10 / 40
ゆっくりと、知っていく
1
しおりを挟む
なんか最近静流ってナチュラリーだな、などと噂されるようになったのは、紫苑と付き合い始めて2ヶ月ほどが経過した頃だ。
実際、傍から見て静流は、以前よりも自然な感じだし、当の静流自身も、肩の荷が下りたような快適さを感じていた。
以前は頼れるお兄さん、というイメージが強かった彼だが、なんとなく今となっては可愛らしくさえ思ってしまう。
そんな評判は、あくまでもひっそりと、囁かれていた。なぜなら――
「とおりゃっ」
ニコニコ話している静流の背後から、紫苑が飛びかかってきた。
「誰にでもヘラヘラしてんじゃねーぞっ」
口の両端を抓り上げる。
「でっでもっ、蒼城のおかげなんです…」
痛いながらも必死で訴えると、やっと紫苑は両手を離した。
「自然体でいることがこんなにラクだなんて…ありがとう」
「よかったじゃん」
静流は心の中で思っていた。
蒼城紫苑とはとことんワケのわからないヤツだけど、一番不思議なのはこの根性悪がなんでこんな顔できるのか、という点だ。
そう思わせるに値する、まるで純粋無垢な子供のような笑顔を、紫苑はたまにする。
「でも礼なんて言うな」
紫苑の言葉に、見とれていた静流が我に返る。
「恋愛は常に50/50―――そうだろ?」
寒いセリフを吐き不敵に笑う紫苑に外野から野次が飛ぶ。”どこかよそでやれ”と。
さて、その野次通り本当に二人は屋上に場所を変え、軽くキスした後、紫苑が本題を切り出した。
「ところで俺の用なんだけどさ―――聞いたよ、生徒会のヤツから」
聞いた、と言うのは勿論、静流が生徒会の弱みを握ったことによって紫苑の退学が免れたことだ。
「余計なことすんなよ。てめーまで生徒会敵に回しちまうじゃんよ」
予想外の言葉に静流は驚いた。恩に着せるわけではないけれど、少しは感謝されるかと思っていた。
「余計なことって…今度バレたら退学だったんだろう?!」
半ば興奮気味の静流を尻目に、
「いんだよ、それならそれで」
紫苑はまったく動じる気配も無い。
「いい?本当に?!…もう毎日会えなくなっても――?」
肩を戦慄かせながら発せられた小さな声に、紫苑は初めて意思の疎通が誤って行われていることに気づいた。
「悪かったよ、おまえまで悪者になる必要はねぇって言いたかったんだ。それに――毎日会わなきゃ潰れる仲なん?俺らって…」
じっと静流を見据えて話す紫苑とは対照的に、静流は耳を少し赤くして、あさってのほうを見ながら話す。
「潰れるかどうかはわからない…けど…僕は…」
気が長いようで短い紫苑は苛立ってきた。
「毎日会いたい、ずっと一緒にいたいって言えよ!なんで自分の思ってることも言えねんだ」
図星をさされて真っ赤になりながら、俯いて、諦めたように静流は語る。
「僕は――そういうふうに育ってきたから。『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』『お前はウチの自慢の息子だ』って…」
そんな話を遮るように、くりっと静流の方に向いて紫苑が一言。
「静流。やらして」
「え、え?授業は…」
「もっと解放してやるよ、世間体やら常識から」
言いながら早くも静流の手首を屋上のコンクリート床にねじ伏せている。
「イヤか?」
「嫌じゃ…ないけど」
授業を心配していた静流も、いざ押し倒されてみると、高い空があまりにも青く大きくて、なんだか授業もどうでも良くなってきていた。
実際、傍から見て静流は、以前よりも自然な感じだし、当の静流自身も、肩の荷が下りたような快適さを感じていた。
以前は頼れるお兄さん、というイメージが強かった彼だが、なんとなく今となっては可愛らしくさえ思ってしまう。
そんな評判は、あくまでもひっそりと、囁かれていた。なぜなら――
「とおりゃっ」
ニコニコ話している静流の背後から、紫苑が飛びかかってきた。
「誰にでもヘラヘラしてんじゃねーぞっ」
口の両端を抓り上げる。
「でっでもっ、蒼城のおかげなんです…」
痛いながらも必死で訴えると、やっと紫苑は両手を離した。
「自然体でいることがこんなにラクだなんて…ありがとう」
「よかったじゃん」
静流は心の中で思っていた。
蒼城紫苑とはとことんワケのわからないヤツだけど、一番不思議なのはこの根性悪がなんでこんな顔できるのか、という点だ。
そう思わせるに値する、まるで純粋無垢な子供のような笑顔を、紫苑はたまにする。
「でも礼なんて言うな」
紫苑の言葉に、見とれていた静流が我に返る。
「恋愛は常に50/50―――そうだろ?」
寒いセリフを吐き不敵に笑う紫苑に外野から野次が飛ぶ。”どこかよそでやれ”と。
さて、その野次通り本当に二人は屋上に場所を変え、軽くキスした後、紫苑が本題を切り出した。
「ところで俺の用なんだけどさ―――聞いたよ、生徒会のヤツから」
聞いた、と言うのは勿論、静流が生徒会の弱みを握ったことによって紫苑の退学が免れたことだ。
「余計なことすんなよ。てめーまで生徒会敵に回しちまうじゃんよ」
予想外の言葉に静流は驚いた。恩に着せるわけではないけれど、少しは感謝されるかと思っていた。
「余計なことって…今度バレたら退学だったんだろう?!」
半ば興奮気味の静流を尻目に、
「いんだよ、それならそれで」
紫苑はまったく動じる気配も無い。
「いい?本当に?!…もう毎日会えなくなっても――?」
肩を戦慄かせながら発せられた小さな声に、紫苑は初めて意思の疎通が誤って行われていることに気づいた。
「悪かったよ、おまえまで悪者になる必要はねぇって言いたかったんだ。それに――毎日会わなきゃ潰れる仲なん?俺らって…」
じっと静流を見据えて話す紫苑とは対照的に、静流は耳を少し赤くして、あさってのほうを見ながら話す。
「潰れるかどうかはわからない…けど…僕は…」
気が長いようで短い紫苑は苛立ってきた。
「毎日会いたい、ずっと一緒にいたいって言えよ!なんで自分の思ってることも言えねんだ」
図星をさされて真っ赤になりながら、俯いて、諦めたように静流は語る。
「僕は――そういうふうに育ってきたから。『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』『お前はウチの自慢の息子だ』って…」
そんな話を遮るように、くりっと静流の方に向いて紫苑が一言。
「静流。やらして」
「え、え?授業は…」
「もっと解放してやるよ、世間体やら常識から」
言いながら早くも静流の手首を屋上のコンクリート床にねじ伏せている。
「イヤか?」
「嫌じゃ…ないけど」
授業を心配していた静流も、いざ押し倒されてみると、高い空があまりにも青く大きくて、なんだか授業もどうでも良くなってきていた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが
星咲ユキノ
恋愛
三原菜々香(25)は、初恋相手に罰ゲームで告白されたトラウマのせいで、恋愛に消極的になっていた。ある日、職場の先輩に連れていかれた合コンで、その初恋相手の吉川遥希(25)と再会するが、何故かヤンデレ化していて…。
1話完結です。
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる