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女嫌いの王子様
しおりを挟むそれからと言うもの、なぜかナディル様は、毎回ジョゼフ様と一緒に遊びにいらっしゃるようになった。
「マーシャが風邪で」
「マーシャが腰痛で」
「マーシャは今、遠方に買い物に」
などと、明らかな嘘をつく必要がどこにあるのか分からなくて、私はついに、堪えきれなくて吹き出してしまった。
「何だ?! 何がおかしい?!」
ナディル様は顔を赤くして言うけれど、おかしいに決まっているじゃない。
「ナディル様、先ほど私、マーシャ様のお姿を窓から拝見しましたよ」
「なっ」
私はクスクス笑いながら言った。
「素直に一緒に遊びたいっておっしゃったらいいのに。別に、大人が子供と遊んだっていいじゃありませんか」
「バッ......! ばかを言うでない!! 私はそのような理由でここへ来ているわけじゃない」
「じゃあ、何でですか?」
私は興味半分でナディル様に尋ねた。
「あのね、みく。ちい兄様は、女性恐怖症なんだよ。近いうち、立太子するためには、先にお嫁さんを貰わなきゃならないんだけど、そのために、女性恐怖症を一刻も早く克服するようにと父上から厳しく言われているんだ。だから俺と一緒になら、みくの部屋に来れると言ってね」
事情を知っていたジョゼフ様がナディル様を慮って事情を説明してくれた。
「まあ。そうだったのですか。でも、なぜ私のところを選ばれたのですか?」
「......そなたは私を初めて見た時、私に強い関心を持たなかっただろ。ついでに試しに兄上よりも私に仕えないかとカマをかけてみたが、そなたは兄を裏切らなかった。それどころか醜いと言った私に、相手が王太子候補であるにも関わらず、ピシャリと苦言を呈したところを買ったのだ。そなたなら、信用できるし、女性嫌悪克服のきっかけになる気がしたのだ」
「そうだったのですね......。でも、どうして女性がお嫌なのですか?」
私たちは、遊びをやめてソファに座り、話を続けた。
「ちい兄様は、これだけの美貌だろ。茶会やパーティでは、着飾った香水のキツい厚化粧の令嬢たちに囲まれて、度々どさくさに紛れて身体を触られたり、しつこく付き纏われたりするうちにね。幼い頃からそんなことされたら、俺だって女嫌いになるだろうなあ」
ジョゼフ様がそう言って教えてくれた。
「なるほど。......でも、克服すると言っても、そんなに長きにわたるトラウマを、そう簡単に克服できるものかしらねえ、アメリアさん」
「そうですわね。でも、立太子は急がねばなりませんわ。アスラン殿下の派閥との均衡を図るためにも、必要なことですもの」
「そうなんだ。それじゃあ、アスラン様のためにも、ナディル様の女嫌いを治すお手伝いをしなければね」
私は少し考えて、アメリアさんにこそっと耳打ちする。
アメリアさんが頷いたのを確認して、二人視線を合わせてソファから立ち上がった。
「なっ! 何だ?!」
私とアメリアさんは、ナディル様の両脇に密着して座った。そしてそれぞれに近い方の腕に手を回した。
「うわっ!! やめてくれ!!!」
ナディル様はお顔を真っ青にして目をギュッと瞑った。
私とアメリアさんはすぐに離れて、元のソファに座り直した。
「ごめんなさい、ナディル様。......女嫌いは相当のものですね。どうしたらいいかしら」
想像以上にお辛そうなナディル様を見て、私は思案にくれてしまった。
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