私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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親友格上げならず?

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やっぱり始まったか。

私は学園の下駄箱から出した、シューズを眺めて考える。

記憶喪失になった日、シリル君を虐めてたと思われる取り巻きたちが、ドロシー様とキャロライン様以外にも何人かいた。

短い休み時間で、その人たちとは言葉を交わさなかったのに、あれから誰も話しかけて来ない。

あの人たちは、平民で優秀なシリル君の事が気に食わない人たちなんだろう。

私が先陣切って虐めていたから、その人たちの溜飲が下がっていたのに、その私が彼と仲良くなってしまった。

あちらの立場から見れば、私は裏切り者のように映り、気に食わなくても分かる。

分かるけど、私はやめないよ、シリル君の友達を。

そんなことを思い巡らせていると、シリル君が真っ青な顔をして謝って来た。自分と関わったせいで……とか思ってるんだよね、シリル君。

「謝らないでよ?シリル君。ついでに言うと、こんな事くらいで、私、シリル君の友達やめないから、覚悟して」

私はシリル君に言い放つと、不敵な笑みを浮かべた。

喧嘩上等!
おばさんなめんな。

こうやって、影でコソコソするようなヤツに負けるメンタルなど、とうに持ち合わせていない。

精神が、みんなと同じ年頃でなくて良かった。あの頃の自分なら、泣いて家に帰って引きこもりになったかも。

「さあ、シリル君。何も恥じることなどない私たちは、正々堂々前を向いて歩くわよ! 」

私は胸を張って教室に向かった。



◇◇◇


「……やっぱりね 」

うん。分かるよ。シューズに落書きしたら、黒板にも書くよね~。

シューズに書かれた事と同じような内容が、黒板にびっしりと書いてある。

これって、オーソドックスなイジメの手法だよね。昔見た、相合傘まであるよ。懐かしい。

私とシリル君が教室に入ると、一斉に生徒たちが注目した。そしてヒソヒソと騒めく。

「みんな!おはよう‼︎ 」

私は大きな声でみんなに挨拶した。

「さ、シリル君。席に着こうねぇ~」

にっこり微笑んで、青い顔のままのシリル君を誘導する。けれど。

「……メイベル様、すぐに消して来ますから!」

シリル君は黒板の落書きを消そうと向きを変えた。

私は彼の手首を捕まえて言った。

「いいから。……行こ?」

私はシリル君の手首を掴んだまま、自分たちの席に向かった。

「シリル君。顔色が悪いけど、大丈夫?」

私はシリル君のあまりの顔色の悪さに心配になり尋ねた。

「俺は……俺は良いんです。……メイベル様の名声に傷がついてしまうのに、あれを消さなくていいのですか?」

辛そうに眉を寄せて、シリル君は私を見る。

「大丈夫だよ。私の名声は、シリル君と付き合っているだけで傷付いたりしない。ああいうのはね、消した方が負けなのよ。消してしまったら、また明日も書かれてしまうわよ」

私はにこりと笑って、シリル君の左手を両手で包んだ。

「それにね、このクラスの全員と友達になれなくてもいいの。シリル君が私と親友でいてくれるなら」

こっそり友達から親友に格上げを狙う私はそう言った。

薄い水色の双眸が揺れる。
ああ、やっぱりきれいだ。
こんなきれいな色が、醜いはずない。

私はシリル君の瞳に見入っていたが、頭上に手刀が降って来た。

「いだっ!」

私は涙目になりながら、手刀の犯人を睨む。

キャロライン様が元々つり目な目を更に釣り上げて、私を睨んでいた。

その横にはうるうる瞳を潤ませたドロシー様もいる。

「何がクラス全員と友達になれなくてもいい、よ。こないだ私たちの友情を忘れないでと言ったはずでしてよ?」

キャロライン様がそう言うと、ドロシー様も負けずに言った。

「そうですわよ!メイベル様っ!それに、今、シリルさんに、友達ではなく親友でいられるならって、しらっと格上げ狙って言いましたよね?わたくし、そういうのは聞き逃さないんですのよ⁉︎ 」

「あっ、バレた?」

私は舌を出して肩をすくめた。

「もちろんですわ。それに、どさくさに紛れて、その左手を撫で回している事もお見通しでしてよ?そんなことをなさっていたら、わたくしの妄想恋愛ストーリーが捗ってしまうではないですか」

ドロシー様、そういえば、最近は私とシリル君の身分差恋愛ストーリーを妄想してるとか言ってたな。

「それ!本にして、自費出版致しましょう!アンダーソン家が総力を上げて宣伝すれば、がっぽり儲かりましてよ。もちろん最後はハッピーエンドにして下さいませ、ドロシー様!印税の幾らかは、私とシリル君に回してちょうだいませね!」

私は調子に乗って言った。
おばさん、お金の話には目がないのだよ。

ああ、それにしてもシリル君のかさついた手気持ち良い。中指に硬いペンだこがある。たくさん勉強頑張っているんだろうな。

そんなことを思い巡らせながら、なおもシリル君の指の形を辿っていると、キャロライン様が私の手首に手刀を入れた。いだだっ!

「この痴女がっ!いい加減にその手をお放しっ!シリルの顔が、青から赤に変わっていましてよ?」

目の前には、真っ赤になって、俯いたシリル君がいた。私は急いで手を離す。

「あっ!ごめんなさい!シリル君。
私、調子に乗りすぎちゃったね、もうしないから。
ホントにごめんね?」

眉を下げて私が謝ると、

「……いえ……」

と、シリル君は小さく返事をしてくれた。

その後、キャロライン様とドロシー様も、シリル君に前の行ないを謝ってくれ、優しいシリル君はもちろん許してくれた。

こうしてイジメなのか嫌がらせなのか分からない状況の中、私たちの友情は深まった。


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