上 下
173 / 186
本編

172:第2ラウンド

しおりを挟む
 バラムとばっちり“目が合って”いる。

「……」

 今の僕の視界はシルヴァの分体のはずなので、シルヴァのことを見ている可能性もあるが……この視線はそうは思っていない気がする。

『彼奴、我の分体から主殿の気配がすることに気づいたであるな。流石の勘の良さである』
「やっぱり、僕の視線に気づいているのか……」

 気を散らしてすまないが、今は戦士長との戦いに専念してもらいたい。
 ということで、一旦《慧眼》の遠隔制御を止める。


『して、主殿。ここからどうするである?』
「そうだな……明らかに戦士達に征服者達が施した何らかの影響が出ていると思う。だから、それさえどうにか出来れば良いんじゃないだろうか」
『ふむふむ』

 そうすれば、誤解も解けて戦闘終了に持ち込めるだろう。

「ただ、もう少し戦士達に近づきたい。少なくとも僕の《慧眼》で直接視ることが出来るくらいには」
『今の状態だと難しいであるか?』
「ああ」

 感覚とかではなくてダイレクトに「中継視界ではこれ以上視ることは出来ません」とメッセージが出て来た。
 ということは“直接”ならば、もっと視れるということだ。

 それに既に《腐れの呪い》は、一応僕の根でどうにか出来ている。……原理は僕にもあまり分かっていないが、まぁ、解決方法がないよりは良いだろう。

『ふむ……最初は、このまま戦闘が終わるまで主殿には安全な場所にいてもらった方がいいと思っていたであるが、今となっては主殿も大分逞しくなってきたであるからな! 存分に力を振るうといいである!』
「……ふ。ああ」

 僕のようなヘンテコなプレイをしていても、何だかんだこうやって出来ることが増えていくのが、ゲームの醍醐味や楽しさなのかもしれないと自然と口角が上がる。

 そうは言っても相変わらず戦闘能力も防御力も皆無なのだが。

「そうだな。そろそろ外の空気も恋しくなってきたし、来た道を戻るか…………ん?」

 外へ出る為に来た道を戻ろうとしたところで、視界の端に何かひっかかるものがあってそちらに目を向ける。
 そこにあるのは、広間中央に鎮座する黒曜石製のジャガー像だ。

 ……僕の視界では、ジャガー像から淡い光が溢れて束になったものが、上へと伸び……おそらくだが、バラム達がいる方面へと向かっていた。

「……つまり……どういうことだ? ……ああ、なるほど」

 首を捻っていると、淡い光がまた別の形……意味のある《ウロタワン語》の形を成す。そこには『この依代から愚息の場所に送ってやる』的なことが書いてあった。

 多分……というかほぼ間違いなく黒曜天母からのメッセージだろう。

「この依代の像から外に送ってくれるようだ」
『む、そうであるか! 気が利くであるな!』
「ああ、厚意に甘えるとしよう」

 そうして早速石像へと近づくが……。

「ここからどうしたら……? ……あ、ああ、触れればいいと」

 どうしたらいいのか分からないでいると、再び光が文字の形となって「依代に触れればそれでいい」というメッセージになった。……なんだろう、この感じ、似たような経験があるような……主に近くにいる妖精と出会った時に。……まぁ、今は関係ないか。

『主殿、用心の為にフードを被るである。《変化》はするであるか?』
「……そうだな、《変化》もしよう。すまないが、また移動はシルヴァに任せてもいいだろうか?」
『うむ! 我に任せるといいである!』

 ということで、フードを被ってから《変化》をしてシルヴァの背に根で自分の体を固定して準備完了だ。

『では行くであるぞ、主殿』
『ああ』

 そう言うと、シルヴァが依代に鼻先で触れる。


 ────次の瞬間、目の前に戦士長がいた。


「なっ!?」
「!? お前っ!」
『おっと、である』
『ぐっ……』

 その場の全員が想定外の事態に、それぞれ無理矢理振り下ろす剣の方向を変えたり、突進を急停止したり、鷲に変身して急旋回からの急上昇をしたりした。
 僕はシルヴァの急旋回急上昇などの慣性に振られて、振り落とされないようにするのに必死だった。

「何でこんなところに出て来た!?」
『この地を統べる者の厚意に甘えたら、ここに放り出されてな。不可抗力である!』
「チッ! すぐにここから離れろ!」
『そうは言ってもそうはいかないであるなぁ』
「あ゛あ゛!?」

 シルヴァと背中の僕に素早く気づいたバラムが、僕達に一刻も早くここから離れさせようと声を張り上げる。
 僕もすぐに離脱はしたいが、どうしてもこれだけはやらなければいけない。

 ということで『黒曜天母の守護戦士長オセロット』を注視する。

『……うん?』

 戦士長……オセロットの中心の大きな光になんとも言えない淀んだ色の何かが絡みついているのが視えた。
 さらには、その絡みついているものによく似た色の筋が遠くへと伸びていた。

 “その先を視る”と、そこには巨大なイモ虫のようなものがいた。近くにシャケ茶漬けの姿も視えるのであれが向こうのボス、ということなのだろう。

 ……しかし、このオセロットと巨大イモ虫を繋ぐ筋は一体どういうことだ?

 と、首を捻っているところで。


“これで、トドメだっ!”
“キシャアアアアアッ!!!!”


 シャケ茶漬けの気合いの声と同時に、黄金に輝く一閃が巨大イモ虫を呑み込み、イモ虫の叫び声らしきものが上がる。


“キ……キシャ…………”
“……ん?”


 そのまま倒れるかと思いきや、淀んだ色の筋が急に太く濃くなる。
 ……その中を何かが流れている? いや、これは……巨大イモ虫の力みたいなものが移っているのだろうか?

 ということは……。
 

『っ! バラム、警戒してくれ!』
「!」
「ぐっ! 何だ……力が溢れて……ぐ、グル……グルアアアアアッ!」

 巨大イモ虫から送られてきた力を受け取ったオセロットから淀んだ色のオーラが溢れたかと思うと、みるみる体が膨れ、動物の毛のようなものが生えてくる。

 獣の姿になるのか?と思ったら、人のように立ったまま、少しずつジャガーの特徴が現れている。端的に言えば、二足歩行のジャガー、といったところだ。
 ……ただ、獣姿の時のある種美しかったジャガー姿や、皆からイケメンと言われているようだった容姿の良さが見る影もなく、毛はゴワゴワと薄汚れ、目は血走り…………そして、あの“匂い”を放っている。

 この様子だと巨大イモ虫とオセロット、どちらか残った方に倒れた方の力が送られてパワーアップするようになっていたのかもしれない。


 ……そんなことは今はさて置いて、伝えるべき情報を伝えなければ。

『牙と爪には《腐れの呪い》が付与されてる。受けてしまうとただで済まないかもしれないから気をつけてくれ』

 二足歩行の姿になってから牙と爪により濃く淀んだオーラを纏っていた。

「それは分かったが……もう良いだろ、安全な場所に行っていてくれ。頼む」

 バラムの切実な声と願いに、胸が締め付けられるようだが……未だオセロットの中心部にある光に絡みついた虫のようなもの……おそらく禁呪の残滓のようなものは現時点では僕にしかどうにか出来ないものだろう。

 ……ただ、あぬ丸がいる方の戦士達も視たいので、ここは少し離脱するとしよう。

『……分かった。少し戦士達の様子も見てくる。気をつけて』
「いや、こっちにはもう来るなよ」
『それは……出来ない』
「……はぁ。分かった。とりあえず今は行け」
『……ああ』

 ……丸1日半くらいしか離れていなかったはずなのに、随分久しぶりにバラムの赤みのある錆色の目と見つめ合う。
 様々な急展開に浮き足だった気持ちが不思議と落ち着いて、活力が湧く。

 オセロットや戦士達……それにバラムがあまり傷つかずに解決出来るように善処していこう。

『シルヴァ、あぬ丸達の方に行こう』
『うむ、分かったである』


 そうして僕を乗せたシルヴァが身を翻した。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

処理中です...