おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

文字の大きさ
198 / 245
本編

235:まさかの繋がり

しおりを挟む
 ノーナの両脇に黒い影が舞い降りる。
 いずれも黒衣を身に纏っていて分かりづらいが、線の細さや骨格からなんとなく女性なのではないかと思う。

 ノーナから見て左側にいる女性は腰の曲がり方や僅かに出た素肌から、年老いた女性であることが分かる。派手さのない黒いロングワンピースにストールを頭から肩にかけて巻いている。

 右側にいる女性は……どちらかといえば“少女”といった見た目で、黒いことに変わりはないが、ゴシックロリィタのようなフリルが多く、他の二人よりは丈が短いドレスだ。髪型はツインテールにドレスと統一感のあるヘッドドレスで飾られている。

「この者たちはわたくしの“妹たち”ですわ。我が君」
「妹たち……?」

 姉妹ではなく? 少女がノーナの妹なのは理解できるが、明らかにノーナより年上そうな見た目の者も妹なのだろうか? と、首を捻っていると、年老いた女性が楽しそうに肩を震わせる。

「ホホホ、こんな身なりですが、間違いなくこの婆は姉上の妹ですよ。トウノ様」
「そうなのか…………え?」

 ……この声に、この笑い方……なんだか覚えがあるよう、な……。

「まさか……『レディ・ブルイヤールの図書館』の……」

 老女か? と思いつつも、信じられない気持ちでストールで見づらい顔をよく見る。……本当に老女だ。

「ホホホ。彼女の図書館にいるのは分け身ですけれど、ご無沙汰しておりますトウノ様」
「上の妹、妖糸機女はためのデキマですわ」
「ええ……」
「……」

 僕だけでなく、老女……デキマのことを知っているバラムも呆気にとられた顔をしている。

 それにしても……。

「指輪の反応が図書館では無かったから、関係があるとは全く思わなかったな……」
「ホホホ、よく知っていればこそ可能というもの。姉上は姉妹で一番悪戯好きですから」
「人聞きの悪いことを我が君に吹き込むのはよしなさい。ディー」
「ホホホ」

 妹というが、年の功的な余裕をノーナとのやり取りに感じる。

 というか。

「……シルヴァはデキマのことを知っていたのか?」

 指輪はともかくシルヴァもデキマには何の反応もしていなかったように思える。
 
『む? 知らなかったであるぞ』
「えっ……ノーナとは知己だったんだろう?」
『彼奴とは友であったが、彼奴の妹御とはほとんど顔を合わせたことが無かったである。このように三姉妹が揃うことは封印前でもほとんど無かったことであるからな!』
「そ、そうなのか」

 シルヴァもデキマを知らなかったという予想外の答えだった。どうやらこの状況はかなりレアらしい。

 それにしてもノーナにデキマに三姉妹……だいぶ、そのままだな……やっぱり運命の女神なんじゃないか……。そうすると下の妹の名前も予想がつく。

「姉様たちだけ主様と遊んでるなんてズルい」

 今まで無表情で黙っていた少女が心なしかむくれながら言う。

「こちらが下の妹、妖糸裁女たちめのモルタですわ」
「よろしく、主様」

 そう言うと、少女……モルタが可憐にドレスの両端をちょんと上げる。

「わたくしやディーと違って貴女は今まで全く動けませんでしたからね。これから存分に命の長さを誤魔化した詐称者たちの糸を裁つといいでしょう」
「本当に……私が動けないのをいいことに誤魔化している連中が多過ぎる……早く清算させて始末しないと……」

 モルタがこめかみに血管を浮かせながら、手にはモルタ自身の胴体ほどはあろうかという鋭利な糸切り鋏が握られ、ジャキジャキと物騒な音を鳴らしている。

 ……名前と運命の女神、いや三女神の権能でいくと、ノーナが運命を紡ぐ『現在』、デキマが運命を割り当てる『過去』、モルタが運命を断つ『未来』なのだろう。
 それでいうと、今までデキマ、ノーナ、モルタの順で身動きが取りづらかったというのなら、闇の世界の封印はそれだけにとどまらず、アルスト全体の『未来』が失われていた状態だったのかもしれない。

 そう考えると、早めに解放出来て良かった……のか?

「我が君、ディーは世界のありとあらゆる『知識の蔵』に分け身を置いているので我が君のこの世界での望みに適うかと」
「……えっ、レディ・ブルイヤールの図書館以外にもいるのか?」
「ホホホ、婆はあらゆる記録と過去が集まる場所におります。王都の図書館に王城や他の大陸の書庫に至るまで」

 デキマの魅力的な言葉に喉が鳴る。

「……デキマに頼めば、僕も利用出来ると?」
「ホホホ、我々を解放してくださったトウノ様の願いとあらば」
「っ!」

 ありとあらゆる書庫の膨大な本の山を幻視して胸が高鳴る。

 ……そこでふと思った。
 ネーヴェクリフは元々僕とデキマを引き合わせようとしていたのではないかと。彼女の能力だけで僕のゲーム開始時の望みはほぼ完全に満たせるし、彼女と交流を深めた先でもいつか闇の世界に至ることになったのではないかと。

 ……まぁ、結局は彼女の力を借りることが出来るようになったようなのだし良しとしよう。

「モルタはあらゆる命の終わりの時を知ることが出来、裁つことが出来ます。……我が君はあまり利用されないでしょうが、我が君に仇なす者共の撃滅や血を奉じるのに力となってくれるでしょう」
「撃滅って……」

 よほど縁のある人たちが傷つけられない限りは誰に敵視されてもそんなに興味はないので、むしろあまりモルタの力が必要にならないようにしたい。

「主様はそんなに戦わない?」
「というより戦えない、が正しい」
「それはちょっとつまらない」

 モルタがもの憂げな表情をしつつも、手慰みなのか巨大な糸切り鋏の連結を解いては連結、解いては連結と、ガッチャンガッチャンとしている。……連結を解くと二振りの刃物になり双剣のような武器になるようだ。

「我が君以外のあの方の落胤たちは皆、戦闘と世界へ広がることを大変好んでいますから、貴女は詐称者を刈り取りがてら落胤たちと世界を見てくるといいでしょう。ああ、彼らの前では彼らを『異人』と呼ぶのですよ」
「ふぅん……そうだね。そうする」

 そう言うとモルタが影にとけて姿を消す。

「ホホホ、では婆もこれで。ご用があればいつでもお呼びください」

 続いてデキマも姿を消した。

 …………改めて、このちょっとの時間で分かったノーナたち三姉妹の情報を整理すると、本当にこれで何故神ではないのか不思議すぎる。
 モルタは死神的な側面もありそうだし、デキマはファンタジーものでよくあるアカシックレコード的な力も持っていそうな気がする。ノーナは……この分だと『時』関連が怪しいだろうか。まだ確証はないが。

「やはり……まだまだ報酬は足りませんね……ふむ……では、我が君のこちらでの居城を造りましょう」
「……えっ、はい?」

 僕が思考の海に沈んでいると、ノーナがまた唐突に理解し難いことを言い出す。

「いや、僕はデキマの力をいつでも借りれるだけでも十分なんだが……」
「いいえ、闇の同胞も無法者が多いですから、我が君の威容を知らしめる象徴が必要ですわ」
「別に知らしめなくても……」

 いい、という僕の弱い制止は、ウキウキとした重低音の渋い声にかき消される。

『おお! 良いであるな! 我も一枚噛ませるである! 異人たちから刺激を受けた構想がいろいろとあるのでな』
「え゛……」

 これまでのシルヴァのセンスでいうと、ネオンがチカチカと施されたテーマパークのようになる未来が見える。

「あのおかしな飾りは却下ですが、意見は聞きましょう。では行きますよ」
『む、それは残念であるなぁ。しかし、他にもアイディアはあるであるぞ!』
「ちょっと、待っ……」

 止める間もなく二人は月の向こう側へと去っていってしまった。なにか建てるにしてもほどほどにして欲しいと念じる。一応、盟友の絆から伝わってはいるはずだ。

 ……汲んでくれるかは分からないが。

 『ラスダン』とか不穏な単語が聞こえてきた気がするが……。



────────────

ラスダン → ラストダンジョン
しおりを挟む
感想 295

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。