10 / 11
おねだり
しおりを挟む
「なあアヤ、おねだり」
「何?」
今ならどんなおねだりでも聞いてやる、そう思った矢先。
「キスしよ」
「……は?」
「ほら、こうやって」
画面の中で、リョウの顔が近づいてくる。
「……ばか」
「なんでバカ言われなあかんねんなー」
「そういうの、ほんと勘弁して」
「さっきあんな酷いこと言うて傷つけたくせに……」
「あれ、は」
傷つけた、と言ったが、ヤキモチかな?なんて思っているリョウは内心まんざらでもないのだった。ただ、わがままを聞いてもらうための口実には使わせてもらう。
「一回だけ!舌入れんでええから」
「何言ってんだよ」
呆れてアヤが言っている間にも、画面いっぱいのリョウの顔はすっかりキス待ち顔になっている。
「……もう」
アヤはきょろきょろと周囲を見回し、人がいないのを確認すると、咳払いをひとつした。そしてほんの一瞬だけ、スマートフォンの画面越しに、二人は唇を合わせた。
「アヤ、顔真っ赤」
顔、というより耳が真っ赤なアヤは不機嫌そうに顔を背ける。
「リョウが恥ずかしいことさせるからだろ」
「そう?俺はもっとしたいけど」
「しない」
ついにテレビ電話を終了され、普通の音声通話に切り替えられてしまった。
この寒い中、アヤは変な汗が噴き出していたが、リョウはさっきまで冷えていた心が温まった。なんだかんだでわがままを聞いてくれるアヤのことが、やっぱり心の底から愛しくて、会えなくてもこうして繋がっていられると思えば、今夜の寂しさも水に流せる気がした。
「アヤ、大好きやで。昔も今も」
「そろそろ仕事に戻るよ」
ガサゴソと雑音がまじる。アヤが歩き出した衣擦れや向かい風の音なのだろう。俺の愛の囁きはスルーかよ、とリョウが突っ込もうとした時
「俺は昔より今の方が愛してるよ」
言うなり電話は切れ、リョウにとってはお馴染みのツーツー音に取って代わられた。
リョウはまだ夜空を見上げていた。もう指先の冷たさも気にならない。空を見上げてスマートフォンをかざす、そんなアヤの姿を想像すると、なんとも形容できないときめきや恋慕の情が後から後から溢れてきて止まらない。
「……けっこう俺、愛されてんな」
独りごちて、ふふっと声に出して笑った。
「何?」
今ならどんなおねだりでも聞いてやる、そう思った矢先。
「キスしよ」
「……は?」
「ほら、こうやって」
画面の中で、リョウの顔が近づいてくる。
「……ばか」
「なんでバカ言われなあかんねんなー」
「そういうの、ほんと勘弁して」
「さっきあんな酷いこと言うて傷つけたくせに……」
「あれ、は」
傷つけた、と言ったが、ヤキモチかな?なんて思っているリョウは内心まんざらでもないのだった。ただ、わがままを聞いてもらうための口実には使わせてもらう。
「一回だけ!舌入れんでええから」
「何言ってんだよ」
呆れてアヤが言っている間にも、画面いっぱいのリョウの顔はすっかりキス待ち顔になっている。
「……もう」
アヤはきょろきょろと周囲を見回し、人がいないのを確認すると、咳払いをひとつした。そしてほんの一瞬だけ、スマートフォンの画面越しに、二人は唇を合わせた。
「アヤ、顔真っ赤」
顔、というより耳が真っ赤なアヤは不機嫌そうに顔を背ける。
「リョウが恥ずかしいことさせるからだろ」
「そう?俺はもっとしたいけど」
「しない」
ついにテレビ電話を終了され、普通の音声通話に切り替えられてしまった。
この寒い中、アヤは変な汗が噴き出していたが、リョウはさっきまで冷えていた心が温まった。なんだかんだでわがままを聞いてくれるアヤのことが、やっぱり心の底から愛しくて、会えなくてもこうして繋がっていられると思えば、今夜の寂しさも水に流せる気がした。
「アヤ、大好きやで。昔も今も」
「そろそろ仕事に戻るよ」
ガサゴソと雑音がまじる。アヤが歩き出した衣擦れや向かい風の音なのだろう。俺の愛の囁きはスルーかよ、とリョウが突っ込もうとした時
「俺は昔より今の方が愛してるよ」
言うなり電話は切れ、リョウにとってはお馴染みのツーツー音に取って代わられた。
リョウはまだ夜空を見上げていた。もう指先の冷たさも気にならない。空を見上げてスマートフォンをかざす、そんなアヤの姿を想像すると、なんとも形容できないときめきや恋慕の情が後から後から溢れてきて止まらない。
「……けっこう俺、愛されてんな」
独りごちて、ふふっと声に出して笑った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
想いの名残は淡雪に溶けて
叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。
そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。
そんなこんなで今夜もたこ焼き
海棠 楓
BL
関西弁乙女脳男子リョウ&天然クーデレ塩対応アヤのリバCPがただたこ焼きを食べるだけの話。
Xの企画『ルクイユのおいしいごはんBL』に参加するために書きました。
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【完結】日成らず君となる
セイヂ・カグラ
BL
菊川灯治は無口な人間だった。
高校ニ年生の秋、1年上の先輩のバイクに乗った。先輩は推薦合格で都会の大学に行くらしい。だから最後の思い出作り。やけに暑い秋だった。
メリバBLです。
アイドルの墓場(末っ子5)
夏目碧央
BL
七人組男性アイドルグループのメンバーであるレイジは、メンバーのテツヤと恋人同士。メンバーの怪我により、メンバーはそれぞれ個人活動を強いられていたが、ソロ活動を終えたメンバー四人は、演劇訓練所へ送られる事に。アイドルの墓場とも言われる訓練所は、国内に二カ所ある。あろうことかレイジとテツヤはそれぞれ別々の訓練所へ送られてしまった。レイジと同じ訓練所へ送られたカズキは、恋人と別れて以来元気がない。レイジが甲斐甲斐しく世話をしていると、カズキから好きになってしまったと言われ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる