ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる

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どれだけ無防備なんだ〜ローランド視点

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午前中の剣の訓練を終え、私は執務室に戻って来た。

「はあ……カスミが私に片思いしているかのような話になってしまったが、誤解を解かなくて良いのだろうか……?」

婚約について、ウィリアムに尋ねられた時、それに対しての返答を考えていなかったので、カスミに気を使わせてしまった。きっと、団長に恥をかかせまいとあんな風に言ったのだろう……。

こちらが片思いすることはあっても、カスミが片思いなどあるはずがないのに。

フリーの男なら、カスミが求めれば10人が10人、思いに応えるに違いない。
それくらい魅力があり、ましてや稀人などという立場を、カスミは少しも理解していないようだ。


だが、カスミを見つけたのが自分で本当に良かったと思う。
もしも違う奴だったなら、あっという間に食われて骨までしゃぶられている事だろう。

私は今までの境遇から、他よりかは我慢強いと自負している。
例え妖精のように美しかろうと、天使のように愛らしかろうと、近くで甘い香りがしたってきっと耐えてみせる。

彼女が本当に愛する伴侶を見つけるまで、他人からも、自分からも、守り抜いてみせる。


護衛としての矜持を頭に叩き込んでいると、ノックが鳴った。

「入れ」

書類に目を通したまま返事をすると、鈴が鳴るような声で「失礼します」とカスミが入ってきた。

扉の方に振り返り、「リサさん、送ってくださって、ありがとうございました」と礼を言っている。

カスミはどこまでも律儀で礼儀を忘れない。相手はただ、職務を全うしているだけなのだから、礼など言わなくて構わないのに。


カスミは、私の近くまで来ると、

「ローランド様、水分補給はなさいましたか?」と尋ねてくる。

「ああ。シャワーした後、水を飲んだ」

「でしたら、お茶は一時間後くらいに用意いたしましょうか?」

「ああ、そうしてくれ」

「わかりました」


執務室で二人きり。こんな何でもない会話のやりとりに気恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになる。

カスミは、私の机の上の書類を見て、次に応接テーブルの上にある山積みの書類に目をやった。

「ローランド様、やっぱり剣の達人と言っても、管理職になれば事務仕事が多くて大変ですね。身体を動かさずじっと書き物をする業務は、騎士様にはお辛いのでは?」と尋ねてきた。

「ああ、そうだな。身体を動かす仕事は得意だが、デスクワークは苦手だ。すぐに疲れて肩が凝ってしまう」

つい、そう愚痴ってしまうと、カスミは目を輝かせて得意げにこう言った。

「でしたら!私、肩もみは得意なんです!おじいちゃんにいつもしてあげてましたから。肩が凝ったらマッサージしますので、すぐにお申し付け下さいね!」

仕事を見つけて嬉しかったのか、メモ帳を広げ、ツボと、マッサージの本を借りて来なくちゃ……とブツブツ呟いているのが聞こえた。

密室で、男にマッサージとか……どれだけ危機感が無いんだ……はあ。


私はまたひとつ、ため息を吐いた。


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