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醜いイケメン騎士と王宮へ行きます⑶
しおりを挟むローランド様と馬車でふたりきり。
彼は無口だから、あまり会話は弾まないのだけれど、全然居心地が悪くない。というかすごく落ち着いて居心地が良い。
少し微睡んでいると、
「カスミ」
囁くような声が聞こえた。
そっと瞼を上げると窓から賑わいが見えた。
「あそこが王宮だ」
ローランド様の指先には白亜のお城が。
「わあ~っ!素敵!」
瞬く間に目が覚め、私は瞳を輝かせた。
そして馬車は、ゆっくりと繊細なデザインの門をくぐり、王宮の入り口前で止まった。
◇◇◇
ローランド様は先に馬車から降り、手を取って私を降ろしてくれた。
城の中は想像通り、豪奢な造りで、高級そうな絵画や、置物が飾ってある。
しばらく廊下を進んで行くと、文官のような出で立ちをした男が声をかけてきた。
「ローランド殿。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
文官に通された部屋には、3人の色の違う服を着た文官がいた。
文官たちは私を見るなり目を見開き、頬を染める。
私はこの世界ではかなりの美女らしいから、この反応にも慣れてきたけど(遠い目)。
この部屋では、ここへ来た経緯、現在保護されている状況、元の世界の話など、いろいろ聞かれた。
その間、ローランド様は退室するよう言われたため、私はひとりでとても心細かった。
3人の文官はどの人も微妙な姿形なのだが、王宮に勤めるくらいだから見目麗しい人たちなのだろう。
しかし私にとっては違和感が半端なく、微妙な男たちに頬を染めながら見つめられ、話しかけて来られると気分が悪くなってくる。
なんとか堪えて質問に答え、やっとローランド様が部屋に入って来た時には心底ホッとした。
「大丈夫か?顔色が悪いようだが」
心配そうにローランド様が尋ねてくれる。
「はい。ローランド様が居なかったので、ちょっと気分が悪くなったのですが、もう大丈夫です」
私はなんとか笑顔を作ってローランド様を見上げた。
ローランド様は少し戸惑った様子で、またひとつため息をついた。
10分程城の庭を歩き、気分転換をする。
すっかり気分が良くなった私とローランド様はまた城に戻り、王との謁見に備えた。
◇◇◇
「おふた方、お待たせしました。これから謁見の間にご案内致します」
最初に案内してくれた文官が声をかけて来た。
謁見の間に入ると目線の上に豪奢な椅子があり、中年の男女が座っている。
私はリサさんに習ったように、こうべを垂れ、右手を左胸に当てて声がかけられるのを待つ。
「稀人よ、面をあげよ」
王の声に顔を上げ、教わったカーテシーで挨拶をする。
「お初にお目にかかります、王様。私は花純 相川と申します。よろしくお見知りおきを」
「ほう、これは。聞きしに勝る麗しさだの」
「ええ、本当に。あまり堅苦しくしなくて大丈夫よ、私は王妃のシェリル・フィルランドです。よろしくね」
隣でふくよかな女性がニコニコ微笑んでいる。
「ありがとうございます、王妃様」
(優しそうな王妃様だわ)
「ご無沙汰しております。今日は稀人の発見者として同伴させていただきました」
ローランド様も恭しく挨拶をする。
ローランド様は、王様と会った事あるんだ、当然だよね。団長様だもの。
「アレクシスか、息災のようで何よりだな」
王様は少し目を細めて声をかけられた。
「は、おかげ様で恙無く過ごしております」
型通りの挨拶を終え、王様は本題に入ったようだ。
「稀人よ、文官の調査により、我が国ではそなたを稀人と認めた。そなたを歓迎する。これからは王宮でそなたを預かり安全に何不自由なく暮らせるよう手配いたそう。そなたもそれで良いな?」
「あ、あの、私は王宮で何をすれば良いのですか?」
「何もしなくて良い。ただ、ひとつ国からの願いは、この国の者との結婚だ」
「え?それは何故ですか?」
「稀人がいると、国が栄え安泰するという言い伝えがあるのだ。だから結婚して子を成せば、この国に根を下ろしてくれるだろう?保護する見返りとしてお願いしている。もちろん、お願いであるから命令ではないのだが」
王宮で、左うちわの気楽な暮らしかあ。不自由そうだし、絶対性に合わないよね……。
私が考え込んでいると、王様は続けて話し出す。
「そこでだ。そなたに早速、護衛を兼ねた婚約者を選んでもらいたい」
「へっ?」
とんでもない発言に変な声出たわ。
「稀人は他国から狙われやすい。それに政治が絡まなくても、その容姿に惑わされ、不埒な輩が良からぬ事をしでかすことも少なくないのだ。だから早く誰かの物だと知らしめる事が抑止力になる。よって婚約者は、そなたを守れる強さと権力を持っていなければならない」
えぇ~、私結構危ない立場なんだ。
私が脳内で混乱していると王様はひとり満足気に頷いて言った。
「心配せずとも余がそなたに相応しい者たちを選んでおいた。この王宮を守る第一師団には、出自が良く、見目の良い騎士がたくさんいるのだ。もちろん剣の腕も良い。この中からひとり選んで護衛にすると良い。そして、婚約者としても、付き合ってみて欲しい」
いつの間にか5人の男たちが王様の下に並んでいた。
まあ、私も20歳だし、結婚して家族がいた方が異世界で生きやすいかもしれないんだけど……。
「王様、その前にひとつだけ、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「あの、稀人は元の世界には戻れないんでしょうか?」
「残念ながら、過去の稀人で、帰った者はいない」
やっぱりかあ……。まあ、身寄りもない私だから、帰れなくても諦めもつくけれど……。
御墓参り出来ないのは寂しいな。
思いにふけっているにもかかわらず、王様がゴリ押ししてくる。
「それで?そなたの好みの男は誰か?みな、色男だろう?」
私は沈んだ思考を断ち切って前の5人を見る。
男たちは頬を赤らめたり、自信たっぷりに笑みを浮かべたりしているがみんな微妙な感じだ。全然カッコいいと思えない。
(カッコいいといえば、ローランド様でしょ)
「あの、私、護衛をお願いするなら、ローランド様がいいのですが、ダメですか……?」
わざわざ呼ばれて来てもらった5人には申し訳ないけど、私はローランド様がいい。
「何と⁈ 」
王様と王妃様、男たちまで目を見開いて驚いている。
「な、何を言うんだ、そなた!意味がわかって言っているのか?」
仮面のせいで表情はわからないけど、あきらかに焦っているローランド様。いつもはクールな感じなのに、こんな姿も見せるんだ。
王様は驚きながらも訪ねてくる。
「稀人よ、護衛は同じ部屋でほぼ一日中一緒に過ごすのだぞ。だから婚約者にもなるのだ」
どうしよう、そんなに一緒にいなくちゃならないなら、ローランド様は無理だよね、団長の仕事があるから……。
でも、やっぱりほかの男の人が一日中傍にいるなんて耐えられないよ。
意を決して王様に問う。
「あの、王様、私は前の世界では事務の仕事をしていました。だから、ローランド様の秘書にしてもらえませんか?そしたら、一緒にいられるし、私もデスクワークのお手伝いとか、お茶汲みとかローランド様のお役に立てるんじゃないかと思うのですが……」
私が提案すると、王様より先に王妃様が嬉しそうに言う。
「あなた、カスミさんが言うようにしてあげましょうよ。アレクシスも忙しくて何とかしてあげたいと思っていましたし」
それを聞いて王様もうなずく。
「そうだな、それなら稀人は王宮に住むよりアレクシスの屋敷に住んだ方が良かろう。稀人よ、屋敷でもアレクシスの世話をしてやってくれぬか?こやつの屋敷は使用人、特に女性の使用人が少なくて、そうしてくれると助かるんだが」
「王様!王妃様!そのような事を……!そのような……!」
ローランド様はひたすら焦っている。
私はこの流れを変えてはならぬとばかりに返事する。
「是非!是非そうさせて下さい‼︎ ローランド様、お願いします。私を傍に置いて下さい!何だってしますから‼︎ 」
「な、何だって⁈……っ、そんな事、安易に言うんじゃない……!」
「アレクシスも、使える従者が欲しいと言っていたじゃないか。お試しでもいいから使ってやれ」
王様の鶴の一声で、私の住居と仕事が決まった。
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