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第一章
第2話
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五月に入るとまたまた面倒な事が待っていた。
遠足──さすがに高校生ともなると『校外学習』とかいうもっともらしい名前で呼ぶらしいが。
俺はこの手の行事が大嫌いだ。遠足や、文化祭、体育祭に、修学旅行──。
学校なんて、勉強だけ教えてくれてりゃそれでいいじゃないか。
数人でグループを作り、グループごとに何やら探して歩くらしい。
俺はごめんだ。
当日は休んでやろう、なんて考えていた。
ところが、当日の朝。
まだパジャマのままうとうとしていると、母親の声に起こされた。
「悠一、担任の先生がお見えだけど……?あんた、なんかしたの?」
母親のそんな声で飛び起きた俺は、わけもわからず玄関に急いだ。
「おはよう、刈谷。さ、行こうか」
にっこり笑うアイツ。
「あの、行こうか、って……?」
心配そうにおろおろしている母親が後ろから問う。
「あ、今日は一年全員で遠足なんですよ」
「え……あんた、今日は学校休みだって言ったじゃない?」
余計なことを……。
憮然たる表情のまま、母親に背中を押され、長谷部に手を引かれ、俺は長谷部の車に押し込まれた。
「やっぱり来ない気だったんだな」
何もかもお見通しという風にクスッと笑う長谷部にまた腹が立ったが、そこは何も言わず窓の外を眺めていた。
オリエンテーリングとかいう面倒ごとが終わり、昼食の時間になった。
そう言えば、あんな風に出てきたから俺は何も食べる物を持っていないんだった。
どうしよう……。
さんざん歩かされたから、腹は異常に減っている。
「刈谷、刈谷!」
嬉しそうに笑いながら、長谷部が遠くから手招きする。
反応せずに知らん顔していたら、向こうからやってきた。
「刈谷、弁当ないだろ?俺、ちゃんと持って来てるぞ、お前の分」
はぁ?一教師が、一生徒にここまでやるか?
……でも、腹は減った。
プライドも、空腹の前には勝てなかった。
広い草っぱらの中でも、あまり人気のないところで俺たちは昼食を摂ることになった。
嬉しそうにうきうきと弁当の包みを開く長谷部を見ていて、なんだか妙な気分になってきた。
この人、なんかかわいい。
年上なんだけど、かわいくないか……?
子供っぽいかわいさもあるし、女の子の顔がかわいい、という時に使う『かわいい』でもあるような気もする。
色白で線が細くて、眼鏡の奥のまつ毛が長くて……指も細いなあ。
そんなことを思いながらじーっと長谷部を見ていると、弁当を広げ終えた長谷部が俺の視線に気づいたようで「ん?」と顔を上げた。
視線がぶつかると何故か妙にドキドキしてしまい、俺は慌てて視線を外した。
「お待たせ。さぁ食べてくださいね~」
上機嫌で弁当を勧める長谷部。
誰が作ったのかは知らないが、それは丁寧な手作り弁当だった。
「……いただきます……」
やっぱりなんか悔しいな、と思いつつ、俺は箸をつけた。
定番の卵焼き、ウィンナー、おむすび。
ごくごくありきたりの弁当だが、美味い。
不覚にも、箸が止まらない。
遠足──さすがに高校生ともなると『校外学習』とかいうもっともらしい名前で呼ぶらしいが。
俺はこの手の行事が大嫌いだ。遠足や、文化祭、体育祭に、修学旅行──。
学校なんて、勉強だけ教えてくれてりゃそれでいいじゃないか。
数人でグループを作り、グループごとに何やら探して歩くらしい。
俺はごめんだ。
当日は休んでやろう、なんて考えていた。
ところが、当日の朝。
まだパジャマのままうとうとしていると、母親の声に起こされた。
「悠一、担任の先生がお見えだけど……?あんた、なんかしたの?」
母親のそんな声で飛び起きた俺は、わけもわからず玄関に急いだ。
「おはよう、刈谷。さ、行こうか」
にっこり笑うアイツ。
「あの、行こうか、って……?」
心配そうにおろおろしている母親が後ろから問う。
「あ、今日は一年全員で遠足なんですよ」
「え……あんた、今日は学校休みだって言ったじゃない?」
余計なことを……。
憮然たる表情のまま、母親に背中を押され、長谷部に手を引かれ、俺は長谷部の車に押し込まれた。
「やっぱり来ない気だったんだな」
何もかもお見通しという風にクスッと笑う長谷部にまた腹が立ったが、そこは何も言わず窓の外を眺めていた。
オリエンテーリングとかいう面倒ごとが終わり、昼食の時間になった。
そう言えば、あんな風に出てきたから俺は何も食べる物を持っていないんだった。
どうしよう……。
さんざん歩かされたから、腹は異常に減っている。
「刈谷、刈谷!」
嬉しそうに笑いながら、長谷部が遠くから手招きする。
反応せずに知らん顔していたら、向こうからやってきた。
「刈谷、弁当ないだろ?俺、ちゃんと持って来てるぞ、お前の分」
はぁ?一教師が、一生徒にここまでやるか?
……でも、腹は減った。
プライドも、空腹の前には勝てなかった。
広い草っぱらの中でも、あまり人気のないところで俺たちは昼食を摂ることになった。
嬉しそうにうきうきと弁当の包みを開く長谷部を見ていて、なんだか妙な気分になってきた。
この人、なんかかわいい。
年上なんだけど、かわいくないか……?
子供っぽいかわいさもあるし、女の子の顔がかわいい、という時に使う『かわいい』でもあるような気もする。
色白で線が細くて、眼鏡の奥のまつ毛が長くて……指も細いなあ。
そんなことを思いながらじーっと長谷部を見ていると、弁当を広げ終えた長谷部が俺の視線に気づいたようで「ん?」と顔を上げた。
視線がぶつかると何故か妙にドキドキしてしまい、俺は慌てて視線を外した。
「お待たせ。さぁ食べてくださいね~」
上機嫌で弁当を勧める長谷部。
誰が作ったのかは知らないが、それは丁寧な手作り弁当だった。
「……いただきます……」
やっぱりなんか悔しいな、と思いつつ、俺は箸をつけた。
定番の卵焼き、ウィンナー、おむすび。
ごくごくありきたりの弁当だが、美味い。
不覚にも、箸が止まらない。
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