君にすくわれた僕は。

海棠 楓

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ゆっくりと、知っていく

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 翌朝。
「どうもお邪魔しました。突然押しかけてすみません」
そう言う静流に紫龍はニコニコ笑って手を横に振った。
「いーのいーの。またいつでも来てね。ところで、紫苑ちゃんは一緒に出なくていいの?」
当の紫苑はまだ夢の中だ。
「はぁ…何度か起こしたんですが起きないんで。それに僕は一端寮で着替えるから早く出ないとダメなんです。紫苑はまだ寝てて大丈夫ですから」
紫雲も見送りに出てきた。そして二人が静流に言う。
「私達、兄バカかもしれないけど、あの子のことかわいくてしょーがないの」
「そのせいでかなりワガママに育ってしまったんですがよろしくお願いします」
…静流、ちょっと引く。

 それから30分ほど経っただろうか。凄まじい足音と共に紫苑が嵐のようにやってきた。
「龍ちゃん!兄ちゃん!!静流は?!」
「もうとっくに帰ったわよ」
冷め冷めで紫龍が言い放つ。
「くっそー、なんで起こさねんだよアイツはぁぁ」
制服のシャツを着ながら、バランス栄養食をほおばる。
「紫龍のJOKER乗って行きなさいよ、なら間に合うでしょ」
そう言って紫龍が原付のキーを放り投げ、紫苑はキャッチしたものの、
「――やっぱ原チャ、やめとくわ」

 「あ。間に合ったんだ」
微笑を浮かべる静流の涼しい顔に、バランス栄養食の空箱が軽い音を立てて激突した。
なおも静流は笑みを崩さず、ご丁寧に空箱を紫苑の顔にお返しした。
また始まったという周囲の反応が、次第に応援のようなヤジのようなものに変わってきた。
「静流負けんなよ」
「やっちまえ蒼城」
「いーぞ静流」
……ん?
ちょっと待てよ、と紫苑は手を止めた。
 なんでみんな静流のこと静流って呼ぶんだよ―――?!
そうだ、コイツが誰彼構わず愛想振り撒くからだ!
はっきり言って正解は、紫苑がそう呼ぶから定着しただけなのだが、紫苑の頭の中では勝手な結論が出され、急にプイと静流に背を向けた。
 静流は何が何だかわからないが、今度は何を怒ってるんだか、と苦笑した。
「またあとでね」
ばつが悪そうにちょっと振りかえって「おう」とだけ返事して去って行った紫苑が、自分でも戸惑うくらい愛しく感じていた。 
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