ドブリン

どりる

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ドブリン

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 「ビチャビチャビチャ…」

 薄暗い下水道の中に、その音は響く。

 「……クセ…ェ…」

 そう言うとオレは目を覚まし、褐色の汚水から身を起こした。明らかにベッドでも布団でもないこの感触と悪臭に、思わず両手で顔を覆った。

 「ナ…ナンダココハ…?」

 あたりを見回し、自分の部屋でないことを認識する。そしてオレは無意識に右手を伸ばした。

 「…ケータイ……」

 右手には何も触れない。ただ悪臭に鼻を塞いだ左手は頑なに握ったままだ。
 自分が今、どういった状況なのか理解ができない。そういえば、ここはどこなんだ?今は何時だ?時間差でオレが無意識にケータイを探した理由を思い出した。
 今日は何曜日だ?そんな事ばかり考える。いや、そんな単純なことしか考えられないほど、オレの頭は混乱と悪臭にまいっていた。
 すると、ふと後ろから声が聞こえた。

 「……ヨオ…」

 聞いたことのないガラガラ声だ。
 オレは振り向いた。

 そこには何かいた。毛のない猿のような体に、大きな目と潰れた鼻、三角定規のような尖った耳に数えるほどしかない髪の毛の生えた頭がのっかった生き物が立っていた。肌の色は、暗くてよくわからないが、少なくとも人間の肌色じゃなかった。

 そして何かはオレに話しかけた。

 「…オマエ、何ヤッテンダ?」

 「…エ?」

 「……ナンデコンナトコデ寝テル?…」

 「…サア…自分デモヨクワカラナインデス……」

 「オマエ、家ドコダ?…」

 「…家デスカ?………ト…東京ノ…」

 「カ!!ト……東京!?…」

 そいつは、叫んだ。

 「東京ッテ事ハ……オメ、人間ダッタンカ…?」

 ダッタ?とはどういうことだろうか。オレは人間だし、今も人間だ。

 「ダッタ?」

 「…………マサカ…テコトハオマエ……『イツノマニカ』パターンカ?」

 「………サッキカラ、アナタ、何ヲ言ッテルノカ、ワカラナインデスガ……」

 「…オマエ…気付イテネエノカ…」

 「…何ニ?」

 「………………」

 「…何デスカ…?」

 「……水面……映ッタ顔……見テミロ……」

 オレは、下を向いた。

 「…!?」

 そこには、毛のない猿のような体に、大きな目と潰れた鼻、三角定規のような尖った耳に数えるほどしかない髪の毛の生えた頭がのっかった生き物が映っていた。


 おしまい
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