ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる

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醜いイケメン騎士と異世界の稀人⑴

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寒いけれど、よく晴れた一月のとある日。

私こと相川 花純は、友人と共に写真館に訪れていた。

二十歳の記念に、振袖姿を写真に残しておこうと誘われたからだ。

人生に一度しか着ないであろう着物を買う気はなかったし、成人式に出るつもりもなかった。

だからと言って、何もしないというのも寂しい気がして、友人の誘いに乗ってやって来たのだ。

子供っぽくない上品な薄桃色をベースに、大小様々な多彩な花柄が入った綺麗な着物。

自分的には桃色より水色が似合う気がするのだが、おめでたいハレの日ということで暖色系にしてみた。

髪はサイドを少し残して、大人っぽい感じに結い上げてもらった。

左前辺りに煌びやかなかんざしを刺している。

いつもと違う自分に少しくすぐったい気持ちになりながら、姿見を眺める。

「それでは、お写真を撮りますので、そちらのスタジオへ移動して下さい」

スタッフに誘導され、目の前の扉を開くと、何やら目眩がして部屋の中へ吸い込まれるように足を踏み入れた。

たたらを踏んで倒れないように押し止まる。

そして周囲を見渡すと……

「な……何……?」


スタジオに入ったつもりが森の中だった。



◇◇◇


いつか見た、メルヘンな物語のような場所。

森の中に、ぼっかりと開けた場所があり、天上から陽が降り注いでいる。

「……ここ、どこ……?」

あっけに取られ、棒立ちすること数分。ハッと我に返り、扉の向こうへ戻らなければと振り返って見たが無い。

周辺をウロついてみたが、扉はどこにも無かった。

途方に暮れて、近くにあった丸い岩に腰掛ける。


辺りは囲むように大木が覆っているため、どちらにも歩いて行けそうにない。

下手に動いた方が、危険な気がする。

それからどのくらい経ったのか、時計もないので分からなかった。

けれど、上から差していた日差しが徐々に傾き始めている。


「おじいちゃん、おばあちゃん……」

不安が膨らんできて、今は亡き、祖父母を呼んでみる。


私は幼い頃、両親を事故で亡くし祖父母に育てられた。

祖母は1年前病で亡くし、祖父もまた、半年前に祖母を追うように亡くなっていた。

私は祖父母に負担をかけないように商業高校を卒業後、すぐに就職して社会人になった。

身体の弱い祖母に代わって家事もこなしていた。

そのため祖父母亡き後一人で暮らしていたが、困る事はなかった。


そんな身の上、同年代の女性よりも落ちついてる方だと思う。

そんな私でも、こんな訳の分からない状況に投げ出されて、混乱していた。

このまま夜になってしまったら、私はどうなってしまうのか。

ここには熊や猪のような怖い獣がいるのだろうか。


幸いここは冬ではないようで、日中はちょうど良い気温だった。

けれど陽が傾くにつれ、少し肌寒くなってきた。


不安も手伝って、震え出した身体を無意識に抱きしめた。

とにかく、誰でもいいから、人に会いたい。

誰か来てくれないだろうか。

そんな事を思いながら、再度祖父母の名を呼んだ、その時ーー。



遠くから馬の蹄のような音が聞こえて来た。

「そこにいるのは誰だ!ここは禁足の地と知って侵入したのか⁈ 」

なにか怒っているようだけど、何でもいい、人間が来てくれた。

私は希望を抱いて立ち上がり、手を大きく振りながら叫んだ。

「お願いです!助けて下さい‼︎ お願いします……‼︎ 」


馬に乗った男が近づいて来た。

その顔を見て、私は絶句する。

男は白い仮面を被っていたのだ。

しかも、その服装は中世の騎士のような出で立ち。


一瞬怯んだ私だったが、人間ならこの際どうでもいい。

ひとりぼっちでいるよりは、例え変人でも助けて欲しいと思った。

(もし、悪い人だったら町に出てから逃げ出す事を考えよう)


「あの、ここがどこだかわからず困っています。人がいる所まで連れて行ってくれませんか……?」

仮面の男は暫く黙っていたが、ハッと我に返ったように話し出した。

「そなたは異国人か?どうしてここにいる?人攫いにでも連れてこられたのか?」


「いいえ、私にも何がなんだかわからないのですが、気がついたらここにいたのです。どうしていいか分からなくて困っていました。人がいる場所まで連れて行ってくれませんか?」

震えながら話す私を見て、犯罪者の類ではなさそうだと判断した仮面の男は馬から降りた。

上着を脱いで花純に羽織らせた。

「寒いのだろう?今はこれしかないからこれで我慢してくれ」

そう言って私の様子を伺うように見る。


「あ、ありがとうございます。でも、貴方が寒いのではないですか?」

遠慮がちに問えば、仮面の男は「大丈夫だ」と一言で返した。


「とにかく、これからそなたを騎士団へ連れて行く。私は第二師団団長ローランドだ。帰りながら話を聞かせてもらおう」

そう言って仮面の騎士様は私を抱えあげ、馬の上に横向きに乗せた。

(この人は騎士様なの⁈ 騎士ってお巡りさんみたいなものだよね。助かった。それにしても大人ひとり軽々と持ち上げるなんて、なんて頼もしいのかしら)

私が赤面しながら狼狽えていると、仮面の騎士様は後ろに鮮やかに乗って来た。

「馬に乗るのは始めてか?」

「は、はい」

「ならばゆっくり移動するから、ここにしっかり捕まっていろ」

「は、はい」

仮面の騎士様は、横抱きに私の背中に片腕を回ししっかりと固定する。そしてゆっくりと馬を歩かせた。

(抱き込まれているみたいで恥ずかしい……。でも、なぜか安心する)


あまり社交的でない私は、休日は家でファンタジー小説を読むのが好きだった。

なので怪しい仮面をしていようと、この男が騎士様なのだと思うとときめいてしまうのだった。


騎士様は、仮面などつけて面妖な見た目ではあるが、低く穏やかなもの言いで、上手く私から話を聞き出してくれた。

前方を見ていると、その姿が見えず、雰囲気から高貴な人柄を感じて少しドキドキした。

信じてもらえるか不安だったけど、できるだけ誠実に質問に答えた。


そのうち森の中を抜け、長閑な集落へ出た。

ぽつりぽつりと農民らしき人が見え、ホッと安堵する。

そこで仮面の騎士様は、私のために近くの民家に寄って、村人に休憩させてもらえるよう頼んでくれた。


「慣れぬ馬の上で疲れたであろう?騎士団までもうすぐだが、少しだけここで休ませてもらうといい」

そう言って、仮面の騎士様は村人に、水を頼んで私に飲ませてくれた。

(流石騎士様、女性に親切だな)


民家の縁側で座って休んでいる間、仮面の騎士様は馬に水を飲ませていた。

馬を撫でて、労わっている。

(優しそうな人)


集落に入ってからは先ほどまでの恐怖はすっかり消えて、仮面の騎士様ばかり眺めてしまうのだった。

再び馬に乗せられしばらく揺られていると、西洋風な街並みが見えて来た。

すでに夕暮れで、街灯が点っており更に幻想的に見せる。

(ほんとに、物語の世界に紛れ込んでしまったようだわ)


そうこうしているうちに学校のような建物にたどり着いた。

「着いたぞ。疲れたであろう?頑張ったな」

仮面の騎士様は優しく労い、私を軽々と馬から下ろした。


「団長!お帰りなさいませ‼︎ 」

門番をしていた騎士が仮面の騎士様に声をかける。

そして、横に所在なさげに立つ異国の衣装を着た私に視線を移し、目を見張る。

そしてなぜか顔を赤らめた。


「団長、その娘は?」

「禁足の森にいた。おそらく稀人だろう」

「な、なんと……‼︎ 」

仮面の騎士様と門番はいくつか言葉を交わし、門番は客室を整えるよう言いつかって、建物の中へ走って行った。



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