誕生日は大忙し

海棠 楓

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第2話

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 いつぞや一緒にショッピングへ行ったときに見立ててもらった服をそのとき以来ぶりに袖を通した。てろんとしたとろみのあるカーキのテーラードジャケットにアイボリーのゲージニット、グレーのパンツ。
 プラン立てに頭を悩ませ続け、昨夜も遅くまで唸っていたため寝不足だ。なので朝っぱらから映画など見ていたらきっと寝てしまう。はじめは今話題の、男性同士の恋愛ものでも観ようと思いついていたのが、目にも耳も刺激的であろうド派手なアクション映画に変更しようとした。しかし探してみてもそういった作風の映画は今やっていないようで、結局最初に思いついたものにする。

 待ち合わせ場所にはいつものように既にリョウが到着していた。いつも洒落た格好をしているが、宣言通り今日はいつも以上にめかし込んでいるのがアヤにでもわかる。リョウ的に定番のテーパードパンツ、本日は黒。センタープレスが入っているためいつもよりきちんとした印象だ。足下は黒のバブーシュをきちんと履き、真っ白の飾り気ないカットソーの上に、チャコールの薄いチェスターコートを羽織っている。いつものリョウよりも幾分地味で落ち着いた色使いである。いつものように綺麗に刈られたばかりのうなじが、今日のためにぬかりなく準備に勤しんだことを知らしめる。

「今日はよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げるリョウにアヤは少し戸惑いながらも、可愛いな、と目を細くした。

 実はリョウだって寝不足だった。何日も前から待ち焦がれたこの日、楽しみで楽しみで仕方がなかった。アヤに会えるのはいつも楽しみで仕方がないのだけど、やっぱりこの日は特別で。付き合い始めて初めて、二人できちんとお祝い。昨夜は眠れなかった。始発でアヤの家に突撃しようかと思うぐらい待ちきれなかった。早く飛びつきたいぐらいに気が急いていたのに、いざアヤの顔を見ると妙に緊張というか、恥じらいというか、いずれにせよなんで今更、という感情が生まれてしまい、なんだか他人行儀な態度になってしまった。

 車が発進した後も、リョウは無口だ。いつもなら車に乗り込むやいなや、マシンガントークで近況報告が始まるのに。
「どうかした?」
「ん、いや、……」
 なんとも歯切れの悪い返事がこれまたリョウらしくない。訝しく思いながらも、今は運転に集中せねばと気持ちを切り替えるアヤだった。

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