私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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短い鉛筆の思い出

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「シリル君……素敵だよ……! 」

私は感動で、それしか言えなかった。

シリル君は、長かった銀髪を、肩あたりできれいにカットし、シンプルだけど、品が良い服装を身に付けて登校した。

「まるで貴族のご子息のようですわね、シリルさん 」

ドロシー様がそういうと、

「やっとあの野暮ったい服から脱出したのですわね。なかなかよろしいんではなくて?」

キャロライン様にしては最大級の褒め言葉を述べた。

「アーサー様も、お昼休みに来たら、驚くでしょうね 」

ドロシー様がそういうと、シリル君は少し頬を赤らめて言った。

「どこのどなたか分からないのですが、俺を支援して下さる方が現れたんです。ですから、久しぶりに理容院に行ってきました 」

ようやく服が届いたんだね。良かった!私は満足そうに頷いた。

「それは良かったね~。シリル君が頑張っているから、ずっと見ていた神様がご褒美をくれたんだよ、きっと 」

私がそういうと、シリル君は少しの間、私を見つめた後に言った。

「はい。本当に神様のような方だと思います。直接お礼が言えなくて、とても残念です 」

切なげに言った後、強い光を宿した瞳で、シリル君は決意を述べた。

「俺、絶対頑張って学園を卒業し、立派な仕事をして、その方にご恩返しをするつもりでいます」

「シリル君、援助してくれる人が現れて良かったけれど、そういう事をするのは大抵金持ちの道楽なのよ。だからそこまで恩を感じる必要なんてないんじゃない?ただ、シリル君が幸せになりさえすれば、それで援助者だって満足するわよ、きっと 」

私は援助が負担にならないようにそう言った。

何となく、ふたりで無言で見つめ合っていると、ドロシー様とキャロライン様が生暖かい目で私たちを見ていた。

「キャロライン様、今日もわたくしの創作が捗りそうですわね? 」

「ええ、そのようね 」

周りみんなにバレバレの足長おばさんの私は、そのことに気付きもせずに心で語っていた。

「これからも、影ながら応援しているからね!シリル君、頑張って‼︎ 」


◇◇◇


今は一時限目の授業中。

少し眠くてあくびを噛み殺していたその時。

ポキッ。

鉛筆の芯が折れる、小さな音が隣から聞こえて来た。

そっと隣を伺い見ると、シリル君が私の視線に気づいてにこっと微笑んだ。

なんて天使な笑顔!毎日癒しをありがとう!

私は心で感謝しながら、その手元に視線を移動した。

シリル君は筆箱の蓋を開け、もう一本の鉛筆と、芯が折れた鉛筆を交換した。

どちらもとても短くなっており、男の手には持ちにくそうだ。

鉛筆削りで削ったのではなく、ナイフで切りそろえたような鉛筆。

私は日本での事を思い出していたーー。


◇◇◇
 

私は小学生の頃、可愛い文房具が大好きで、学年が変わるたびに新しいものを買い揃えるのが楽しみだった。

何年生の時だったか、私がウキウキしながら筆箱の中身を使っていたのだが、ふと、隣に座っていた女の子の友達が使っている筆箱の中身を見てしまった。

何本か入った鉛筆は、どれもとても短くて、持ちにくいためキャップをはめて使っていた。

筆箱自体も年季が入った感じで、一年生の時にみんなが買う、ただ赤いだけの筆箱だった。

もう、高学年になって、それを使っている人はほとんどいなかったと思う。

私がそれを見ていたことに気づいた女の子は、私を見てクスリと笑った。

「これ、貧乏臭いでしょ。でもうちは、貧乏ってわけじゃないのよ。金持ちでもないんだけれどね」

女の子はそう言って、その筆箱を大切そうに撫でた。

「私、物を長く使い続ける事が好きなのよ。大切に物を扱っていると、その物には魂が宿る気がするの。そうして、時が経つほど味わい深いものになっていく……。新しいものとは違う魅力を放つのよ」

私はその女の子の話を聞いて、電気が走ったみたいな気がしたんだ。

すごく素敵な考え方だと思った。

「じゃあ、その鉛筆は生きているの?捨てる時、悲しくならない?」

私は疑問を感じて聞いてみた。

「だからね、使えるとこまで使った後、もう一度何かに使えないか考えてみるのよ。鉛筆としてじゃない使い方ないかなって。それでも思い浮かばなかったら、今までありがとうってお礼を言って捨てるのよ」

あの日以来、私の価値観はあの女の子にかなり影響を受けたと思う。
だから、この落書きのシューズだって捨てられない。この落書きだって、時が経てば、楽しい思い出に変わるに違いない。お金が有る無し関係ないのだ。

◇◇◇

私は支援金があるにも関わらず、大切に鉛筆を使っているシリル君がとても愛おしい。

「シリル君。それ貸して」

シリル君からその短い鉛筆を受け取って、私の鉛筆から外したキャップを取り付けた。

「はい。この子、オシャレさんになったでしょう? 」

私は大切な思い出を思い出させてくれたシリル君に、青いキャップをプレゼントした。


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