おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

201:なんだかんだ雑に頼りになる

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 雪山に足を踏み入れた途端、シルヴァが脱落してしまったが、バラムと僕の二人でこれからどうするか……。

「今はどうして僕たちだけ平気なのかは置いておいて……脱出方法を探すのが先決だろうか?」
「そうだな。……鼻がききづらいな」

 バラムが眉根を寄せて、鼻をひくつかせる。

「そうなのか。……うーん?」

 シルヴァほど大きな不調ではないが、バラムの感知能力の要ともいえる嗅覚も本調子ではないらしい。
 この感じは……。

「サバイバルイベントの時のようにある種の隔離された空間、ということなのだろうか?」
「……かもな。お前の目はどうだ?」
「それが……何もない」
「あん?」

 僕の答えにバラムが訝しげに片眉をあげる。
 しかし、僕にもこれ以上の答えがない。《慧眼》によれば、僕とバラム以外のマーカーは全くなく、周囲から得られる情報も『砕けた氷の結晶』以外のものは何もなかった。

 果てしなく地を覆っているのも、樹氷のように見える物体も、先ほどからパラパラと降ってきている白い輝きも全て『砕けた氷の結晶』ということらしい。

 ……なんか、納得いかないというか、怪しさがある。

「……気にいらねぇな」

 《慧眼》の情報を聞いたバラムもそう呟く。それには僕も同意だ。

 《慧眼》は一度成長した技能を三つも吸収、統合された技能だし、おそらくユニーク装備の補正も変わらず受けている。一段階成長しただけの技能でも様子がおかしくなっていたので、性能の高さについておして知るべし、だ。

 そんな技能をもってして、この情報の少なさ。そういうものだと納得するにはかなり無理がある。

「うぅん……完全に、何か強大な存在の領域、ということになるのだろうか」
「かもな」

 そう考えて警戒しておくに越したことはないだろう。バラムも平常に見えるが、さっきから肌がピリピリするので、それなりの圧を発している。

 空間そのものの主として支配する存在……サバイバルイベントのときは、こちらが助けたことや相性が良かったこともあって終始友好的であったが、今回もそうとは限らないだろう。

「これじゃあ埒があかねぇ。……なんとなく山の中が気になるからそっちに行くぞ」
「ああ。そうだな」

 嗅覚が多少塞がれてもバラムは直感も鋭いので、こういう時は任せるのが一番だろう。
 バラムが行動しやすくなるように僕はフクロウになって首元に収まる。

 移動している間、この雪山に足を踏み入れてから起きたことや事前に得ていた情報をつらつらと考える。

 まずはゲーム的なメタ読みからいってみよう。
 僕たちの技能が機能しづらいというのは、ある意味適正レベルか、今の僕たちでは厳しいレベル帯の環境だという可能性がある。
 しかしまぁ、悪く見積もっても「少し厳しい」くらいだと思う。そもそも雪山へは、指輪の向こうの存在が指し示してきたのだし、時期尚早というならそれなりの意思を僕に伝えてきたはずだ。……そうであって欲しい。

 そういえば、今はワールドクエスト中で王都に行けるようになりそうというところだが、どう考えてもそちらが正規ルートだとすると……どれくらい飛ばしてしまっているのだろう。来られているので、問題はないと思うのだが……もっと後にプレイヤーが進出する予定のエリアではあるのだろう。


 ……メタ読みはこのくらいにして、次はこの世界で得た話のみで考えていこう。ということで、ジェフから聞いた話を思い出す。

 雪山に立ち入って戻った者がいないというのは、この状況を考えれば納得ではある。足を踏み入れた瞬間、ほとんど異なる空間に閉じこめられ、皆出られなかったのだろう。

 しかし……何か、ひっかかる。
 何か、得ていた情報と今まで見てきたものが食い違っている気が……。


 …………そうだ。


 この山はとにかく『氷の精霊の力が強すぎる』と聞いていたが、氷の精霊どころか、エレメントの一匹すらいない。精霊の力の痕跡など皆無だ。
 もしかしたら僕たちを避けていたり、僕たちの察知能力以上の潜伏能力で隠れている可能性もあるが……精霊の力が強いなら少なくとも氷属性のエレメントは隠れる必要は感じない。

 これはどういうことだろう? 

 この話自体が間違っていたというのは、状況的に仕方がないとしても、どこから精霊の話が出てきて、何故今は存在しないのだろう。
 氷の精霊が存在しないのに何故、この雪山はこんなにも厳しい寒さと『砕けた氷の結晶』が存在するのだろう。

 ……うぅん、情報が少なすぎて無理に結論を出そうとしてもただの空想になってしまう。

 もっと情報を得たい……強大な存在……隔離された空間…………。

 ……空間……領域、か。

 ここが何かの支配権がある領域ならば、その支配を少しでも緩めれば、なにか得られる情報が増えるかもしれない。

 どうするかと言えば、まぁ、まずはやってみようか。

『バラム、ちょっと根を出してみてもいいだろうか』
「あん?」

 僕の問いかけにバラムは足を止めずに応える。

『僕の根で力を注いで、一部でも僕の力が強くなれば、分かることも増えるんじゃないかと思って』
「…………お前の一部を使わなくても方法はいろいろあるだろ」
『そうなんだが、今回は大雑把に力を使うよりは一点突破で少しずつ調節した方がいいんじゃないかと思うんだ』

 演奏や適当に秘技を使うのだと、僕からは根が生えてくるまでどうなってるのか分からないので、そんな大雑把なことを今回するのは少し抵抗があった。

 今回は《底根の根》を使うことが一番安全度が高いと思う、ということを伝える。

『それに僕から出る根と言っても、僕自身ということはないから、例えば根が凍りついても問題ないだろう』

 ……多分。

「……」

 僕の心の声を察知したのかなんなのか、胡乱な目を向けられる。

「……いいだろう。何か異変があったら斬り落としてでも離すが、いいな?」
『ああ、かまわない』

 まぁ、底根の四つ葉壺に入れる素材として割とポロポロ切り離してはいるので、そこに抵抗はない。とくに痛みもないし。

 ということで、早速根を出す。

 とりあえず、どこに触れようかと見回すが……めぼしいものが何もなかったので、仕方ないので、その辺の地面に根を触れさせる。

「どうだ?」
『今のところ何も……凍りついたりも……してないな』

 積もった『砕けた氷の結晶』をサワサワと根でかき分けながら、根の状態を観察するが、とくに異変は感じない。

 ……いや、うーん……なんだろう……すごく微細な振動というか、炭酸のようなシュワシュワとした感覚がないこともないかもしれない。
 ……もしかして負けていないだけで、何か仕掛けられてはいるのだろうか?

 まぁ、まだ秘技を使ってもいない状態でこれなら問題ないか。

 ということで〈我が力を与えん〉をいつものように適当にたくさん力をこめるとかはせずに、少しずつ根に力を通して、根の先に一点集中して、触れているところへと流す。

 すると────。


 ピキ、パキッ、パキ、ピキキッ……


「『!』」

 
 高く軋む音と共に、力を流したところから泡立ち、煙が出る。

 思いのほか大きい反応に一旦、力を流すのをやめて根を少し離す。
 ……どうして、こんな反応の仕方に?と、根と僕の力の謎がまたしても深まってしまった。……しかしまぁ、様子がおかしいとはいえ、なんだかんだ困ったときはとても頼りになる。雑に。


 シュワシュワとした、ともすれば化学反応のようなものを眺めることしばし。やがて反応が落ち着き泡や煙がなくなっていく。


 泡と煙がなくなった場所は少しへこんでいて、そこには何か、角ばった宝石のようなものが煌めいていた。


────────────

次話更新は1月18日(土)になります。
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