をハの字にして俯いた。

これは、これからも油断できないな。流されて、連れて行かれるタイプかもしれない。

俺がそう思っていると、シリルが横から入って来た。

「メイベル様、お願いです。もう、あんな危ない事はやめて下さい。男はメイベル様の優しさにつけ込む狼なんです。それに、好きでないのなら、厳しくフッた方が良いのです。中途半端にされると、想いを断ち切れなくて、余計に相手に辛い想いをさせることにもなるんですから 」

シリルがそう言うと、メイベルは瞳をぱちくりさせて頷いた。

「そうね。シリル君の言う通りだわ。私、もう二度とあんなことしない。流石シリル君!ありがとう」

メイベルはシリルの両手を握ってブンブンと勢いよく振った。そして俺に向かって言った。

「アーサー様も、ありがとう。そう言えば、アーサー様が見本を見せてくれたのでしたね。付き合ってと言われたら、『嫌だね』の一言で良かったんですわね 」

あー俺っ!どうしてそんな事を言っちまったんだー!俺は頭を抱えてもがいた。


それにしても、メイベルのシリルに対する執着のようなものは何だろう……。
恋愛対象として見ているわけでもないようなのだが…… 。

目下、俺の最大のライバルはシリルのようだ……。


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