ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる

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ローランド様のお屋敷に行きます⑵

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いつもより少し早めに仕事を終え、ローランド様と私は公爵邸に帰った。

「「お帰りなさいませ、旦那様」」

使用人たちが並んで出迎える。

「セバス、カスミだ。今日からこちらに住むからよろしく頼む」

「カスミ様、ようこそおいで下さいました。私は執事のセバスと申します。どうぞお見知りおきを」

セバスと呼ばれた初老の男性は、穏やかな笑みを浮かべ挨拶してくれた。

「花純です。これからお世話になります。あ、それとローランド様のメイドもやりますので、いろいろ教えて下さい」

深々と頭を下げて挨拶する。

すると、セバスさんはポカンと口を開けて呆けていたが、視線を主の方へ向けた。

「旦那様、そのような事は、聞いていませんでしたが?」

ローランド様は慌てた様子で私に話す。

「カスミ、そなたは昼間騎士団で働いているのだから、メイドなどしなくて良いのだぞ」

私は頭を横に振った。

「いいえ、王様にお屋敷でも、ローランド様のお世話を頼むと仰せ使ったのですから、そういう訳にはまいりません!」

「だがな、カスミを守らなければならない私が、こき使って身体を壊しでもされたら、護衛にならないだろう?」

ローランド様が諭すように言う。

「大丈夫です。騎士団の仕事はまだそれほどお役に立てていませんし、お屋敷でのメイドはローランド様の身の周りの事だけにさせていただければ、出来ない事はないと思います」

「いや、だがしかし……」

仮面越しにも困惑が伝わってくるローランド様に、セバスさんが助け船を出した。

「カスミ様。それでは、旦那様のメイドは、仕事がお休みの時限定でなさってはいかがでしょうか?旦那様とは休日を合わせているのでしょうから」

「ローランド様、それならさせて下さいますか?」

ローランド様はため息をついて言う。

「仕方ない。だが、疲れていたり、他に用事があるならちゃんと休めよ」

「はい!ありがとうございます」


私たちのやりとりを見て、セバスさんはにっこり微笑んでいた。

その後、セバスさんがひとりの侍女を紹介してくれた。

「カスミ様、カスミ様付きの侍女をご紹介致します。マリー、ご挨拶を」

「カスミ様、マリーと申します。どうぞよろしくお願いします」

マリーと呼ばれた侍女は、 セバスさんより少し若いくらいの中年の女性だった。侍女って若い下級貴族の娘というイメージを持っていたが、優しそうな人で話しやすそうだ。

「私に侍女さんをつけて下さるのですか?私は自分の事は自分でやりますから、侍女というよりも、メイドのお師匠さんになって頂けませんか?」

(ローランド様のメイドに侍女が付くなんておかしいよね?)

マリーさんもセバスさんもポカンと口を開けていたが、職業柄、一瞬で元の表情に戻った。

「カスミ様、貴女様は婚約者としてこの屋敷にいらしたのですから、侍女は必要ですわ」

マリーさんが言うと、またローランド様が慌てたように口を挟む。

「マリー、まだ婚約者ではないよ。護衛がメインで婚約者は付け足しのようなものだから。カスミが他に気にいる人ができたら、付け足しの方は消えるのだからな」

私はそれを聞いて、

「私はローランド様のお傍に置いていただけるなら、メイドでも、文官でも、婚約者でもなんでもいいです。マリーさん、これからどうぞよろしくお願いします」

さらっとローランド様を牽制したのだった。


◇◇◇


マリーさんに連れられて、部屋へ案内された。

公爵邸だけあって、騎士団の客間とは雲泥の差の豪華な部屋。

素人目からして家具は高級品だし、天蓋付きベッドは物語でしか見たことない。

「こんな豪華な部屋を用意して下さったんですね、なんだか恐縮してしまいます」

そういうと、マリーさんはにこりと笑って言う。

「カスミ様が奥様になられれば、旦那様の隣に移っていただきますから、ここは仮のお部屋ですわ」

私は気になっていた事を問うてみた。

「マリーさん、私は貴族がいない国で生まれたのでただの平民なんです。ローランド様は公爵様だから、例え私が婚約者に望んでも、結婚なんて、無理なんじゃないでしょうか?」

マリーさんは目を見開いて私を見た。

「まあ!カスミ様。そんな事はありませんわ。カスミ様は稀人様なのですから、侯爵や伯爵などより、高貴な存在ですわよ?」

「そうなんですか?なら、ローランド様とも釣り合いがとれるのですか?」

「えぇ、えぇ。バッチリ合いますとも!」

何度も頷きながらマリーさんが言った。そして、少し遠慮がちに続けた。

「あの、出すぎた事を聞きますが、カスミ様は、旦那様をお好きなんでしょうか……恋愛対象として」

私は少し首を傾けて考えた後答える。

「お恥ずかしながら、この歳になるまで恋愛らしい恋愛をしたことがないので、実をいうと恋だの愛だのよくわからないんです。でも、とにかく私はローランド様と一緒にいたいのです。結婚して貰えるならずっと一緒にいられますからそうなればいいと思うのですが、ダメならメイドか文官として傍に置いて頂きたいです」

「まあ、乙女心は複雑ですわね。私はもう昔の事で、そういう気持ちも忘れてしまったから、大したアドバイスもできませんけれど、旦那様と上手くいくよう応援させていただきますわ」

「ありがとうございます」

お互い顔を見合わせて笑うと、マリーさんはお風呂の用意をしに退室した。

流石公爵家、お風呂があるんだ。久しぶりだ、嬉しい!

その後お風呂に入り、クローゼットに新しく用意されていたワンピースに着替え夕食を頂いた。

ローランド様と一緒に食べられないのが辛い。


その夜は高級ベッドで気持ち良く眠った。



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