撮り残した幸せ

海棠 楓

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「優秀賞……」
 読み上げてぽかんとするジュンの表情からは、喜んでいるのか落胆しているのか判断できない。ただ呆然とし、何度も瞬きを繰り返している。
「やったじゃない! 入賞したんだよ、初めての応募で! すごいことなんだから」
 史郎の方が珍しく熱くなり、思わずジュンの肩を何度もバシバシと叩いてしまった。
「……でも、優秀賞の上には、グランプリも最優秀賞も……」
「呆れた。最初からてっぺん獲るつもだったとか言う? どれだけ自分の才能を過信してるんだか。ちょっと図々しすぎるんじゃない」
「ちょっと、言い過ぎでは……」
 涙目になるジュンに、史郎は優しく微笑みかけた。
「素直に喜ぼうよ。認められたんだよ、君の才能が。おめでとう」
「……史郎さんのおかげです、史郎さんに出会ってなかったら、きっとあのままカメラをやめてました」
 ジュンの瞳が潤いで揺らいだ。
「かもしれないね。きっかけを作ったのは僕でも、才能やセンス、努力はジュンくん、君自身のものだし、君が出した結果だからね」

 数日後、ジュンは朝早くから授賞式へと出かけていった。史郎はついていかなかった。とにかく表舞台には出ないように、陰に隠れてジュンを支えよう、そう思っていたから。ジュンがまた食べ残していった朝食を片付け、掃除をしながら、しきりに時計が気になる。
 授賞式が始まる時刻となった。ネットで生中継しているので視聴する。ジュンはガチガチに緊張しているのが手に取るようにわかって、史郎は笑いながらも、つられて自分まで緊張する。
「優秀賞、長谷部潤さん」
 司会の声で、初めて本名を知る。ジュンというのはそのまま本名だったんだな、と。おずおずと壇上に上がるジュンの姿を見守るは史郎は、まるで初めてピアノの発表会に出る我が子を、固唾を呑んで見守る親のような気持ちだ。
 初めて見るスーツ姿のジュンは、”着られている感”は否めないものの、史郎には新鮮で魅力的に映った。成人式みたいだな、と史郎はまた一人でニヤついた。最近一人でニヤニヤしていることが増えたな、と自覚はあったが、その視線が非常に甘やかで優しくなっていることには気づいていない。
「優秀賞に選んで頂きまして誠にありがとうございます。大変光栄です」
 コメントを求められ、たどたどしくも挨拶を始めたジュン。普段は饒舌で、やかましいぐらいなのに。もっと流暢で、想いをストレートに、言葉にしてくれるのに。いつもいつでも正直で誠実な言葉を真っ直ぐに紡いでくれるのに。と考えた後、自身を振り返った。自分はどうだろう? と。
 画面を見ているうちに胸に迫るものがあり、涙が溢れた。晴れの舞台でスポットライトを浴びるジュンが、急に遠くへ行ってしまったように感じた。いつか巣立たせなければなるまいと普段から律しているのに、ここへ来て突然、そんなの嫌だダメだと本心が駄々をこね出した。
「ちゃんとまた、ここに帰ってきてくれるかな」

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