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実はまだ、狐ではないかと疑っている⑷ 〜アスラン視点
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娘は人に化けた狐だと思う。
なぜなら、それしか辻褄が合わないでははないか。
普通に言葉は喋るのに、見たこともない文字を書いたかと思うと、この国の文字の読み書きはできないという。
だいたい記憶喪失っていうのもおかしな話だ。
普通、記憶喪失なら人のことや自分のことがわからなくても、物の名前や生活に関する習慣などは忘れないと聞く。
しかし娘はポンケーキも知らぬし、食器の洗い方ひとつわからないのだ。
それに時々私の知らない言葉を使って話したり。
それにあの度を超えた美しさ。
彼女は何もかもが謎めいている。
そして何より、狐だと思える理由は、私に対して恐怖も嫌悪もなく、普通に接してくれることだ。
それだけでなく、私が娘の素肌に触れてしまったというのに、そんなに怒るでもなく許してくれた。
更には醜い私の身体を触りまくったりもするし、少しもためらう様子なく、私の寝室にベッドを入れてくれと言ったりするのだから......。
それが人間の女であるはずがない!
そんな女は、散々見合いの時に探したが見つけられなかったのだからーー。
そしてついに寝る時間になった。
私は自分から寝るとは言い出せなくて、どうしようかと思っていたのだが、娘の方から私の手を引き寝室へと導いてくれた。
握られた手の心地よかったこと。今でも感触が残っているようだ。
私が布団に横たわると、聖母ような微笑みを見せて「おやすみなさい」の挨拶をしてくれた。
私は挨拶をちゃんと返せたのか記憶にないほど彼女の微笑みに見惚れてしまい、当面眠れず思考に耽っていた。
見た目は幼い少女なのだが、時折どきっとするほど女を感じさせる。
......月のものがあるようだから、子供ではないのだな。
それはもう、男のものになっていいと言う証なのだから......。
私はかぶりを振って邪な思考を振り払う。
何を考えている、私は......。
そうこうしていると、衝立の向こうから、娘が泣いているような気配がした。
やはり、今更ながら、私と同じ部屋で寝ていることが怖くなったのだろうか。
こんな邪なことを考える男の部屋にいるのだものな......。
そう思って私は娘に声をかけた。
「泣いているのか?やはり私がいるから怖「違います」」
全部言わないうちに否定された。
ならば私が原因ではないと言うことか?
私は確認するように尋ねた。
「私はここにいて良いのか?」
娘ははっきりと私に答えた。
「絶対そこにいてください。私のそばにいて下さい」
......私はそばにいていいのか。それを望んでくれるのか。
私はギュッと胸が締め付けられるような心持ちになった。
ならば私にできることを精一杯してやろう。
そなたの悲しみが薄れる方法は......。
そうだ、私が幼い頃にナシャに吹いてもらった横笛。
悲しい時に吹いてくれて、随分慰めになったのを覚えている。
今はナシャの形見となってしまったが......。
私はサイドテーブルから横笛を出して静かに吹き始めた。
娘は何も言わないから、このまま吹いていて良いのだろう。
娘の泣き声が止まるまで、私は笛を吹き続けた。
なぜなら、それしか辻褄が合わないでははないか。
普通に言葉は喋るのに、見たこともない文字を書いたかと思うと、この国の文字の読み書きはできないという。
だいたい記憶喪失っていうのもおかしな話だ。
普通、記憶喪失なら人のことや自分のことがわからなくても、物の名前や生活に関する習慣などは忘れないと聞く。
しかし娘はポンケーキも知らぬし、食器の洗い方ひとつわからないのだ。
それに時々私の知らない言葉を使って話したり。
それにあの度を超えた美しさ。
彼女は何もかもが謎めいている。
そして何より、狐だと思える理由は、私に対して恐怖も嫌悪もなく、普通に接してくれることだ。
それだけでなく、私が娘の素肌に触れてしまったというのに、そんなに怒るでもなく許してくれた。
更には醜い私の身体を触りまくったりもするし、少しもためらう様子なく、私の寝室にベッドを入れてくれと言ったりするのだから......。
それが人間の女であるはずがない!
そんな女は、散々見合いの時に探したが見つけられなかったのだからーー。
そしてついに寝る時間になった。
私は自分から寝るとは言い出せなくて、どうしようかと思っていたのだが、娘の方から私の手を引き寝室へと導いてくれた。
握られた手の心地よかったこと。今でも感触が残っているようだ。
私が布団に横たわると、聖母ような微笑みを見せて「おやすみなさい」の挨拶をしてくれた。
私は挨拶をちゃんと返せたのか記憶にないほど彼女の微笑みに見惚れてしまい、当面眠れず思考に耽っていた。
見た目は幼い少女なのだが、時折どきっとするほど女を感じさせる。
......月のものがあるようだから、子供ではないのだな。
それはもう、男のものになっていいと言う証なのだから......。
私はかぶりを振って邪な思考を振り払う。
何を考えている、私は......。
そうこうしていると、衝立の向こうから、娘が泣いているような気配がした。
やはり、今更ながら、私と同じ部屋で寝ていることが怖くなったのだろうか。
こんな邪なことを考える男の部屋にいるのだものな......。
そう思って私は娘に声をかけた。
「泣いているのか?やはり私がいるから怖「違います」」
全部言わないうちに否定された。
ならば私が原因ではないと言うことか?
私は確認するように尋ねた。
「私はここにいて良いのか?」
娘ははっきりと私に答えた。
「絶対そこにいてください。私のそばにいて下さい」
......私はそばにいていいのか。それを望んでくれるのか。
私はギュッと胸が締め付けられるような心持ちになった。
ならば私にできることを精一杯してやろう。
そなたの悲しみが薄れる方法は......。
そうだ、私が幼い頃にナシャに吹いてもらった横笛。
悲しい時に吹いてくれて、随分慰めになったのを覚えている。
今はナシャの形見となってしまったが......。
私はサイドテーブルから横笛を出して静かに吹き始めた。
娘は何も言わないから、このまま吹いていて良いのだろう。
娘の泣き声が止まるまで、私は笛を吹き続けた。
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