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メイベルの想い人だった

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「最初から俺への当てつけだって分かってた。まさか、先生を騙してまで、俺の気を引こうとするとはな。やはり我儘令嬢の考える事は手におえねぇぜ 」

焦げ茶のイケメンはニヤニヤしながら私に言ってきた。

「あの……私、本当に貴方が誰か分からないんです。失礼ですけど、どなたですか? 」

「とぼけんなよ。俺に告白までしといて、それはねーだろ。あの時は、お前嫌なヤツだと思っていたから断ってやったけどよ、今のお前はなかなか見所があるようだ。今日から俺の彼女にしてやるから、もうその演技はよせ 」

はい?
告白、ですって??

「キャロライン様、誰なんですコイツ 」

思わず令嬢らしからぬコイツ呼ばわりしてしまった。

「彼は赤組のアーサー・ドレイクですわよ、メイベル様。お勉強は私たちより落ちますけど、伯爵位でテニスサークルに所属していて、かなりおモテになる殿方ですのよ。以前は確かに、メイベル様はアーサー様を気に入っておいででしたわよ 。私の妄想ストーリーで、ヒーローをやった経験があるお方ですわ」

キャロライン様の代わりにドロシー様が教えてくれた。

赤組だから、学業成績は白組の次ってことか。「勉強で負けてて悪かったな」とか敏感に反応してる……。イケメンだけど、なんか軽い感じがする男ね。

「あの、私が告白したって、本当ですか? 」

私は恐る恐る尋ねた。

「なんだ、まだしらを切るつもりか?一年の終業式の後、校舎裏に呼び出して付き合えと言って来たじゃねーかよ。以前から、俺の気を引こうとして、俺がたまたま見てる時にソイツとキスしようとしたりしてたじゃねーか。でも、断られてて、ウケたけどよ。なあ?」

焦げ茶の男ーーアーサーは、シリル君に視線を向けて、同意を求めた。

シリル君は動揺を隠せない様子で、おずおずと私を見た。

「メイベル様、違うんです。メイベル様は、魔法科の実技で、俺がいつも見学をしているから、魔力を分けて下さると言って下さったんです。でも、魔力の受け渡しは、そ、その、体液のやりとりをしなければ貰えないので、俺は遠慮しただけで……を拒否した訳では……ゴニョゴニョ 」

シリル君の発言はだんだん小さくなり最後は聞こえなかった。

えっ、じゃあ、あの日記の最初のページにあった、魔力をあげようとしたのに断るなんて生意気、って書いてあったのはそれか……。

私が頭で考えていると、キャロライン様が話を纏めてきた。

「ようするに、メイベル様はアーサー様がお好きで、アーサー様に『私優しいでしょ』アピール&シリルとキスしようとする場面見せつけで、アーサー様に関心と嫉妬心を煽ろうとしたってこと? 」

「あ、じゃあ、初めから、シリルさんとは、キスする振りをするだけのつもりで、魔力をあげるつもりなんかなかったって事になりますわよね?」

ドロシー様が付け足した。

「私、そんなゲスな事しようとしたの……?」

私が顔を青ざめさせていると、シリル君が気遣って優しく話しかけてくれた。

「本当にただの親切心から魔力を俺にくれるつもりだったのかも知れませんし、本当の事は今のメイベル様には分からないのですから、お気になさる事はありませんよ 」

でも。そうじゃないって分かってる。

「ううん、キャロライン様と、ドロシー様の言った通りだと思う。日記には、シリル君に魔力譲渡を断られた日から、シリル君に意地悪していた事が書かれていたもの。シリル君、私、本当に酷い事してごめんなさい! 」

私は、再度土下座しようとしたのだが、シリル君に腕を掴まれ止められてしまった。

「もう、前の事は謝っていただきましたから。そんなに何度もあやまらないで下さい。それに、何で俺が嫌われていたのか、原因が分かってホッとしたくらいですし 」

そう言ってシリル君は微笑んだ。

「シリル君…… 」

私はまた、涙が出そうで瞳を瞬かせた。

「俺はその場面を見た後も、時々ソイツを虐めるお前を見かけてたんだ。お前は気付いてなかったみたいだがな。だからこんな性悪女と付き合えって言われても、ヤダねと言ってやったんだ。だが、2年になってからはソイツを虐めてないようだし、クラス委員に立候補したり、いろいろ噂は入って来るんだ。もともと見た目は美人で俺好みだからよ。今なら俺の彼女にしてやるって言いに来たんだ 」

「それはどうも……。でも私、本当に前の事は覚えてないんです。だから告白した事は、なかった事にして下さい。申し訳ありません 」

アーサーって男はちょっと変わった男だけど、シリル君を虐めるメイベルを振るなんて、悪いヤツじゃなさそうだと思いながらも、交際などする気はないので断った。

「本当に記憶喪失なのか……でもよ、前のお前が俺を好きだったって事は、俺がお前のタイプであることは間違いないだろ?このまま付き合っちゃおうぜ! 」

やっぱり軽い感じだな、アーサーさん……。

「いえ、結構です。どうぞお引き取り下さいませ 」

私は慇懃にお断りした。

「だーっ!なんでフッた俺が、フラれなきゃなんねーんだ?納得いかねー! 」

アーサーさんは、あ、一応伯爵らしいから様付けね、アーサー様は頭を抱えてもがいている。なんか、面白いな。

「ドロシー様、この方、お話の当て馬に使いません事? 」

私が提案すると、キャロライン様まで乗って

「それイイ~っ‼︎  」

とふたりで手を叩いた。
シリル君は目を覆って上を向いていたーー。

その日、家に帰って日記を確認する。

(最後まで、ちゃんと読んでおくんだった)

3月25日

アーサー様に告白した。
自信は割とあったのに。
断るにしても、「ヤダね」って、それだけ?
そんな酷い言葉で私をフるなんて!
信じられないーっ!


このページを最後に、メイベルの日記は途切れていた。


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