ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる

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ローランド様のお屋敷に行きます⑴

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ローランド様付き文官となってから、一週間が経った。

最初はお茶入れと、簡単な掃除しかやることがなかったが、少しずつ書類を急ぎの順に整理したり、必要な資料を用意したりと事務的な手伝いができるようになってきた。

(異世界に来たけど、言葉の読み書きはなぜか困らなかった)

掃除の合間に庭の花を摘んで飾ろうとしたら、ひとりで行くなとローランド様がついて来た。余計な仕事させてしまってごめんなさい。

(次は、日本にあった書類の定型文を作って、早く連絡が回せるようにしてみようかしら)

少しでも、ローランド様の役に立ちたくて、楽しんで仕事しています。


「ローランド様、紅茶をどうぞ」

紅茶と茶菓子を乗せたトレイをテーブルに置く。

そして、私は一脚の椅子を窓際に置いて、窓の方に向かって座った。

ローランド様には、気にせず仮面を外して欲しいのだが、本人が納得してくれない。なので決して振り返らない事を条件に、同じ空間にいる事を許してもらっている。

物心ついてから食事やお茶を誰かと共にした事がないローランド様に、人がいる温かな空間を感じて欲しい。

「ローランド様、あそこのマラの木に巣を作っていた雛鳥が、飛ぶ練習を始めたようですよ。巣立ちも間もなくですね」

窓に向かって座るようになってから、風景を見るのが楽しくなった。

同じような毎日にも、どこかしら変化があって、雲が龍のようだとか、珍しい鳥がいるとか、天気雨の日は狐の嫁入りだと教えたり。

たわいもない話を勝手に喋っているのだが、ローランド様は鬱陶しがる様子も見せず聞いてくれる。

「ふふ。ローランド様と、こうして小さな喜びを共有できて、幸せです」

「……別に、幸せを感じるような事をしてやれてないだろう?」

「ローランド様はお忙しいのに、私を傍に置いて下さって、私のたわいもないお喋りに付き合って下さっているではないですか」

「……そんなことくらいで幸せなのか?」

「はい。本当にありがとうございます。見知らぬ世界に来ても、あまり不安にならずにいられるのは、ローランド様のおかげです」

「…………」

しばらく黙り込んだローランド様は、ひとつ咳をして会話を切り出した。

「あー、その、私の屋敷に移る件だが、警備の環境が漸く整った。いつでも越して来れるが、どうする?こちらで過ごすのが良ければ、もう少し先にしても良いが……」

「本当ですか?では、今夜からでも、ローランド様と一緒にお屋敷に帰りたいです!あ、流石に今日は迷惑ですよね、夕食の支度とか急に頼む事になりますし……」

少しでも長く、ローランド様といたいけど……。わがままはダメだよね。

「……いや、カスミがそうしたいなら構わない。いつ来てもいいように使用人に伝えてあるからな」

私は嬉しくて満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!」


ローランド様は、目を細めて頬笑んでいたけれど、窓の外を見ている私には見えないのだった。


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