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貴方なんて全然好みじゃなくってよ!〜他の殿方?全員圏外に決まってますわ!
しおりを挟む「お嬢様、お時間ですよ」
侍女のハンナが催促してくる。
「嫌よ!私、行かないっ!」
私は思いっきり頬を膨らませ抵抗する。
「お嬢様」
「だって!私はお城から白馬の王子様が迎えに来るのを待ってるんだもの!」
私は両手を握って力強く言い放つ。
ハァ~とわざとらしくため息を吐いたハンナが半目になって言った。
「いいですか、お嬢様。
城から来るような王子様は王族ですよ。男爵家ごとき……げふんげふん……男爵家も立派な貴族ではありますが、釣り合いというものがございます。
それに、お嬢様は、王子様の名前もお顔も、ご存じないのでございましょう?」
「そんなの、王子様なんだから、かっこいいに決まっているじゃない!それに、身分を越えた愛だってあるって聞いたわ!」
私はなおも食い下がる。
「そんなものは、物語か乙女ゲームくらいのものですわ」
「乙女ゲーム?」
意味がわからない言葉があったので聞き返したけれど、ハンナは目をキョドらせて誤魔化してきた。
「い、いえ、なんでもありませんわ。
とにかく、身分を越えた愛など、現実にはまずありえませんわ、お嬢様」
そう言って私の首根っこを猫をつかまえるようにして持ち上げた。
「さあさあ、たわ言はそれくらいにして、お支度いたしましょう」
ハンナ、あなた、主人に対する扱いおかしくない?
不満に思いつつも姉的侍女に逆らえず私は美しく整えられて言った。
私はリモーネ・マクロード10歳よ。
マクロード男爵の一人娘なの。
ちょっとつり目で気が強いところがたまにキズだけど、誰よりも可愛いとお父様はおっしゃるわ。
だからきっと、憧れの王子様も私を好きになって迎えに来てくださると信じているの。
それなのに。
隣領の子爵家の領主様が、息子と婚約させたいと言って来たのですって。
冗談じゃないわ。
私はお父様にお話を断ってとお願いしたのだけれど、
「ルーベル子爵家は豊かだし、領主の評判もすこぶる良いんだ。良縁だと思うぞ?会うだけでも会ってみた方がいい」
とおっしゃったの。
お母様はすでに婚約が決まったかのように喜んでいるから、それ以上言えなくなって今日を迎えてしまったのだけど。
「お美しいですわよ、お嬢様」
自分の仕事に満足した様子のハンナが褒めてきた。
「こうなっては、仕方ないから行くけれど、婚約なんてしないんだからねっ」
ーーーーーー
こうして私は子爵家へやってきた。
うちより大きなお屋敷に豪華なお庭。私はここに嫁いだらお姫様気分かも……とちょっとだけ脳裏をかすめたけれど頭を振って払いのけた。
ふぅ、危なかったわ。
お父様にエスコートされて玄関に向かう。
玄関前にはすでに執事らしき人が待っていた。
「お待ちしておりました、マクロード様」
執事は恭しく挨拶をして屋敷に招き入れた。
サンルームに案内され、メイドがお茶と菓子を出してくれた。
どちらもうちより物が良いみたい。
美味しいわ。
にこにこ茶菓子を頬張っていると
領主と息子らしい人が入って来た。
私はその男の子を見て目を見開いた。
金髪碧眼の王子様ではないか……!
私は彼を見たとたん、
(そうよね、ハンナの言う通りだわ。釣り合いってものは大切だし、見た事もない王子なんて、どんな方かもわかったもんじゃないわ)
あっさりと考えを翻したのだった。
領主様が自己紹介した後息子の紹介をした。
金髪碧眼王子もどきの子は
「マクシミリアン・ルーベル です。よろしく」
とぶっきらぼうに言った。
私はすっかりチョロインであったのだが、あまりに好みのタイプなのでツンデレのツンが爆裂してしまった。
身体をブルブル震わせ、熟れすぎたトマトのような顔をして言った。
「貴方なんて、貴方なんてっ、ぜんっぜん私の好みではなくってよ……!」
言ってからハッと青ざめる。
(な、何言ってんの私‼︎ モロ、好みど真ん中じゃないの……‼︎ )
涙目になっていると、マクシミリアンも真っ赤になって震えていた。
「な、なんだと……!
お前こそ、ぜんっぜん好みじゃねぇよ‼︎ 」
爆裂拳を弾き返されて、私はたじろいだ。
「な、何よ!ちょっと金髪碧眼の王子様みたいだからって……将来すごいイケメンになるなんて、爪の先ほども思ってなくてよ‼︎ 」
「俺だって、赤髪に少しつり目が可愛いなんて全く思ってないからな!
気の強そうなところも良いなんて、逆立ちしたって思わないぞ‼︎ 」
ふたりはトマトから湯気を出す勢いで、ほめているのか貶しているのかわからないやり取りを続けた。
お互いの両親は苦笑いをして後に話をすることになった。
ーーーーーー
「で?マクロード殿。いかがでしたかな?ご令嬢は」
「はあ、娘は(私は別にどちらでも構わないんですけど、マクシミリアン様がどうしてもというなら婚約者になっても良くってよ)などと申しておりますが、ツンデレ翻訳ができるといううちの侍女に聞いたところ、(私はどうしてもマクシミリアン様の婚約者になりたいから、取られないように早く契約を交わして)と言っているとのことです。
して、ルーベル殿のご子息はいかがでございましたかな?」
「私の方も、(あんなプライドが高くては他の男が大変だろうから、俺が引き受けてやらないでもない)などとほざいておったわ。顔を赤らめて言うセリフではなかろうに」
「「決まりですな」」
こうしてふたりは晴れて婚約者となった。
ーーーーーー
そしてマクシミリアンが13歳、リモーネが11歳になり、マクシミリアンが王都の学校に入学するため、家を離れることになった。
マクシミリアンが引っ越す3日前、リモーネはルーベル子爵家を訪れていた。
「マクシミリアン様、わたくし、別に遠距離恋愛なんて何とも思いませんし、マクシミリアン様が王都の垢抜けた美女と仲良くしようと全く気にもならないんですけれど、うつつを抜かして勉学に支障が出ないか今から心配ですのよ」
リモーネはいつものツンに切れがないのを自覚しつつも、俯いてそう言った。
「俺だって、リモーネが、俺がいない間に別のやつにデレたりしたらどうしようなんて、これっぽっちも思ってないさ。簡単に騙されないように、社交界に出ないで欲しいとかも考えたことないし」
ふたりは相変わらずの会話をしていると、侍女のハンナが迎えに来た。
「リモーネお嬢様、帰るお時間ですよ」
リモーネは、これで当面会えなくなると思うと涙が溢れて来たが溢れ出ないようグッと堪えた。
「マクシミリアン様、わたくし、寂しくなったり、会いたくてしかたなくなったりはきっとしないと思いますけれど、風邪を引いて目や鼻から水が出てしまったら、どうしたらいいかしら?」
「そん時は……俺に手紙を書いたら良い。別に俺が欲しいわけじゃないが読んで返事くらいはしてやる」
こうしてふたりは離れ離れになったのだった。
ーーーーー
拝啓 マクシミリアン様
マクシミリアン様、お元気ですか?
私はまた謎の風邪で目と、鼻から水が出て困っていますの。
きっとマレの花が咲いたからですわ。
決してマクシミリアン様に会えないからとか寂しくてたまらないからとかではなくってよ。
だって私にはたくさんお友達がいますし、お父様やお母様もお優しいですもの。
それなのに、謎の風邪が治らなくて、とても悲しいです。
庭いっぱいに咲くマレが美しすぎて、風邪が治らないのです。
別にマクシミリアン様のお返事が欲しいとか思っていませんけれど、どうしても書きたいなら送ってくださってかまいませんわよ。
マクシミリアン様、わたくし心配などしてはいないのですけれど、お風邪には気をつけてくださいませね。
婚約者のリモーネより。
ーーーーー
リモーネはマクシミリアンが王都に行ってしまって悲しくて寂しくて仕方がない。
そんな時は手紙を書けば良いと言ってくれたマクシミリアンに、毎日せっせと手紙を書く。
内容は庭の花が咲いたとか、庭の木にリスがいたとか、雲がケーキの形だったとか、どうでもいい事を書いたのだが、マクシミリアンは律儀にそれに返事を書いてくれた。
時には花を贈ってくれたりもした。
誠実なマクシミリアンにますます恋しさが募るリモーネだった。
けれどもリモーネも、本格的に淑女教育を受けなければならなくなり、
毎日書いていた手紙は3日おきになり、一週間おきになり、ひと月おきになっていった。
そして、マクシミリアン17歳、リモーネ15歳になった。
この頃には3か月おき程度の手紙になっていた。
決して手紙が億劫になったのではなく、幼い頃のような、未熟な文章を書くのが年頃になり恥ずかしくなっ
たせいだ。
考え過ぎて、上手く書けなくなったのだ。
マクシミリアンは卒論などで忙しくなったらしく、最近は手紙の返事の代わりにネックレスやブレスレットが贈られて来ていた。
「はぁ~っ、マクシミリアン様はどうしているかしら。
最近はプレゼントが時おり送られてくるけれど、手紙が来ないから状況がちっともわからないわ。
わたくしのこと、忘れてしまったのではないかしら」
ひとりボヤいていると、珍しくハンナにしては優しい言葉をかけてくれた。
「お嬢様。お寂しいのも後少しですわよ。マクシミリアン様がご卒業なさったら、一番にお嬢様の元へ会いに来てくださいますわ」
そして、暖かい紅茶を入れてくれた。
ーーーーーー
それからまたふた月が過ぎた頃。
「リモーネや。お父様は今日、お前に良い知らせを持って来たぞ。」
「何ですの?お父様」
「マクシミリアン君がこちらへ帰って来るそうだ。良かったな。」
私は瞳を輝かせて尋ねた。
「本当ですの⁉︎ いつ、いつ帰っていらして?」
「それなんだがな。3月25日にマクシミリアン君の卒業パーティーを子爵家で開くから、リモーネも来て欲しいと言っていたよ」
それを聞いてから、リモーネはそわそわしっぱなしだった。
マクシミリアンに少しでも美しく成長したと思って欲しくて、ドレスを選んだり、頂いたアクセサリーを合わせたりしながらパーティの日を心待ちにした。
ーーーーーー
そしていよいよパーティ当日。
ハンナが腕によりをかけて着飾ってくれたリモーネは、ドキドキしながら子爵家へ出向いた。
お父様は他の方と話をしているので
私は一生懸命マクシミリアン様を探している。
見当たらないので庭の方へ足を踏み入れて見ると……。
「リモーネ」
薄暗いライトの下に金髪碧眼の精悍な男性が立っている。
その瞳は優しく細められ、唇は弧を描いて静かに微笑んでいる。
「あ……」
声も出ない。
リモーネは素敵に成長したひとりの男性に目が釘付けだ。けれど身体はピクリとも動かない。
「ま、まく、しみり、あん、さま……?」
たどたどしく呟くと男性は笑顔をより一層深めた。
「そうだよ。ただいま、リモーネ」
男性はリモーネにそっと近づいて、優しく抱擁した。
「ずっと、君に会いたかったよ」
あまりの色気ある男性に、リモーネは真っ赤になって口をパクパクさせながらなんとか声を出した。
「なっ、なっ、何ですの、マクシミリアン様……?ツンは……?ツンはどうなさいましたの……?」
こんな本物の王子様みたいになって帰ってくるなんて……。
ツンデレな少年のマクシミリアン様はどこへ行ったの?
「ハハッ、俺はもともとツンデレじゃないからね、もうやめたよ。
ツンデレをしていると、リモーネを甘やかしてやれないからな?」
マクシミリアン様は私の頬を撫でながら甘い声で言う。
「なっ、ツンデレではなかったのですか?」
「最初会った時に、好みじゃないと言われて動揺してツンツンしたら、なんとなくやめれなくなっただけだよ。俺も子供だったから」
そんな……。
「わたくし、ツンデレじゃないマクシミリアン様とどう接していいかわかりませんわ。しかも溺愛⁈ わたくし、苦手ですわ」
リモーネがぶつぶつ言っているがマクシミリアンは気にもせずに髪を撫でる。
「大丈夫。どんなリモーネも、俺がたっぷり愛してあげるから」
(そんなの困る、わたくし心臓がもちませんわ~!)
リモーネは、立派になった婚約者に翻弄される予感しかしないのだった。
~終わり~
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可愛いが心臓に刺さりまくりましたw
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yuriさん、コメントありがとうございます!
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話の後を、いろいろ妄想して楽しんでもらえたらと思って書いた作品です。