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泣いたカラスがもう笑った
しおりを挟む私は泣くだけ泣いて、ヒックヒックとしゃくりあげた。
なんでこんなに感情が溢れているんだろう?
大人なはずのこの私が、子どもに戻ったみたいだ。
そんな風に感じる頃、私は冷静さを取り戻していた。
シリル君はその間、ただ困ったように立ち尽くしていた。
「……なんで私が泣くのよねぇ? 泣きたいのはシリル君の方だよねっ。ヒック。ごめんね 」
私は言いながらも拭くものがなく、顔が大変な事になっているから困ったなぁと思っていた。
「……あの。僕の髪を束ねていたものなど、お嫌かもしれません。これしかないのですが、使われますか?」
シリル君が、自分の髪を束ねるのに使っていたスカーフを差し出してくれた。
解放されたきれいな銀髪が、広がっている。
やっぱり綺麗だ。
「……いいの?」
「お嫌でなければ。どうぞ、遠慮なく使って下さい」
「……ありがとう……」
差し出されたそれを受け取ると、私は涙や鼻水を遠慮なく拭かせてもらった。
申し訳ない。でも、助かった。
「シリル君、これ、私にくれる? 代わりに新しいのをプレゼントするから」
私が問うと、シリル君は柔和な声音で答えてくれた。
「代わりなんていいですよ。どうせ古いものでしたから」
やっぱり優しい人だ、シリル君は。
でも。
「ダメっ! 絶対に返すからっ!」
強引に言うと、シリル君はクスッと微笑んだ。
「わかりました。でも、急がなくていいですから。無理はしないで下さいね」
シリル君。
君は平民だけど、紳士だね。
うん。
私はそんな紳士につけ込むよ。
「……ねぇ、シリル君。本当に私を許してくれるのなら、私と友達になってくれる?」
上目使いで。
潤んだ瞳で見つめてみる。
妖艶美女の体を手に入れた私、なめんな!
……って、嫌いだった女に媚び売られたら腹立つかな?
この容姿が功を奏するのかを考えながら返事を待っていると、シリル君がうつむき加減で口を開いた。
「……それは、やめておきましょう。僕といて良いことなんて、メイベル様には何一つありませんから」
「どうして? 私にとってはシリル君と友達になれただけで、すごく良いことになるんだけど」
だって、ここに来てからの最初の目標が達成できるんだもの。
「僕は平民なので、高貴な貴女と友達だなんて恐れ多いです。しかも僕は、こんなに醜いですし。一緒にいれば、貴女まで立場を悪くしてしまうでしょう。クラス委員は仕方ないですが、それ以外、どうか僕とは関わらないで下さい」
「やだっ!! そんな理由じゃ諦めないっ! 身分なんて、私にはどうでも良いことだもん。…… シリル君が吐きそうなくらい私を嫌いだっていうのなら……しばらくは諦めるけどっ」
「……しばらく、ですか?」
「うん。しばらくは我慢する。だけど少しずつ近づいて、絶対友達になってみせる!」
拳を握りしめて宣言すると、シリル君は一瞬目を見開いた。
そしてプッと吹き出し、クスクスと笑った。
「本当に……今のメイベル様は、前とは別人でいらっしゃるのですね。僕からは声をかけられないと思いますが、それで良ろしければ遠慮なく話しかけて下さい 。でも、無理はしないで下さいね。嫌になったら、いつでも捨て置いて下されば結構ですから 」
よし! 言質は取った!!
私が捨て置くはずないっしょ♪
「ありがとう!! シリル君。絶対嫌になったりしないよ! この私でいる限り」
シリル君の右手をがしっと掴みに行く。そのままブンブンと振り回す。
勢いよく握手しながらお礼を言った。
「嬉しい~! 私、シリル君と親友になるのを目指してるから! これからどうぞよろしくね~♪ 」
泣いたカラスがもう笑った。
そんな諺が、記憶にある日本ってところにあったっけ。
鼻水と涙で汚れたスカーフを左手に握りしめ。
私はにこにこ満面の笑みを讃えながら、シリル君と一緒に教室に戻った。
私は嬉しくて、嬉しくて。
午後の授業はルンルン気分で受けられた。
(あーっ、ルンルン気分とか、死語だっけかぁ? おばさんてバレバレ~!)
◇◇◇
4月8日火曜日。
・鈴蘭学園2年生になって、初登校した。(始業式は昨日で休んじゃったけど)
・担任の先生はコンラート先生。
・席がなんと、探すはずのシリル君の隣だった!
なんてラッキー!!
・シリル君は、人とエルフのハーフで、銀色の髪と、水色の瞳の好印象なフツメン君だった。
・この世界は、髪や目の色が濃いほど魔力が多く、美しいらしい。
(魔力については聞きそびれたから、どんなものかよく知らない。友達になれたから、シリル君に教えてもらおうっと)
・シリル君は、この世界の美的感覚のせいと、エルフと人との混血児って事で「醜い」と認識されているらしい。あんなに綺麗な色なのになぁ。
・私とシリル君はクラス委員になった。一年間、友情を深めながらふたりで頑張るのだ!
・シリル君に、メイベルがいじめていたことを謝罪する事ができた。シリル君は紳士で天使で清らかな魂の持ち主だったから、すぐに許してくれた。
・シリル君が、いつでも話しかけて良いと言ってくれた。それってもうお友達ってことかな? うん。勝手にそういう事にしておこう!
・元いじめっ子仲間らしいドロシー様とキャロライン様。彼女らは話してみるとそんなに悪い人たちではないみたい。これからはいじめなんかしないで、いい友達になれるかも。まだ、どうなるかわからないけど。
夜の日記をつけ終えると、大きなあくびをひとつした。
ん~。充実した一日だったなぁ。
私はお嬢様仕様のふかふかベッドに入り、明日に備えて眠ることにした。
おやすみなさ~い。
応援ありがとうございます!
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