撮り残した幸せ

海棠 楓

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 日に日にめざましい進歩を遂げるジュンを傍らで見ているのは、史郎にとってこの上なく面白かった。もしも息子がいたら、こんな風に成長を見守るのが父親というものなのかしらん、なんて考えることもあった。出会ったときよりも格段にきらきらと輝くジュンは、そばで見ていて眩しくて、思わず目を細めてしまう。
 ――まだまだ『これから』がある人はいいな。
 そんなことを考えてしまい、史郎は一人声を立てて笑った。
「何を笑ってるんですか?」
「いや、何も」
「教えてくださいよ、気になるでしょー!」
「ジュンくんのことじゃないってば!」
 むきになってくるジュンがおかしくて、ますます笑いが止まらなくなってしまった。
「史郎さん、よく笑ってくれるようになりましたね」
 不意にジュンが言うので、史郎の笑いがようやく止まった。
「そう?」
「ええ。顔色も良くなって、なんだか若返ったような気がしますよ」
「若い子と一緒にいるからって若作りしすぎたかな」
『若返った』という言葉に、喜ぶどころか、とある現実を突きつけられた。すっかり忘れていた、ジュンとの年の差や自身の老い。
「そんなことないですよ。最近すっごくカッコよくなったなあって。出会ったときも素敵だと思いましたけど、今のほうがずっと素敵です」
 頭を掻いて恥ずかしそうに俯く史郎を、ジュンが身をかがめてのぞき込んだ。
「ねえ、史郎さん」
「なに」
「コンテストで賞を獲ったら、付き合ってくれますか?」
「……っ、まだそんなこと……!」
「僕がコンテストでちゃんと認められたら、史郎さんも僕のこと一人前の男として認めてくださいよ、それで、恋してください、僕に」
「ジュンくん……」
 正直なところ、嬉しかった。史郎だって完全に忘れたわけではなかった、あの危うく恋しかける寸前だった気持ちを。そこをなんとか、愛弟子を育てるという目的にシフトチェンジしてきたのだ。
「いつまでもそんなくだらないこと言ってないで、目の前のことに集中して取り組んで。そんな浮ついた気持ちじゃ入賞なんてできないよ」
「……わかりました」
 意気消沈を隠すことなくぐったりと頭を垂れ、ジュンは自宅に戻っていった。

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