ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる

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醜いイケメン騎士と異世界の稀人⑵

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「どうぞ」

応接室のような場所へ通された私に、美しい女性騎士が微笑みながら紅茶を差し出す。

「あ、ありがとうございます」

(す、素敵~! 某アニメのオス○ル様みたい‼︎ )

私は少し頬を赤らめながら紅茶を飲む。
冷えた身体に温もりが伝わった。

「はあ~美味しい」

緩んだ表情を見た仮面の騎士は、仮面の下で口角をわずかに上げていた。

「少し落ち着いたか?ここは安全な場所だが、急に環境が変わって心細かろう。このリサをお前につけるから、何かあったら遠慮なく言ってくれ」

親切な仮面の騎士様のお陰で、すっかり不安も忘れていた私だったけれど、それは言わずにお礼を述べた。

「はい。ありがとうございます」


「うむ。そう言えば、まだ名を聞いてなかったな」

「相川 花純です。あ、ここでは花純 相川かな?姓が相川で、名が花純です」

「カスミ、か」
仮面の騎士は顎に手を当て考えるようにうなづいた。

男性に名を呼び捨てされたことのない私は少しばかりドキッとしてしまった。


「カスミ、これからの事など、いろいろ話さねばならぬが、もう時間も遅い。疲れもあるだろうし、今日はもう休め。夕食は部屋に運ばせよう。……リサ、案内を頼む」

そう言って、去って行こうとする仮面の騎士様を私は呼び止めた。


ずっと気になっていた事を尋ねる。

「あの、さっき私がいた場所は禁足の地って言ってましたよね?私はこれからどうなるんでしょうか?
もしかして、不審者として牢に入れられたりとか……?」

不安そうに尋ねる私に、仮面の騎士様は手短に説明した。

「いや、話を聞く限りそなたは稀人だ。稀人は国が大切に保護管理する事になっているから、それは心配しなくていい」

「そうなんですか?それなら、助かります」

私はとりあえず、当面何とか生きていけそうだと息を吐いた。そして、まだ助けてもらったお礼を言っていない事に気が付いた。

「何から何までお世話になり、申し訳ありません。助けて下さって、本当にありがとうございました」

深々と頭を下げて礼を述べた。

仮面の男は一瞬躊躇した後、花純の頭にそっと手を乗せ優しく撫ぜた。



◇◇◇



私は女性騎士に、保護室のような部屋に案内された。

そこで暖かいシャワーを浴び、簡素なワンピースを借りた私は、部屋のソファで寛いでいる。

ここには風呂というものはなかったが、シャワー室にシャンプーやリンスはあった。

ハンガーに掛けた振袖を眺めながら思考に耽る。

(この着物、脱いでしまったら、もう自分では着られない。まだ写真撮ってないのに。しかも、レンタルだから、返さなきゃならないのに。一緒に写真館に行った智美は、あれからどうしたかな。心配して、大騒ぎになっていないと良いけど。明日から、会社も無断欠勤になってしまうし……。もしも元の世界へ帰ったらいろいろ怒られるだろうな。異世界に飛ばされてました、なんて言い訳できるはずもないし)

そんな事をつらつらと考えていると、コンコンとノックが鳴った。

「はい、どうぞ」

返事をすれば、先程の女性騎士が入って来た。手には食事の乗ったトレイを持っている。

「カスミ様、シャワーは済まれたようですね、髪を乾かしましょう」

そう言って女性騎士は、トレイをテーブルに置き、私を鏡の前へ導いた。
ドライヤーのようなもので髪を乾かし、綺麗にすいて香油をつけてくれた。

ほぅ、とため息を吐いて、女騎士は鏡の中の私を見た。

「なんて、綺麗な黒髪でしょう。あの衣装といい、このように美しいあなたは、高貴なお姫様だったのではないのですか?」

平凡を形にしたような私に向かって、なんて事言うんだろ。

「とんでもありません、私はただの一般人です。きれいな貴女にそんなこと言われたら、私、反応に困ってしまいます」

パチクリと瞬きをした女性騎士は、

「まあ、ご冗談を。私など、平凡な容姿ですのに。カスミ様はおかしなことを仰いますわ」

クスクス笑ってそう言った。そして、自分の事はリサと呼ぶよう伝えた。


「え?ええ~?」

どういうこと?リサさんが平凡だなんて……この世界の女性は、みんなこんなに美しいのかしら?


私はちょっと噛み合わない会話に戸惑いながらも、自分なりに理解しようとした。

(私の事を褒めるのは、異国風の珍しい顔だからだろう)

私からすれば自分こそ平凡な和風顔そのものなんだけど。



食事は洋風な料理で、味も良かった。食べている間、リサさんがお茶をついでくれたりしながら付き合ってくれた。

「この世界の食事がお口に合って良うございました。では、この後はゆっくり休んで、早めに寝て下さいね。何か御用があれば、このボタンを押して下さい。宿直の騎士が参りますので」

「はい、いろいろとありがとうございました。おやすみなさい」

リサさんが退室すると、私は一気に緊張が緩んだ。急いで歯を磨き、ベッドに入る。

瞼を閉じるとすぐに寝てしまった。



◇◇◇


翌朝リサさんが訪ねて来て、昨夜通された応接室へやってきた。

一人掛けソファに仮面の騎士様が座っている。


「カスミ、昨夜はよく眠れたか?」

「はい、おかげ様で。ありがとうございます」


挨拶的な会話を交えた後、仮面の騎士はこれからの事を話した。

「稀人を発見したら、即刻国王に知らせる義務がある。よって昨夜のうちに連絡しておいた。数日後には王宮に招集されるだろうから、そのつもりでいてくれ」


「あの、私、どうやって王宮に行ったらいいんでしょう?」

右も左もわからない私は戸惑いながら尋ねた。


「それは心配いらない。第一発見者である私がそなたを送って行く」

「王宮に行って、どうするのですか?」


「専属文官に聞き取り調査を受け、稀人認定されたら国王に謁見する事になるだろう」


仮面の騎士様に連れて行ってもらえると安堵していた私は、その後の話で固まってしまう。

「お、王様に会うのですか?私、挨拶の仕方もマナーも何もわからないのですが」


不安そうな様子を見て、仮面の騎士は隣に座るリサを見て指示を出す。

「リサ、カスミがここにいる間、君が護衛として離れず守ってくれ。そして、挨拶やマナーなど、いろいろ教えてやってくれ」

「承りました」

リサさんは仮面の騎士様に向かって一礼して返事した。

仮面の騎士と美しい女性騎士の一連のやりとりを見て、やっぱり騎士って素敵~!と心で悶える私だったが、国王などという雲上人に会う不安は消せなかった。



◇◇◇


話が済んで、応接室からでたリサさんが食事に誘ってきた。

「今朝のお食事は、宜しければ他の騎士たちと一緒に、食堂でいかがですか?むさい男どもがたくさんいますから、お嫌でしたら自室まで運びますけれど」

そう問われて、私は思わず即答する。

「食堂へ行きます!憧れの騎士様達と食べられるなんて嬉しいですもの!」

目を輝かせる私を見て、リサさんが驚く。

「まあ、カスミ様は騎士に憧れを?」

「だって……正義のヒーローみたいだし、紳士のイメージもあるし」

仮面の騎士様を思い浮かべながら私は答える。


「まあ、正義のヒーローはともかく、紳士みたいなのは少ないかもしれませんよ?上位騎士は貴族が多いので、紳士といえるかもしれませんが、私たちみたいな従属騎士は荒くれ者みたいなムサイのばかりですわ」

「そうなんですか?ワイルド系騎士様も素敵です、是非食堂に連れて行って下さい」

リサさんはクスクス笑いながら食堂へ案内してくれた。従属騎士たちは、昨夜稀人が来たと聞いて、是非食堂へ来てもらって欲しいとリサさんに頼んできたそうだ。

ちょっと見世物な気分だけど、まあいいか……。




「ウオー‼︎ 」
「スゲエ~‼︎ 」
「可愛い!」
「いや、美しいだろ‼︎ 」
「これ程とは……女神か」


(な、なんか騎士様たちの反応がおかしいんですけど……?なんか、盛大なドッキリ仕掛けられてます?ってくらい褒めて来る……)

戸惑いで食堂の入り口に立ち止まっていると、仮面の騎士様がやって来た。

「お前達、油売ってないで早く食事済ませろよ。訓練はもうすぐ始まるからな」

他の騎士達は名残り惜しそうにしながらも、食事に集中し、次々と席を立って行った。


「騒々しくてすまぬ。席も空いたし、ゆっくり食べてくれ」

そう言って仮面の騎士様は自分の食事が入ったトレイを持ち、食堂から出ようとする。

「あの、仮面の騎士様は、こちらで食べないのですか……?」

なんとなく、一緒に食べたいなと思い、私は尋ねてみた。

仮面の騎士様はピクッと反応した後振り返る。

「いや……私は人前で仮面を外せないのでね。……私の事は、ローランドと呼んでくれればいい。」

そう言って食堂から出て行った。



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