君にすくわれた僕は。

海棠 楓

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悪い夢だと思いたい

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 ベッドに横たわったまま、静流は人形のように虚ろな目で動かなかった。
紫苑は鼻歌なんか歌いながら、ゴキゲンに煙草をふかして服を着ている。
「…蒼城」
ふいに静流がゆっくりと起きあがり、抑えていたものを一気に吐き出した。
「こんなんで僕がお前のもんになったなんて思うなよ!僕はお前なんか大ッキライなんだからな!!」
「いーよ」
静流のほうが拍子抜けしてしまうほどアッサリと即答された。
「時間はいっくらでもある。こー見えてけっこう気ィ長いから、俺」
服を着終え、煙草を揉み消し、部屋を出るときに言った。
「でも、絶対そのうちお前、俺に惚れるぞ」 

 意思と関わりなく――犯されてしまった。『好き』という言葉と引き換えに。
絶対惚れる、だと?好きになんてなるわけがない。あんな、嫌いな要素が満載の問題児に。先輩と正反対の、あんなヤツに。 

「ハヤミおはよー」
「おはよう」
いつもの朝。昨日のことは悪夢であったと思うしかない。
「おっすハヤミ」
「おはよ」
務めて明るく、いつものように振舞った。
「ねーハヤミ、今日蒼城見てないんだけど、知らない?」
・・・は?
「さ、さあ…なんで僕にそんなこと…」
「いや…だって、ハヤミと蒼城、すごい仲いいから…」
 ゾッとした。周りにはそんな風に映ってたんだ。もう関わりあいにならないぞ。
そう決意したものの、あいつのほうから寄って来なくなった。 

 「蒼城、今日で何日目だろ」
「それでなくてもヤバイのに、こんなに休んで大丈夫なのかな」
他の生徒が話している紫苑に関することが、何故か耳に入る。まるで自分を責めてるみたいに心に刺さる。
 何してるんだ、あいつ――
 一瞬、そう思ってしまった自分に腹が立った。あんなヤツのこと、気にしなくていい。顔も見なくて良くなって、願ったりだ。
先輩のことだけを考えていればいい――
 そう、静流は今、生徒会室の前まできていた。

 「失礼します、会長、今日締めきりの書類を…」
とドアを開けると、目に飛び込んできたのは、信じられない、非現実的な光景。
「あ、速水じゃん」
しれっと、書記の意地悪い顔が笑いに歪んだ。
「あーあ。バレちゃったよ、どうする?会長サン」
会計は皮肉っぽくそう言って笑っている。
 会長、書記、会計の生徒会トップ3、校内で絶大な信頼を寄せられている、先生達も一目置くこの3人の『最後の詰め』が、今行われていた。
どこから調達したのか、それぞれ一人に一人、いかにも頭の悪そうなけばけばしい女子高生と思われる少女が絡みついている。机の上には、山盛りになった灰皿、いかがわしい本や道具、アルコール類の空き缶が散乱している。
 保科も、別段慌てる様子もなく、煙草を吸いながら少し鬱陶しそうに笑った。
「ま、見られてしまったらしょうがない。黙っててくれるだろう?――なんなら、君にも一人、見繕ってあげても…」
「失礼します!!」
ドアが大きな音をたてて閉まった。

 静流はパニック状態に陥っていた。あんなに優しく、完璧な先輩。理想を絵に描いたような、非の打ち所のない先輩。ずっと想い続けていた先輩が、あんな―――?!
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