Decay

海棠 楓

文字の大きさ
5 / 5

第5話

しおりを挟む
「――ごめんね」
「何が?」
 何がって……僕らは同じようで、同じではなかったこと。僕も所詮、ケヴィンの嫌いな、脆くて朽ちゆくものだったこと。それから……置いていくこと。またひとりにしてしまうこと。
 こんな冗長な人生とっとと終えてしまいたい、いつ終えたって惜しくないと思っていたのに、今になって思う。
 ――死にたくない
 愛する人を遺していくことが、こんなにも辛いだなんて。
 今まで何人も見送ってきたけど、それに不満だったけど。自分ばかりが辛いと思っていたけど。
 遺してゆく側の気持ちは考えたことが無かった。
 僕を遺していったみんなも、こんな気持ちだったのかな。
「ケヴィン……」
 心配そうに僕の頬に添えられたケヴィンの手に、そっと触れる。そんなはずはないのに、ケヴィンの手に温かみを感じた。
「ごめんね、僕もケヴィンを置いてっちゃう」
「……」
「そんな顔しないでよ」
 僕は力一杯笑顔を作った。ケヴィンが好きな、僕の笑顔。だけどケヴィンは今までに見たことない顔をしていた。
「またいつもの繰り返しさ。僕がいなくなったらまた次の」
「そんな話するな」
「ケヴィン……最期にお願いひとつきいて」
「何?」
「抱いてよ」
「……」
「もういいだろ、どうせ時間の問題なんだし。醜いポンコツになる前に、ケヴィンの腕の中でそのときを迎えたい」
「……無理だ」
「なんでだよ!」
「……いなくなるのわかっててみすみす、お前の味を覚えたくない」
「勝手なんだから」
「俺を置いていなくなるお前の方が勝手なんだからな……!」
 それについてはごめん。ほんとにごめん。だから泣かないで。初めて見るケヴィンの泣き顔は、なんだか子どもみたいだ。それにこんなに声を荒らげるケヴィンを見るのも初めてだ。最後にいろんなケヴィンが見られて、嬉しいなあ。
「ルカ、愛してる」
「僕も」
 ケヴィンの涙を指で拭った。もう指一本動かすのも億劫だ。それでもなんとか力を振り絞って、僕は自力でケヴィンの上から退いた。
 だって、東の空が――
「ケヴィン、もう眠って」
「眠るだって?」
「もう朝だよ、さあ」
 人に眠れといいながら、僕が先に目を閉じた。きっともう、開くことはないんだろうなあ。
「ここにいる」
「え?」
「眠れるわけがないだろう。朝になったってここにいる」
 その言葉がどういうことを意味するのか、そろそろ頭が回らなくなってきた僕にだってわかる。
「お願い、もう行って。困らせないで」
「嫌だ」
「ケヴィンが眠らないなら……僕が先に、寝る、ね」



 ケヴィンはすぐにちゃんと地下室へ向かったかな。
 僕のことはケーキや花束みたいにゴミ箱へ突っ込んで、今度はきちんと食糧にもなる奴を相手にした方がいいよ。
 愛し合っているのに食糧にもなれなくて、抱いてももらえなくて、他の人で済ませてこられるのは、辛すぎるんだからね……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

処理中です...