私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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泣いたカラスがもう笑った

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「失礼しました……」
 衣服を整えた後、透は実験準備室のドアに手を掛けた。
 そこへ、司の声が追ってきた。

「望月」
「……はい」

 ドアから体を半分出した状態で、透は後ろを振り向いた。
 白衣の司は、何事も無かったかのように、安全マニュアルに目を落としている。
 透に視線は寄こさないまま、彼は淡々と言った。

「来週の水曜日も、待ってるぞ」
「……」
「返事は?」
「……はい」

 そこでようやく顔を上げた司と、透は目が合った。
 そして、見てしまった。
 ちょっと気難しい司が、たまに見せる優しい笑顔を。
 ドアを閉じ、透は彼の笑顔から、慌てて逃げ出した。

 熱いひとときの後は、羞恥と後悔が待っていた。
 人気のない廊下を歩きながら、さらに絶望の味を噛み締めていた。

 多分、僕は。
 もう、逃げられない。
 この甘い地獄から。

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