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第3話
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上高地には特に大々的なレジャー施設やテーマパークなどがあるというわけではない。そこにはただ自然が広がるだけ。アヤは海沿いに住んでいるので、山と渓谷に囲まれたこんな風景は新鮮だ。
リョウが車を降りてすぐに向かったのはボート乗り場だ。水が綺麗なことで有名なこのあたりでは、やはりボートは外せない、とリョウが力説する。乗ってみればなるほど、透明度が非常に高い水面、の下では、これまた目にも眩しい青々とした水草が揺らめいている。ボートで揺られながらそれらをじっと見つめているだけで、随分と心洗われる気分だ。
「水触ってみ! つんめたいで!」
ボートから水面に手を伸ばし、水に触れるとリョウははしゃぐ。普段ならスルーのアヤだが、この時は素直に従ってみた。なるほど、この季節とは思えない水温で、ぽやぽやとまどろむような心地だった意識が一気に引き締まる。が、不快な類ではない。そう、ここへ来てから、全てが心地良い。
「空気うまいよなあ」
ボートを降り、歩きながらリョウが深呼吸しながら言ったひとことで、アヤは合点がいった。あらゆる心地良の根底は、そこにあるのかもしれない、と。いつもと同じものを見ているはずなのに、青と白のコントラストが見事な青空。新緑の季節ということもあるだろうが、濃度と彩度の高い緑の草木。いつもよりもくっきりと輪郭が浮き立つような景色は、空気が澄んでいるからなのだろう。
「気持ちいいね」
何気なく、ほとんど無意識にアヤの口から出たひとことが、リョウに満面の笑みをもたらした。渋々付き合わせているのは重々承知だ。申し訳ないといつも思いながらも、一緒に出かけて思い出を共に重ねていきたいという気持ちには勝てない。だから、アヤが少しでも、来て良かったと思ってくれるのなら、リョウにとってそれは何にも代えがたい喜びとなるのだ。青い空も白い雲も、生命力溢れる木々も輝く水面も、アヤと見ることにこそ意味がある。アヤが付き合ってくれなかったら他の人と、なんて言ったが、きっとああでも言わないと付き合ってくれないだろう、逆に言えば、ああ言えば付き合ってくれるだろうと思っての、リョウの策略だ。
リョウが車を降りてすぐに向かったのはボート乗り場だ。水が綺麗なことで有名なこのあたりでは、やはりボートは外せない、とリョウが力説する。乗ってみればなるほど、透明度が非常に高い水面、の下では、これまた目にも眩しい青々とした水草が揺らめいている。ボートで揺られながらそれらをじっと見つめているだけで、随分と心洗われる気分だ。
「水触ってみ! つんめたいで!」
ボートから水面に手を伸ばし、水に触れるとリョウははしゃぐ。普段ならスルーのアヤだが、この時は素直に従ってみた。なるほど、この季節とは思えない水温で、ぽやぽやとまどろむような心地だった意識が一気に引き締まる。が、不快な類ではない。そう、ここへ来てから、全てが心地良い。
「空気うまいよなあ」
ボートを降り、歩きながらリョウが深呼吸しながら言ったひとことで、アヤは合点がいった。あらゆる心地良の根底は、そこにあるのかもしれない、と。いつもと同じものを見ているはずなのに、青と白のコントラストが見事な青空。新緑の季節ということもあるだろうが、濃度と彩度の高い緑の草木。いつもよりもくっきりと輪郭が浮き立つような景色は、空気が澄んでいるからなのだろう。
「気持ちいいね」
何気なく、ほとんど無意識にアヤの口から出たひとことが、リョウに満面の笑みをもたらした。渋々付き合わせているのは重々承知だ。申し訳ないといつも思いながらも、一緒に出かけて思い出を共に重ねていきたいという気持ちには勝てない。だから、アヤが少しでも、来て良かったと思ってくれるのなら、リョウにとってそれは何にも代えがたい喜びとなるのだ。青い空も白い雲も、生命力溢れる木々も輝く水面も、アヤと見ることにこそ意味がある。アヤが付き合ってくれなかったら他の人と、なんて言ったが、きっとああでも言わないと付き合ってくれないだろう、逆に言えば、ああ言えば付き合ってくれるだろうと思っての、リョウの策略だ。
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