37 / 40
心の軋む音がする
2
しおりを挟む
「ねえ、静流くん、もう1ヶ月も学校来てないね…」
「どうしたのかな、体壊してるのかな」
そんな話が嫌でも紫苑の耳に入ってきた。
(脆いからな…胃でも悪くしてるんだろ)
そんな事を考えた自分が、女々しかった。
紫苑の予想通り、静流は胃潰瘍を患っていた。自宅で療養していると、部屋のチャイムが鳴った。小夜だ。
「学校の方で、ずっと欠席してると聞いたものですから…」
「――帰ってくれませんか」
静流は冷たい目で言った。
「静流くん?」
「学校へ行ったのなら僕らのことも聞いたんでしょう」
「だから…」
媚びるように首を傾けながら笑いかける小夜。腹立たしい。
「こういう時に、待ってましたとばかりに他人の心のスキに入りこむのって卑怯だと思いませんか?」
――あいつみたいに。
「誤解のないよう言っておきますが、僕はあなたと一緒になるために紫苑と別れたんじゃない。勿論、紫苑と別れたからあなたと、というつもりもない」
数日後、静流はやっと外出できるようになり、大学へ顔を出した。
(休んでた間のノート借りなきゃな…)
適当に席を見つけて腰を下ろし、近くにいた顔見知りに頼もうとしたとき、背後から手が伸びてノートが手渡された。 振り返ると、紫苑だった。
「休んでた間のノート」
二人は互いに物言えぬまま、暫く見合っていた。
「紫苑くんっ」
寄ってきた水原の声で二人は我に返った。
「あ、静流くん…」
申し訳なさそうな目で静流を見る。
そんな目で見ないでくれ、と静流は苦々しく思った。
「いいよ紫苑、他の子に借りる」
「そっそうよね。行きましょ、紫苑くん」
紫苑はまだ何か言いたげだったが、水原が強引に連れ去ってしまった。 去り際に、
「しず!俺、これからも普通に話とかしたいから…」
すまなそうに言う。 みんなで憐れんで、これ以上僕を貶めるのか――?!
「ベタベタすんなよ」
ぴったり寄り添って歩く水原に、紫苑が言った。
(何よ、静流くんとはベタ甘だったくせに)
口には出さず、心でそう言った。
静流くんへのあてつけだってわかってる、けど…一緒にいたい。
「ねえ紫苑くんっ、私のこと本当に好きなの?」
今だけ、一度でいいから、嘘でもいいから言って――。
「『本当に』?俺、お前のこと好きって言った覚えねーけど」
水原の願いは無残に打ち砕かれた。
「そんな…付き合おう、って…」
「カンケーねーじゃん、そんなの。おれ別に好きでもねーヤツとでも付き合えるし」
優しさのかけらもない紫苑の言葉。なまじ静流へ優しさを注いでいた紫苑を知っているだけに、自分への扱いが違いすぎてつらい。
水原の目に涙が見えると、
「つまんねー女」
とだけ残し、紫苑は行ってしまった。
「どうしたのかな、体壊してるのかな」
そんな話が嫌でも紫苑の耳に入ってきた。
(脆いからな…胃でも悪くしてるんだろ)
そんな事を考えた自分が、女々しかった。
紫苑の予想通り、静流は胃潰瘍を患っていた。自宅で療養していると、部屋のチャイムが鳴った。小夜だ。
「学校の方で、ずっと欠席してると聞いたものですから…」
「――帰ってくれませんか」
静流は冷たい目で言った。
「静流くん?」
「学校へ行ったのなら僕らのことも聞いたんでしょう」
「だから…」
媚びるように首を傾けながら笑いかける小夜。腹立たしい。
「こういう時に、待ってましたとばかりに他人の心のスキに入りこむのって卑怯だと思いませんか?」
――あいつみたいに。
「誤解のないよう言っておきますが、僕はあなたと一緒になるために紫苑と別れたんじゃない。勿論、紫苑と別れたからあなたと、というつもりもない」
数日後、静流はやっと外出できるようになり、大学へ顔を出した。
(休んでた間のノート借りなきゃな…)
適当に席を見つけて腰を下ろし、近くにいた顔見知りに頼もうとしたとき、背後から手が伸びてノートが手渡された。 振り返ると、紫苑だった。
「休んでた間のノート」
二人は互いに物言えぬまま、暫く見合っていた。
「紫苑くんっ」
寄ってきた水原の声で二人は我に返った。
「あ、静流くん…」
申し訳なさそうな目で静流を見る。
そんな目で見ないでくれ、と静流は苦々しく思った。
「いいよ紫苑、他の子に借りる」
「そっそうよね。行きましょ、紫苑くん」
紫苑はまだ何か言いたげだったが、水原が強引に連れ去ってしまった。 去り際に、
「しず!俺、これからも普通に話とかしたいから…」
すまなそうに言う。 みんなで憐れんで、これ以上僕を貶めるのか――?!
「ベタベタすんなよ」
ぴったり寄り添って歩く水原に、紫苑が言った。
(何よ、静流くんとはベタ甘だったくせに)
口には出さず、心でそう言った。
静流くんへのあてつけだってわかってる、けど…一緒にいたい。
「ねえ紫苑くんっ、私のこと本当に好きなの?」
今だけ、一度でいいから、嘘でもいいから言って――。
「『本当に』?俺、お前のこと好きって言った覚えねーけど」
水原の願いは無残に打ち砕かれた。
「そんな…付き合おう、って…」
「カンケーねーじゃん、そんなの。おれ別に好きでもねーヤツとでも付き合えるし」
優しさのかけらもない紫苑の言葉。なまじ静流へ優しさを注いでいた紫苑を知っているだけに、自分への扱いが違いすぎてつらい。
水原の目に涙が見えると、
「つまんねー女」
とだけ残し、紫苑は行ってしまった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが
星咲ユキノ
恋愛
三原菜々香(25)は、初恋相手に罰ゲームで告白されたトラウマのせいで、恋愛に消極的になっていた。ある日、職場の先輩に連れていかれた合コンで、その初恋相手の吉川遥希(25)と再会するが、何故かヤンデレ化していて…。
1話完結です。
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる