頼りないセンセイと素直じゃない僕

海棠 楓

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第二章

第7話

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時は流れ、一年後。
季節は一回りし、またまぶしい新緑を五月の風が撫でている。

「刈谷。いい加減にしろよ。お前、俺がそんなに嫌いか?」
長谷部がうんざりという表情で溜息をつく。
「まあね、あんまし好きではないですね」
言われた方も負けてはいない。


ここはとある公立高校、よくある普通の授業風景だ。
今のやりとりは現代文の授業中、長谷部という教師と刈谷という生徒の会話。
「だろうな。じゃないと毎回こんな憎々しい点取れないよなぁ……」
今度はやれやれ、といわんばかりに大袈裟な溜息をつく。

現代文が大の苦手で、試験ではいつも一桁の点しか取れない刈谷に苦言を浴びせているのだ。
長谷部はまだ一昨年大学を出たばかりの新任教師で、その分余計に生徒の出来にいちいち一喜一憂してしまう。

見るからに神経質そうな細面の顔だちに、線の細い銀縁の眼鏡。
周囲に気を使いすぎで、完璧主義。A型を絵に描いたような男、長谷部貴之、二十五歳。

一方の刈谷悠一は、現代文だけで平均点を軽く二十点下げる男。
頭が良いんだか悪いんだかわからない。
すらりとした長身に少し冷たそうな目つきと、その現代文を除く優秀な成績が、無意識に周囲との壁を作っていた。

「先生ん家で個人指導してくれます?」
どうせできないだろう、とでも言いたげに、意地悪く刈谷が笑って見せる。
長谷部は面食らった様子だったが、すぐに
「いいよ。もちろんだ」
 愛想笑いとは到底思えない笑みで答えた。

 
次の日曜日。二人は長谷部の家の最寄駅で待ち合わせた。
刈谷は電車を二回ほど乗り換え、揺られること小一時間。
その間長谷部がどんな服を着て現れるのかとか、ランチはどこの店に連れていってくれるんだろうとか、決して長谷部の前では表さないワクワクした気持ちと対峙していた。

「お、刈谷。ホントに来たな。よしよし」
嬉しそうに笑う私服の長谷部は、普段の学校でいる時よりもかなりラフな服装で、きっちりと分けている髪も今日は洗いざらしのようだ。
こうして見ると、刈谷と大して年が変わらないようにも見える。

「もういい加減くさい芝居は止めたらどう、センセ」
刈谷がニヤリ、と笑う。
「悠、無茶言い出すんだもんな。授業中に堂々とデートの約束取り付けるなよ」
 急に『教師』の顔から『男性』の顔に変わり、名字から名前呼びに変えた長谷部は、悠一の肩に手を置いて言った。
二人は微笑みを交わすと、近くに停めてあった長谷部の車に乗り、心地よい春風の中、休日のドライブとしゃれ込んだ。
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