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再びジュンと会うこととなった。自分からこれきりだと言ったくせに、なぜ返信してしまったのか、なぜ会う約束をしてしまったのか。
「お久しぶりです!」
史郎も早めに到着したのだが、今度はジュンの方が先に来ていた。顔を見れば、認めたくないが、史郎の意に反して胸が躍ってしまう。どう抗っても、やはり好みなのだ。
「今日は会ってくれて、ありがとうございます。本当に……もうこれきりかなって、思ってたんで……!」
史郎の両手を強く握りぶんぶんと振りながら頭を下げる。早速スキンシップかよ、と史郎は辟易としつつも
「本意ではない形での終わり方はどうかと思っただけだから」
自分でも何を言っているのかよくわからない。意味のわからない、無理矢理な理由付けをしてしまった。それでもジュンはへへっ、と笑った。少年のような屈託のない笑顔は、史郎に長らく忘れていた何かを思い出させる。
「今日はきちんとデートしましょう! ね?」
颯爽と史郎の手を繋ぎ、ずんずん歩き出す。引っ張られるように史郎も歩き出した。一瞬でジュンのペースに持ち込まれた。
ちゃんとしたデートとは、どんなことをするのだろう。もう長い間そんなもの、していない。史郎は手を引かれ街中を歩いている間じゅう、ずっと考えていた。これからどこへ連れて行かれるのかと。
辿り着いたのは、小高い丘。街の全貌を見下ろせる上、月を独り占めしているような、そんな光景が広がっている。
「どこかへ行くよりまずは、きちんと顔を見てお話ししたいと思って」
月明かりに照らされたジュンは、それまでの浮かれてヘニャけていた表情とかけ離れていて、少しだけ真剣な眼差しで史郎を射貫いてきた。その姿は月の光から祝福されたような、神々しささえ携えた佇まいで、そんなジュンを神秘的だ、と史郎は咄嗟に感じた。
「史郎さん?」
「あっ」
無意識に、昔の癖が出てしまった。指で四角の形を作り指フレーミングを行っていた。かつてはこうして愛する人を自分のフレームに閉じ込めて楽しんだものだ。
慌てて指フレームをやめた史郎を見てジュンは笑う。
「史郎さんが慌ててるとこ、初めて見た」
その笑顔はとても嬉しそうで、見ているものまでついつられて微笑んでしまいそうなものであった。
「写真、お好きなんですか?」
友好的に投げかけられたその問いに、史郎は眉間に皺を寄せた。
「……昔の話だよ。もうやってない」
「昔はやってらしたんですね!」
ジュンの瞳がより一層輝きを増した。聞けばジュンはカメラが趣味だという。
「本当は、趣味じゃなく食っていきたかったんですけどね」
そうぽつりと呟くジュンは、さきほどまでとは打って変わって物憂げな表情を浮かべていた。
「ジュンくん……」
よくよく聞くと、中学生の頃からカメラが趣味で、芸大の写真学科に進みたかったが、家族からの猛反対に遭い断念、現在は全く関係のない職業に就いているという。
「あんなに大好きだったのに、今はもうカメラを持つのが辛くなっちゃったんですよね……夢から逃げたっていう事実を突きつけられる気がして」
困ったように笑うジュンを見て、史郎はかつての自分を重ねていた。
「お久しぶりです!」
史郎も早めに到着したのだが、今度はジュンの方が先に来ていた。顔を見れば、認めたくないが、史郎の意に反して胸が躍ってしまう。どう抗っても、やはり好みなのだ。
「今日は会ってくれて、ありがとうございます。本当に……もうこれきりかなって、思ってたんで……!」
史郎の両手を強く握りぶんぶんと振りながら頭を下げる。早速スキンシップかよ、と史郎は辟易としつつも
「本意ではない形での終わり方はどうかと思っただけだから」
自分でも何を言っているのかよくわからない。意味のわからない、無理矢理な理由付けをしてしまった。それでもジュンはへへっ、と笑った。少年のような屈託のない笑顔は、史郎に長らく忘れていた何かを思い出させる。
「今日はきちんとデートしましょう! ね?」
颯爽と史郎の手を繋ぎ、ずんずん歩き出す。引っ張られるように史郎も歩き出した。一瞬でジュンのペースに持ち込まれた。
ちゃんとしたデートとは、どんなことをするのだろう。もう長い間そんなもの、していない。史郎は手を引かれ街中を歩いている間じゅう、ずっと考えていた。これからどこへ連れて行かれるのかと。
辿り着いたのは、小高い丘。街の全貌を見下ろせる上、月を独り占めしているような、そんな光景が広がっている。
「どこかへ行くよりまずは、きちんと顔を見てお話ししたいと思って」
月明かりに照らされたジュンは、それまでの浮かれてヘニャけていた表情とかけ離れていて、少しだけ真剣な眼差しで史郎を射貫いてきた。その姿は月の光から祝福されたような、神々しささえ携えた佇まいで、そんなジュンを神秘的だ、と史郎は咄嗟に感じた。
「史郎さん?」
「あっ」
無意識に、昔の癖が出てしまった。指で四角の形を作り指フレーミングを行っていた。かつてはこうして愛する人を自分のフレームに閉じ込めて楽しんだものだ。
慌てて指フレームをやめた史郎を見てジュンは笑う。
「史郎さんが慌ててるとこ、初めて見た」
その笑顔はとても嬉しそうで、見ているものまでついつられて微笑んでしまいそうなものであった。
「写真、お好きなんですか?」
友好的に投げかけられたその問いに、史郎は眉間に皺を寄せた。
「……昔の話だよ。もうやってない」
「昔はやってらしたんですね!」
ジュンの瞳がより一層輝きを増した。聞けばジュンはカメラが趣味だという。
「本当は、趣味じゃなく食っていきたかったんですけどね」
そうぽつりと呟くジュンは、さきほどまでとは打って変わって物憂げな表情を浮かべていた。
「ジュンくん……」
よくよく聞くと、中学生の頃からカメラが趣味で、芸大の写真学科に進みたかったが、家族からの猛反対に遭い断念、現在は全く関係のない職業に就いているという。
「あんなに大好きだったのに、今はもうカメラを持つのが辛くなっちゃったんですよね……夢から逃げたっていう事実を突きつけられる気がして」
困ったように笑うジュンを見て、史郎はかつての自分を重ねていた。
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