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一人になって静まりかえった部屋で、史郎は煙草に火を付ける。ジュンがいると賑やかなので、帰ってしまった後の静寂がひどく強調される。
紫煙を肺一杯に吸い込んだあと、史郎はふふっ、と笑った。まだ「恋してください」なんて言っていたジュンを思い出し、滑稽でならないのだ。
だってそんなもの、もう、とっくに。
史郎がジュンに恋心を抱かないよう頑なに自制しているのには、二つの理由があった。
一つは、年の差。老い先短い自分なんかに、前途洋々な若者の貴重な時間を浪費させてはいけないし、もしかしたらあっという間に要介護になってしまうかもしれない。介護させるために付き合ったのかというような、そんなことにもなりかねない。ジュンだったら同じぐらいの年齢のもっと良い相手がいくらでも見つかるはずだ。先の長い人生、そういう相手をともに歩んで欲しい。わざわざ別離までの時間が短い男を相手に選ばないで欲しい。史郎とだと、一緒にいる時間よりも、遺された時間の方がきっと長くなるだろうから。
それともう一つ。やはりどうしても、自身の過去と重ねてしまう。師弟関係からの恋愛、肉体関係。かつて自身がそうであったように、いずれ史郎の存在そのものがジュンの輝かしい未来を潰してしまいやしないか、と考えると、怖くてたまらなくなる。絶対にそんなこと、あってはならない。
慕ってもらっているだけで、充分だ。恋愛というカテゴリからいよいよはじき出されかけていた自分に、あんなに若くて良い子が想いを寄せてくれている。その事実だけでもう、充分救われている。
紫煙を肺一杯に吸い込んだあと、史郎はふふっ、と笑った。まだ「恋してください」なんて言っていたジュンを思い出し、滑稽でならないのだ。
だってそんなもの、もう、とっくに。
史郎がジュンに恋心を抱かないよう頑なに自制しているのには、二つの理由があった。
一つは、年の差。老い先短い自分なんかに、前途洋々な若者の貴重な時間を浪費させてはいけないし、もしかしたらあっという間に要介護になってしまうかもしれない。介護させるために付き合ったのかというような、そんなことにもなりかねない。ジュンだったら同じぐらいの年齢のもっと良い相手がいくらでも見つかるはずだ。先の長い人生、そういう相手をともに歩んで欲しい。わざわざ別離までの時間が短い男を相手に選ばないで欲しい。史郎とだと、一緒にいる時間よりも、遺された時間の方がきっと長くなるだろうから。
それともう一つ。やはりどうしても、自身の過去と重ねてしまう。師弟関係からの恋愛、肉体関係。かつて自身がそうであったように、いずれ史郎の存在そのものがジュンの輝かしい未来を潰してしまいやしないか、と考えると、怖くてたまらなくなる。絶対にそんなこと、あってはならない。
慕ってもらっているだけで、充分だ。恋愛というカテゴリからいよいよはじき出されかけていた自分に、あんなに若くて良い子が想いを寄せてくれている。その事実だけでもう、充分救われている。
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