撮り残した幸せ

海棠 楓

文字の大きさ
上 下
7 / 18

7

しおりを挟む
 ジュンのことは忘れて、また一夜のお相手――恋人候補も視野に入れた――を探す史郎。一番よく使っていたアプリはジュンのせいで嫌なイメージがついてしまったため、別のアプリでお相手探しをしていた。年齢別に検索することも出来るが、もうなんだか信じられなくなっていた。ネットじゃ何とでも言えるもんな、とジュンのせいですっかり疑心暗鬼に陥ってしまった。
 適当に条件だけ合致する相手何人かとやりとりを交わしてみたけれど、どの相手もなんだかしっくりこない。性急に会おうともちかけられてげんなりする。もともと交流を深めるのが目的のアプリではなくやることやるためのアプリなのだから、そちらのほうが普通なのに、会話のやりとりを楽しみたくなっている自分に気づく史郎だった。
 ジュンとのやりとりは楽しかった。根掘り葉掘りという嫌な感じではなく、互いに自然といろいろなことを尋ねたり教え合ったりした。何がと問われるとわからないのだが、そのひとつひとつの会話がとても楽しくて、いうなれば『しっくりきた』のだろう。

 用無し扱いされているというのにまだ女々しく思い出しては苛立つので、例のアプリを削除することにした。きちんと退会手続きをしないと会員情報が誰からも閲覧できる状態のままとなってしまうので、退会手続きをするためだけに、ものすごく久々に、アプリを起動した。
 メッセージボックスには二桁に上る新着数が記されており、もうやめるのだから見なくても良いか、と一瞬は思ったが、一応確認だけはしておこうと、メッセージボックスを開いた。もしかしたら、新たな出会いが……という、ほんの少しの淡い期待を込めて。
 ――全部、ジュンからだった。
 交換した連絡先を登録する前にスマートフォンを壊してしまい、連絡手段がここだけになってしまったという旨を知らせるメッセージ。それが一通目。その後も何度も何度も事情を説明する同様のメッセージ、の下に、怒ってますか、会って欲しいです、好きです、返事ください、と毎回なにかしらくっついている。ほぼ毎日、一日一通のペースで送られてきていた。
「……しょうがないなあ」
 もちろんこのまま無視してアプリを消すことだってできるわけだが、悔しいけれど史郎にはできなかった。せめてもの抵抗よろしくしばらく時間をおいてから、最新の受信メッセージに返信をした。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...