君にすくわれた僕は。

海棠 楓

文字の大きさ
上 下
25 / 40
受験

2

しおりを挟む
 まさか3年生にもなって初めての停学処分を食らうとは。親が聞いたら泣くな。
静流はとぼとぼ寮へ向かって歩いていた。
 すぐ後から紫苑がやってきて、柄にもなくもじもじしながら静流に話しかける。
「しず…勉強、教えて欲しいんだけど」
静流は嬉しかった。やっとやる気になってくれたのか。まるでデキの悪い子供を持つ母親だ。だから勿論笑顔で快く承諾した。

 「どこをどう間違えばそーなるんですッ」
パコーンと、とても軽い音が響く。どうやら隠れスパルタだったらしい。
間違うたびに丸めたノートで叩かれる。この上ない(?)屈辱だった。
しかも、正解率によっては、泊めてもらえない(=させてもらえない)のだ。 夏休み中、紫苑はずっと静流に虫けらのように扱われた。
「中学校からやり直し!!」
「おーやってやらぁ!」
 しかし、今思えば、静流も自分の勉強の時間を削ってよく付き合ってくれた。それにあの扱いはきっと紫苑の性格―超負けず嫌い、エサに弱い―を見抜いてのことだったんだろう。
 紫苑は、夏休みが終わって、静流に感謝せずにはいられなくなる。
夏休み開けの実力テストで、約300人中200番以内に入った。いつもは250番ぐらいなのに。
「紫苑!よく頑張ったねー」
静流が駆け寄ってきて、二人は抱き合ってキャッキャと喜んだ。見ているほうが暑苦しい。
 「この調子で頑張ればD大も夢じゃなくなるよ」
D大とは、Aランクの中では最低ラインの大学。静流はできればそれ以上落としたくなかった。
「ん…でも、しず自分の勉強あるだろ…それにお前ならB大ぐらい…」
「らしくないなー!いいんだよ、そんなこと気にしなくても」
静流が紫苑の肩をポンポン叩いて笑いかける。
「僕は、紫苑と同じトコに行きたいんだよ…」
間近に顔を持ってきて、真剣なまなざしでそう言われると、紫苑もまんざらではない。
「そ、そう??」
「そーだよぉ。だからこれからもこの調子で…」

 スパーン。
「ちがーう!!」
結局これがやりたいだけなんじゃあないのか?と、一抹の不安を感じる紫苑。

 夏休み明けの三者面談。紫苑の場合。
「蒼城…確かに今お前は急上昇中だが、D大はちょっと、いやかなりしんどいぞ…」
「いーじゃん別に!ほかも受けんだしよ!」
舌を出しての悪態に、母親は入る穴を探した…。

 静流の場合。
「速水…なんでD大なんだ?君の実力ならA大だって努力次第では…」
先生も母親も同じ事を言う。しかしそこは静流、さすがである。
「やりたい学科がそこしかなくて。偏差値だけで大学を決めるつもりはありません」
にこやかに、優雅に、ウソ八百。
「そ、そうか…さすが速水ほどにもなると言うことが違うな…」
すっかり圧倒されてしまった先生。

 紫苑はそれからも頑張った。生まれてこの方したことのなかった努力というものを、
今まで使っていなかった分使いきった。ただ、ヤりたいがために…。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...