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醜いイケメン騎士と異世界の稀人⑶
しおりを挟むローランド様の後ろ姿を見送る私に優しく手を添え、リサさんが席へ誘導する。
「朝食持って来ますね。待ってて下さい」
食堂と言っても、いろいろメニューがある訳でなく、AセットとBセットの2種類しかない。
Aセットは肉がメインで、Bセットは魚か卵がメインだそうだ。無駄なく提供される仕組みなのだそうだ。
私には多すぎる料理をできるだけ残さないよう頑張ったが、1/3程は残ってしまった。
やっぱり身体を動かす騎士に合わせた量はすごい。
お茶を啜りながら、私は先程のローランド様の台詞を思い返す。
「ねえ、リサさん、ローランド様はすごく素敵だけど、どうして仮面を被っていらっしゃるのですか?」
(スタイルは勿論のこと、立ち姿、流れるような身体の動き、話し方などどれもが洗練されていて美しい。どう見ても、高貴な存在に見える。なのに、なんで仮面?大きな傷でもあるのだろうか?そうだとしても、騎士なのだから、勲章のようなものなのでは?隠す必要などないのに)
そんな事を考えていると、リサさんが困ったように小声で話し始める。
「確かに団長は人柄が良くて貴族で剣の腕も素晴らしいんだけど、スタイルは良くないでしょう?それにお顔は仮面をしていなければならないくらい醜いらしいのよ。私も見たことないんですけれど」
リサさんの発言にたまげた私は思わず聞き返した。
「ええ⁈ スタイル抜群じゃないですか⁈ 私、あんなカッコいい人見たことないんですけど」
リサさんは考えるようなしぐさで尋ねてきた。
「カスミ様はそんな風に思われるんですのね?そう言えば、昨日もわたくしの事を美しいとか言っていましたわよね?」
「ええ。リサさんは凄く美しいです。金髪のウエーブの髪も、青い瞳も素晴らしくて、どこぞの王女様みたいです」
リサさんはポカンとした表情で固まった後、
「異世界から来た人は美醜の感覚が違うのかもしれませんね……」と呟いた。
そう言われて見れば、他の騎士様達は、かなり太めな体型をしていたり、極端に細かったりするけど、あんなで機敏な動きができるんだろうか……。
それに、顔も微妙な人が多くて、お世辞にもカッコいいと思う人がいないわ。
騎士に憧れを持っていた私は少しだけガッカリした心持ちになった。
◇◇◇
食事を終えた私たちは、騎士の訓練所に来ていた。私が訓練を見てみたいとリサさんにお願いしたのだ。
訓練所では、ローランド様が3人の騎士を相手に剣の打ち合いをしている。3人でかかっても、全然歯が立たないようで、次々と騎士が入れ替わっている。
「わあ……!ローランド様、カッコいい……‼︎ 」
私が瞳を輝かせながら眺めていると、リサさんがぶふっと吹き出す。
「そんなに団長は素敵ですか?」
「は、はい……!サイン頂きたいくらいです….…!」
クスクス笑いながらリサさんが別の人を指指した。
「あそこの、あの方、カスミ様はどう思います?」
見ると、かなりでっぶりとしたお腹の、頬の肉が垂れ下がった騎士様がいた。瞳は茶色で小さい。口は肉に埋もれてチューする時の形になっていて笑える。
お世辞にもカッコいいとは言えないが、つぶらな瞳がブサカワと言えなくもない。
「うーん、そうですね、愛嬌があって、可愛い……と言えば言えなくもない感じですかね….…?」
あまり知らない人を貶める訳にもいかないので、なんとか褒めようと私は頑張った。
「わかりました。あまり、好みではないんですのね?」
リサさんは笑いながら言った。
「う、、すみません。私ごときが、好みを述べるなんておこがましいことはわかっていますが」
「ふふ。あの方はこの世界ではハンサムで有名な、アイドルのような存在なのですよ。公開訓練では、あの方を一目見たいと若い娘が大勢押し寄せるんです」
「ええ~っ⁈ホントですか⁈ 」
驚いている私に、リサさんは2人の事を教えてくれた。
ローランド様のお名前は、アレクシス・ローランド様。公爵様で27歳。公爵って貴族の中で王家の次に高貴なのよね、確か。
この世では男性は20歳までにはお嫁さんを貰うのが通常なんだそうだけど、醜いためにお嫁の来てが無く、結婚は諦めているそうだ。
そして、ブサカワの方は侯爵家のご子息で、17歳の最も脂乗ってるナイスガイだそうだ。
あの体型でもなかなかの腕だそうで、ローランド様は第2師団の団長を、ブサカワのウィリアムさんは副団長をしているらしい。
ウィリアムさんは1対2で騎士の相手をしていた。
◇◇◇
舞うような動きで華麗に剣さばきを見せるローランド様を見つめ、ため息をつく。
私はすっかりファンになった気分だ。
(こんな素敵な人がスタイル悪くて不細工?うーん、解せぬ)
私はそんな事を考えながら、ふと気になる事をリサさんに尋ねた。
「リサさんも、ウィリアムさんがタイプなのですか?」
リサさんは少し顔を赤らめて、すっと別の人を指差した。
「私はね、あの人が好みなの……」
指の先にはもやしのように細っこい男の人がいた。
(あの人、戦えるの?守ってあげなきゃならないような気持ちになるんだけど……)
「彼はマーティンと言って、私の同期なの。なかなかのイケメンでしょ?」
ニコニコしながら言うリサさんに、私は「ソウデスネ……」と社交辞令を言うことしか出来なかった。
この世界で、もやしの彼はどの程度モテるんだろう?と考えてみたが、私には全然分からないのだった。
そんなやりとりをしているうちに訓練が終わったようだ。
ローランド様がこちらに気づいて近づいて来た。
「お疲れ様でした!ローランド様は凄くお強いんですね!とってもカッコ良かったです‼︎ 」
私は先ほどの興奮が冷めやらず、心からの賛辞を送った。
その言葉にローランド様はピタリと足を止めた。仮面を被っているのでその表情はわからないが、固まっているようだ。
「ローランド様?」
私、何かおかしな事言ったかな?
と首を傾げていると、ローランド様はピクリと動いて咳払いをした。
「あー、いや、その、何だ。カスミ、王宮へ行くにはそれなりの格好で行かねばならない。あの民族衣装は美しい。あれを着て行けるか?」
さっきの褒め言葉はスルーして用事を述べた。振袖の事を言っているようだ。
「残念ですけど、あれは自分では着られないのです。どうしましょう?」
着付けを習っておけば良かったと思いながら私は言った。
「そうか、なら仕立て屋に頼んで持って来させよう。日にちがないから、既製品になるが、いいだろうか?」
申し訳なさそうにローランド様が言う。
私は慌てて手を左右に振った。
「既製品で十分です!でも、私お金持ってないのですが、後で分割払いとかにしてもらえるでしょうか?」
ローランド様はその発言に少し驚き、安心させるように説明した。
「それは心配しなくていい。私が出しておく。国から稀人と認められたら国から支援金が出るしな。着られないにしても、王宮にはそなたの衣装も持って行くように。稀人であると証明にもなるだろう」
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