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必要とし必要とされる関係〜ローランド視点
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カスミがドレスを仕立て、ダンスを習うために王宮へ行った。
私はこれまでのひと月を、カスミに慣れて貰うために詰所で過ごした。
幸い大きな事件もなかったので、外回りの対処の際にはウィリアムに指揮を頼んでいた。
カスミは一週間王宮に滞在する予定だったので、無理をさせた分、ウィリアムには休暇を取らせ、自分が外回りをしていた。
ひと月の間、いつも寄り添っていてくれた彼女がいない。自分の身体の一部を無くしたような喪失感があった。
たったのひと月で、これ程までに他人が自分の心に入り込むとは思ってもみなかった。
ぽっかりと開いた穴を埋めるべく、仕事に邁進していたが、書類仕事は捗らない。
ひとり執務室で紅茶を飲んでいる。
窓辺に向かって座る彼女を想う。
フッと溜息をついているとーー
激しいノックと同時に部下が入って来た。
「団長!大変です。カスミ様が」
ガタンッ‼︎
椅子が倒れる勢いで「カスミがどうした‼︎ 」
叫ぶように部下に問いただす。
部下は一瞬怯えた様子で答えた。
「詳細は分からないのですが、至急団長にカスミ様の元へ行くよう連絡が入りました!」
私はカスミに何か危険が迫ったと察して心臓が止まりそうになった。
丈夫な軍馬を出して思い切り走る。
ただ、カスミの無事を祈りながら。
◇◇◇
王宮にたどり着き、走って中に入る。入り口でレオン殿下が待っていた。
「レオン殿下!カスミはどうしました?」
摑みかかるように尋ねる私に向かって、殿下はニヤリと笑った。
「そんな兄さんは初めて見るね」
「殿下!呑気な事を言ってないで話して下さい!あなた達がついていながら、カスミをどうしたのです?」
無意識のうちに殿下の胸ぐらを掴んでいた。
「く、苦しいよ……。放してくれ」
我に返って手を離すと、殿下はため息をついて話した。
「カスミが、急に泣き出したんだ。訳を聞いたら兄さんが足りないって」
「……は?」
殿下が何を言っているのか分からない。
「兄さんに会いた過ぎて、悲しくなったんだろ。とにかく部屋に案内するから、会って抱きしめて、キスでもしてやれよ」
「…………」
思考停止してしまった。
部屋に着いて、殿下がノックをして扉を開ける。
そこにはーー。
ソファに座り、肘掛けに突っ伏すようにして、声を押し殺し震えながら泣くカスミがいた。
ルイス王子、エイミー王女、リサが困ったように立ってオロオロしている。
「カスミ……?」
部屋の入り口で呆然と呟く。
カスミはハッと顔を上げて私を見た。
瞳が揺れ、涙が盛り上がり、溢れ出る。
「ローランド様……‼︎ 」
カスミは駆け寄って来て私に飛びついた。
「ローランド様!ローランド様、ローランド様ぁっ…………‼︎ 」
ぎゅうぎゅうと顔を押し付けてきて名を呼ぶ。
あまりの切なそうな声に胸が詰まる。
「カスミ、どうしたんだ……?」
そっと問いかけると、カスミはしゃくりあげながら言った。
「ローランド様と会えなくなったら、不安になって、でも、我慢していたら、この世界で、ひとりぼっちになった、ような、気がしてきて……。このままローランド様に、会えなかったら、どうにかなって、しまいそうでーーっううっ」
カスミは嗚咽を堪えながら泣き続ける。
私はカスミを強く抱きしめ耳元で囁く。
「もう大丈夫だ。私はここにいる」
私はカスミをソファに誘導し、抱き込むようにして、背中を撫で続けた。いつの間にかカスミは眠っていた。
やっと落ち着いた空気が部屋を包み、ルイス王子が「いや~驚いちゃったよ。こんだけ思われてて兄さんが羨ましいよ。どおりで殿下や俺には少しも靡かない筈だ」と呟いた。
そしてレオン殿下とエイミー王女と共に部屋を出て行った。
ルイス王子の発言は聞き捨てならなかったが、今はそれどころではない。
カスミをベッドに横たえていると、父上と母上がやってきた。
母上は、
「落ち着いて良かったわ。まだこの世界に慣れきっていないのに、あなたから離したのはまずかったわね」とため息をついた。
そうだ。私がもっとカスミの事を考えてやれば良かったんだ。
あれだけ私に執着していたんだ。
王宮に行ってもまめに会いに行くべきだった。
私が変に気を回したりせずに……。
後悔の念を抱いていると父上が言った。
「アレクシス、今夜はカスミを抱いて寝てやれ。もちろん、まだ手は出すなよ」
そう言って父上と母上は部屋から出て行った。
ベッドサイドで涙の後を拭っていたリサが、口を開いた。
「団長すみません。私がついていながらこのような事になって……。毎日団長はどうしているだろうか、会いたいと言っていましたのに。こんなに我慢していたなんて思わなくて…… 」
「いや、リサが悪いのではない。私が気づくべきだった。……リサ、すまないが、詰所へ帰ってウィリアムに連絡を取ってくれ。休暇は今夜で終わりだと。私は今夜こちらに泊まり、舞踏会まで王宮にいるから後を頼む、と」
「承知しました」
リサは一礼して帰って行った。
上着を脱いでベルトを外す。
そっとカスミの隣に入り込む。
柔らかな身体を優しく抱き込む。
ーーああ、温かい。
ぽっかり開いていた穴に、温かな何かが満たされて行く。
ここ数日、眠りが浅かったため、私は静かに意識を沈めた。
私はこれまでのひと月を、カスミに慣れて貰うために詰所で過ごした。
幸い大きな事件もなかったので、外回りの対処の際にはウィリアムに指揮を頼んでいた。
カスミは一週間王宮に滞在する予定だったので、無理をさせた分、ウィリアムには休暇を取らせ、自分が外回りをしていた。
ひと月の間、いつも寄り添っていてくれた彼女がいない。自分の身体の一部を無くしたような喪失感があった。
たったのひと月で、これ程までに他人が自分の心に入り込むとは思ってもみなかった。
ぽっかりと開いた穴を埋めるべく、仕事に邁進していたが、書類仕事は捗らない。
ひとり執務室で紅茶を飲んでいる。
窓辺に向かって座る彼女を想う。
フッと溜息をついているとーー
激しいノックと同時に部下が入って来た。
「団長!大変です。カスミ様が」
ガタンッ‼︎
椅子が倒れる勢いで「カスミがどうした‼︎ 」
叫ぶように部下に問いただす。
部下は一瞬怯えた様子で答えた。
「詳細は分からないのですが、至急団長にカスミ様の元へ行くよう連絡が入りました!」
私はカスミに何か危険が迫ったと察して心臓が止まりそうになった。
丈夫な軍馬を出して思い切り走る。
ただ、カスミの無事を祈りながら。
◇◇◇
王宮にたどり着き、走って中に入る。入り口でレオン殿下が待っていた。
「レオン殿下!カスミはどうしました?」
摑みかかるように尋ねる私に向かって、殿下はニヤリと笑った。
「そんな兄さんは初めて見るね」
「殿下!呑気な事を言ってないで話して下さい!あなた達がついていながら、カスミをどうしたのです?」
無意識のうちに殿下の胸ぐらを掴んでいた。
「く、苦しいよ……。放してくれ」
我に返って手を離すと、殿下はため息をついて話した。
「カスミが、急に泣き出したんだ。訳を聞いたら兄さんが足りないって」
「……は?」
殿下が何を言っているのか分からない。
「兄さんに会いた過ぎて、悲しくなったんだろ。とにかく部屋に案内するから、会って抱きしめて、キスでもしてやれよ」
「…………」
思考停止してしまった。
部屋に着いて、殿下がノックをして扉を開ける。
そこにはーー。
ソファに座り、肘掛けに突っ伏すようにして、声を押し殺し震えながら泣くカスミがいた。
ルイス王子、エイミー王女、リサが困ったように立ってオロオロしている。
「カスミ……?」
部屋の入り口で呆然と呟く。
カスミはハッと顔を上げて私を見た。
瞳が揺れ、涙が盛り上がり、溢れ出る。
「ローランド様……‼︎ 」
カスミは駆け寄って来て私に飛びついた。
「ローランド様!ローランド様、ローランド様ぁっ…………‼︎ 」
ぎゅうぎゅうと顔を押し付けてきて名を呼ぶ。
あまりの切なそうな声に胸が詰まる。
「カスミ、どうしたんだ……?」
そっと問いかけると、カスミはしゃくりあげながら言った。
「ローランド様と会えなくなったら、不安になって、でも、我慢していたら、この世界で、ひとりぼっちになった、ような、気がしてきて……。このままローランド様に、会えなかったら、どうにかなって、しまいそうでーーっううっ」
カスミは嗚咽を堪えながら泣き続ける。
私はカスミを強く抱きしめ耳元で囁く。
「もう大丈夫だ。私はここにいる」
私はカスミをソファに誘導し、抱き込むようにして、背中を撫で続けた。いつの間にかカスミは眠っていた。
やっと落ち着いた空気が部屋を包み、ルイス王子が「いや~驚いちゃったよ。こんだけ思われてて兄さんが羨ましいよ。どおりで殿下や俺には少しも靡かない筈だ」と呟いた。
そしてレオン殿下とエイミー王女と共に部屋を出て行った。
ルイス王子の発言は聞き捨てならなかったが、今はそれどころではない。
カスミをベッドに横たえていると、父上と母上がやってきた。
母上は、
「落ち着いて良かったわ。まだこの世界に慣れきっていないのに、あなたから離したのはまずかったわね」とため息をついた。
そうだ。私がもっとカスミの事を考えてやれば良かったんだ。
あれだけ私に執着していたんだ。
王宮に行ってもまめに会いに行くべきだった。
私が変に気を回したりせずに……。
後悔の念を抱いていると父上が言った。
「アレクシス、今夜はカスミを抱いて寝てやれ。もちろん、まだ手は出すなよ」
そう言って父上と母上は部屋から出て行った。
ベッドサイドで涙の後を拭っていたリサが、口を開いた。
「団長すみません。私がついていながらこのような事になって……。毎日団長はどうしているだろうか、会いたいと言っていましたのに。こんなに我慢していたなんて思わなくて…… 」
「いや、リサが悪いのではない。私が気づくべきだった。……リサ、すまないが、詰所へ帰ってウィリアムに連絡を取ってくれ。休暇は今夜で終わりだと。私は今夜こちらに泊まり、舞踏会まで王宮にいるから後を頼む、と」
「承知しました」
リサは一礼して帰って行った。
上着を脱いでベルトを外す。
そっとカスミの隣に入り込む。
柔らかな身体を優しく抱き込む。
ーーああ、温かい。
ぽっかり開いていた穴に、温かな何かが満たされて行く。
ここ数日、眠りが浅かったため、私は静かに意識を沈めた。
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