1 / 48
勝ち組かと思ったら懺悔からのスタートだった。
しおりを挟む「……あら?私、こんな姿をしていたかしら? 」
目の前に映る鏡の中の自分を見て、私は突如、違和感を感じた。
黒目黒髪に違和感はないのだけれど、真っ白で瑞々しい肌、艶々の髪。
なんだか、もの凄く若返ったみたい。
それに顔のパーツも、以前の自分とは違う気がする。
涼やかな二重にきれいな鼻筋、少し厚めの色っぽい唇。
しかも、あれですよ。
美人にしかついてなさそうな涙ぼくろ。それ、ついてますよ、私に。
私は確か、フツーなおばさんだったと思うのですが?
肌はもっと黄色人種的な色だったし、顔のパーツは凹凸が少ないのっぺりとした「ザ・日本人」だったはず。
若い頃だってブスではない筈だけど、こんな妖艶美女ではなかったよね?
自分のほっぺを指でつんつんしてみる。鏡の中の私も真似してる。
「やっぱり私なのね。それにしても肌に弾力ありすぎっ! 赤ちゃんみたいなモチ肌じゃないっ!」
私はおばさん特有の図太さで、この非現実的な状況を受け入れた。
「なんだかよく分かんないけど、こんな綺麗な美女になったんならお得じゃない。人生勝ち組で、もう一度やり直せるなんて最高! 楽しんじゃおうっと! 」
鏡の中の私は、若い美女には似合わない”ガッツポーズ”をしていた。
◇◇◇
「メイベルお嬢様、お着替えのお手伝いに参りました。失礼致します 」
洋風な部屋の中で、私は中世の貴族令嬢みたいな美しいドレスを身につけていた。
ノックの後に部屋に入って来たのは、シンプルなメイド服を来た若い女性だった。
「私って、メイベルって言うの? 」
ついそのメイドに尋ねると、彼女は顔を引きつらせた。
「メイベルお嬢様? 何を仰います? わたくしをからかっていらっしゃいますか? 」
そうだよね~。
自分の名前を聞くなんて、頭おかしくなったのかと驚くわよね~。
でも、『私、中身がそのメイベルって令嬢と違うおばさんなんです』なんて言ったら、もっとドン引きされてしまうわよね~。
この部屋、この服、彼女の身なりからして、ここは時代が中世っぽい。だからへんなことを喋ったら、狂人として幽閉されてしまうかも?
危機感を覚えた私は、咄嗟に適当なことを答えていた。
「あー。えっとね? 私、夜中に寝相悪くてベッドから落ちたみたいなの。その時頭を打ったみたいで、記憶がぶっ飛んじゃったみたいなのよ? 」
今の状況。いい感じに設定できたわ。
ふふん。
おばさんの適応力なめんなよ?
私はファンタジー小説が大好きだったし、このくらいの言い訳はチョロいのよ。
「それは大変です! お嬢様、わたくしの事はお分かりですか? 幼い時から一緒の乳姉妹の、わたくしですわよ? 」
中身が日本人のおばさんにわかるはずもなく。私は眉を下げて申し訳なさそうに答えた。
「ごめんなさいね、分からないわ。あなた、私とは乳姉妹なのね 」
するとその女性は、みるみる涙を浮かべ、叫びながら部屋を飛び出して行ってしまった。
「旦那様ー! 奥様ー! メイベルお嬢様が大変でございますぅ~!! 」
案の定、その後は大騒動だった。
両親とおぼしき人達が部屋に飛び込んで来るわ、医者が運び込まれるように連れて来られるわで大変だった。
医者の見立てでは、記憶はなくしているものの他には異常が見当たらないという事で、とりあえず両親は落ち着いてくれたようだ。
この見解は、ある意味間違いではない。私も日本人だったって感覚はあるんだけれど、それ以上の記憶はほとんどないから。
記憶は少しずつ戻るケースもあるし、戻らないケースもあると医者は告げた。つまり、「今後どうなるかわしゃ知らん」って言っているのである。
医者は顎髭を扱きながら、「とりあえずストレスがかからない生活を」と述べると帰っていった。
ティーンエイジャーらしきほど若返った私はその日、学園に行く予定だったらしいけれど、お休みすることになった。過保護っぽい両親から室内安静を言い渡されたのだ。
それからは頻繁にメイドがやって来て、あれやこれや世話を焼こうとするので落ち着かない。
これじゃ余計にストレス溜まるわ。深窓のご令嬢とやらも大変なのね~。
やっと夜になり、ひとりになれた私は、美しい机に向かって座り、溜息を吐いた。
「さあ、これから私。どうやって生きてく事になるのかしら? この新しい私のことが分かる何かがあるといいけれど…… 」
そう思いながら、机の引き出しや本棚などを探ってみると、一冊の分厚い日記帳のようなノートが見つかった。
手に取ってめくってみる。
〈シリルのヤツ、平民のクセに生意気。私が魔力をあげると言ってやったのに、断るなんて。飛んだ恥をかかされたわ。あんなヤツ、明日から虐めてやるんだから〉
最初のページには、そんな言葉が綴られていた。
「何? この感じ悪い文面は! 」
驚きながら、次のページをめくってみた。
〈今日は校庭で草取りの作業があった。みんな魔法で草を取っているのに、シリルのヤツは手で抜いてたからみんなで馬鹿にして笑ってやったわ。いい気味。みんなが草を取った分だけアンタもやりなさいよ、と言ったら、放課後残って続きをやってたし。馬鹿じゃないの。先生に言われた訳じゃないんだから、あんな言葉は無視すればいいのにさ〉
〈シリルのヤツ、たくさんの荷物を抱えた女子の手伝いをしようと声をかけてたけど無視されてた。いい気味! 醜いアンタなんか、誰も相手にしないわよ~だ! ふふっ、わざとそばに行って笑ってやったわ〉
〈今日は女子たちみんなでジャンケンをした。負けたドロシーがシリルのヤツを呼び出して愛の告白をしたのよ。シリルのヤツ、頬を染めてオロオロしていたから、みんなで出て行って笑ってやったわ。ああ良い気持ち!〉
…………。
「なんなの? コレ……。小学生の男の子が、好きな女の子をいじめるレベル? ううん、それよりも悪質な気がするわね 」
だけどもしかして、これが私なの?
冗談キツいわ~!
おばさんはね~、あらゆる荒波に揉まれてきたんだから、正義感だけは強いのよ。
こんなに図太くなってしまったけれど、人を傷つけたり傷つけられたりするのは大嫌いなの!
コラッ! メイベル、 謝んなさい!! シリルって子に!
……って、それ自分だぁ~!
「仕方ないわね~。今度シリルって子に会ったら謝って、私のお尻ペンペンさせてあげよう。それで許してくれるといいんだけれど 」
せっかく妖艶美女になれて勝ち組だと思ったのに、懺悔から始まるのかよ~!
やれやれ。
「ハァ~、どっこいしょっと 」
私は椅子から立ち上がり、ベッドに向かった。
「悩んでも仕方ないことは、悩まない。寝るに限るわ」
中身が潔いおばさんな私は、転生だとか、イジメだとか、難しいことを考えるのはやめて、さっさと眠ることにした。
睡眠が一番の解決策なのである!
20
お気に入りに追加
676
あなたにおすすめの小説

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)
多賀 はるみ
恋愛
私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。
そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?
今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります!
-------だいぶふわふわ設定です。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる