頼りないセンセイと素直じゃない僕

海棠 楓

文字の大きさ
上 下
2 / 10
第一章

第2話

しおりを挟む
五月に入るとまたまた面倒な事が待っていた。
遠足──さすがに高校生ともなると『校外学習』とかいうもっともらしい名前で呼ぶらしいが。
俺はこの手の行事が大嫌いだ。遠足や、文化祭、体育祭に、修学旅行──。
学校なんて、勉強だけ教えてくれてりゃそれでいいじゃないか。
数人でグループを作り、グループごとに何やら探して歩くらしい。
俺はごめんだ。
当日は休んでやろう、なんて考えていた。
 
ところが、当日の朝。
まだパジャマのままうとうとしていると、母親の声に起こされた。
「悠一、担任の先生がお見えだけど……?あんた、なんかしたの?」
母親のそんな声で飛び起きた俺は、わけもわからず玄関に急いだ。
「おはよう、刈谷。さ、行こうか」
にっこり笑うアイツ。
「あの、行こうか、って……?」
心配そうにおろおろしている母親が後ろから問う。
「あ、今日は一年全員で遠足なんですよ」
「え……あんた、今日は学校休みだって言ったじゃない?」
 余計なことを……。


憮然たる表情のまま、母親に背中を押され、長谷部に手を引かれ、俺は長谷部の車に押し込まれた。
「やっぱり来ない気だったんだな」
何もかもお見通しという風にクスッと笑う長谷部にまた腹が立ったが、そこは何も言わず窓の外を眺めていた。

オリエンテーリングとかいう面倒ごとが終わり、昼食の時間になった。
そう言えば、あんな風に出てきたから俺は何も食べる物を持っていないんだった。
どうしよう……。
さんざん歩かされたから、腹は異常に減っている。

「刈谷、刈谷!」
嬉しそうに笑いながら、長谷部が遠くから手招きする。
反応せずに知らん顔していたら、向こうからやってきた。
「刈谷、弁当ないだろ?俺、ちゃんと持って来てるぞ、お前の分」
はぁ?一教師が、一生徒にここまでやるか?
……でも、腹は減った。
プライドも、空腹の前には勝てなかった。

広い草っぱらの中でも、あまり人気のないところで俺たちは昼食を摂ることになった。
嬉しそうにうきうきと弁当の包みを開く長谷部を見ていて、なんだか妙な気分になってきた。

この人、なんかかわいい。
年上なんだけど、かわいくないか……?
子供っぽいかわいさもあるし、女の子の顔がかわいい、という時に使う『かわいい』でもあるような気もする。
色白で線が細くて、眼鏡の奥のまつ毛が長くて……指も細いなあ。

そんなことを思いながらじーっと長谷部を見ていると、弁当を広げ終えた長谷部が俺の視線に気づいたようで「ん?」と顔を上げた。
視線がぶつかると何故か妙にドキドキしてしまい、俺は慌てて視線を外した。
「お待たせ。さぁ食べてくださいね~」
 上機嫌で弁当を勧める長谷部。
誰が作ったのかは知らないが、それは丁寧な手作り弁当だった。
「……いただきます……」
やっぱりなんか悔しいな、と思いつつ、俺は箸をつけた。
定番の卵焼き、ウィンナー、おむすび。
ごくごくありきたりの弁当だが、美味い。
不覚にも、箸が止まらない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

ポンコツアルファを拾いました。

おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて…… ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。 オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。 ※特殊設定の現代オメガバースです

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...