頼りないセンセイと素直じゃない僕

海棠 楓

文字の大きさ
上 下
10 / 10
第二章

第10話

しおりを挟む
悠一は顔から耳まで赤くなった。
こんなに自分の事を、二人のこれからを考えてくれてたなんて。
それなのに自分はといえば、早とちりした挙句感情に任せて罵って……
恥ずかしい。

やっぱり、まだまだ子どもだ。そして先生は、やっぱり大人なんだ。

「っ、センセ……」
泣き出しそうな悠一の目を覗きこみ、小首を傾げながら優しく言う。
「いつになったら名前で呼んでくれるの?悠。俺、まだ悠の先生止まり?」
「だって……」
「『だって』、何?」
「『貴之』って呼べって言ったけど、年上に呼び捨てなんか……」
「なにが年上に、だよ。普段人を人とも思わぬ扱いのクセにさ」
 目は優しいまま、長谷部のささやかな反撃。
「じゃあ……貴之」
「ん?」
「今までずっと……ごめん。俺、子ども扱いされたくなくて背伸びして、いっつも生意気なことばかり言って……」

それを聞いた長谷部は、相変わらず嬉しそうに、幸せそうに笑って言った。
「いいんだよ。そんな悠が好きなんだから。これからも、今の悠のままでいいんだよ」
コツンとおでこをぶつけて、この時初めて唇を合わせた。
「た、たかゆ」
「悠一が卒業するまで我慢しようって思ってたんだけど、ごめん、無理だった」
茹で蛸のように真っ赤になる悠一と、少し赤くなって鼻の頭をかく長谷部。
「……キスだけじゃなくて、いろんなこと、我慢してるんだよ、これでも」
日ごろから長谷部が何もしてこないことに少々疑問というか不満を抱いていた悠一は、その時初めて長谷部の心の内を知ったのだった。


「さっきの話だけど。一緒に来てくれる?」
「えっと、フランスの話?」
「うん」
「でも俺、フランス語全然わからないんだけど」
「あは、大丈夫大丈夫。俺も全然わかんないから!」
「はっ?」
二人は顔を見合わせると、声をあげて笑った。


来年の誕生日は生きてきた中で最高に幸せな誕生日にする。
悠一はそう決意した。

長谷部と二人でドライブする。
運転はもちろん、悠一だ。
十八の誕生日を迎えると同時に、免許を取ろう。
長谷部のように道を間違えないし、いつでも好きな時に、好きなところへ二人で行ける。
疲れたら交代して、ずっと二人で同じ道を走ろう。
二人ならフランスだって地の果てだって、どこまでだって走り続けてやる。
そのころには俺だって、今より少しは大人になってるはずだから。
……だから、その時は、さっきの続きをしてくれる?


【おわり】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...