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本編

163:久しぶりの解読作業

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「えっ、あの巨大ジャガーが人になった?」

 シルヴァが分体から得た洞窟の外の情報を掻い摘んで教えてくれたが……どうしてそうなったのだろう?

『どうやら主殿のあのハリセンなるものが効いて、鎮まったようであるな』
「ふぅむ? アレが効いたとなると何らかの精神系状態異常にかかっていたということか?」
『そうなのであるが、我の目からはよく分からなかったであるなぁ。主殿製であるし、何か特別な異常も正してしまったのかもしれないであるな!』
「それは……」

 あり得ない、とは言い切れない。今までのことや使っている技能や素材のおかしさを考えると。

「それで、その巨大ジャガー?人?はどうなったんだ?」
『どうやらまだ腹が減っていたのか、残りの食料を食べ尽くしてしまったである。異人達はとりあえず今日の食料を確保しつつ、この島の探索を続けるようであるな』
「そうなのか……」

 巨大ジャガー時にも相当胃袋に収めていたと思うが、人になってもそんなに食べたのか……人の姿はしていてもやはり種族的には人とは違うということなのだろうか。

「こちらで発生した『イベントエクストラクエスト』については……」
『うむ! 良ければ主殿に進めてみてほしい、と言っていたである!』
「そうか」

 イベント“エクストラ”クエストとあるので、おそらくこのサバイバルイベントの本筋というか、クリアには必須ではないクエストなのではないかと思い、シルヴァ経由であぬ丸達に相談していた。

 ちなみに結界の内と外でやはり色々と違うのか、ウィスパーの繋がりが悪かったので、シルヴァの本体と分体の繋がりを使って連絡を取っている。

「それじゃあ、このクエストに取り掛かろうと思うが……『図柄の謎を解こう』と言われてもな……多分、図柄というより文字に近いものだと思うんだが」

 なんとなく現実の古代などに見られた絵文字、または象形文字のような趣きを感じる。

『ふむ? であったとしても我の記憶にはこれやこれに似ている文字に覚えは無いであるなぁ』
「まぁ、異空間の島だしな……」

 いつものフィールドでは大体こういうところに彫ってある古い言葉といえば《古ルートムンド語》だという偏見が構築されそうなほどには頻出しているが、ここの文字は体系自体が違うもののようで、現状僕もシルヴァも全く読めない。

 ということで初心にかえって《解析》から始めてみる。……が、あまり手応えがない。

「せめて文字の意味が一つでも分かればな……」

 《古ルートムンド語》の時は、運良く大ヒントをすぐに得ることが出来たのでかなりスムーズに習得出来たと思う。

「ふぅむ……期間は限られているのだし、まずは解読のヒントを探すべきか」
『うむ! それが良さそうであるな』

 ということで、まずはこの辺り一帯の検分から始めることにしよう。




「うぅん……すぐに見つかるとか、そう上手いことはいかないか」
『であるなぁ』

 少し調子の出ない《勘破》に注意を払ったり、手当たり次第に《解析》をしてみても思うように解読のヒントになるものは掴めていない。

 今のところの成果といえば、最近すっかり存在を忘れていた《歴史学》の獲得経験値量が良く、これまでの行動も全く意味がないことはない、と確認することが出来た程度だろうか。

『主殿に縋っている何者かも、縋るならもう少し主殿に協力的でも良いのでないかのぅ!』

 そう言って、シルヴァがボフンと鼻を鳴らす。

「まぁ、そう言いたくなる気持ちも分かるが……ん?」

 その時、視界に入ったある文字に目が留まり、異様に気になって目が離せなくなる。
 ……これってもしかして。

「これが“協力”なのか?」
『何がであるか?』
「いや、急に文字の一つが気になって仕方がなくなってしまって……」
『おおっ! そうであるか! 行動が早いのは感心であるな!』

 シルヴァが謎の上から目線で鼻をボフボフ鳴らしている。

「まぁ、他にとっかかりもないからこの文字に集中してみるか」
『うむ! 応援するであるぞ、主殿!』
「……シルヴァも出来れば解読を手伝って欲しいのだが……」
『クククッ、我はこの四つ足の通り、文字を使うのは不慣れ故、解読もあまり向かないである!』
「……だから?」
『解読は主殿に任せるである!』
「……」

 その割には《古ルートムンド語》を理解しているし、ダンジョンから出るらしい闇魔法の魔術書はシルヴァが生み出しているんだと睨んでいるんだが、どうなのだろうか。
 うーん、解読のような学者系の補正はあまり無い、ということなのだろうか。

 ……まぁ、シルヴァは既に色々と貢献しているし、むしろ僕がここくらいは頑張らないといけないか。

 よし。

「とりあえず、やってみよう」
『うむ!』

 先ほどの《解析》だけではあまり手応えが無かったので、集中すべき文字が分かっているならと、久しぶりに装備品の手帳とペンを取り出し、図柄のような文字を見て真似してみる。

「……ぐ。だから、絵を描くのは苦手なんだ……」
『文字は綺麗に読みやすく書けているのに不思議であるなぁ。我などは絵も文字もそこまで違いが分からないであるが』

 絵に近い為か、絵を描くセンスが壊滅的に無い僕が書き写した文字は、同じものとは思えない出来だった。まず、線の揺れが激しすぎてしっかりとした形をとれていない。

『主殿、これは絵ではなく文字と思うである! そうすれば綺麗に書けるかもしれぬぞ』
「ぐぬぬ……」

 それが簡単に出来れば苦労しないんだが……まぁ、そう考えるしかないか……。



「これは文字、これは文字、これは文字……」

 と、呪文のように唱えながら、文字の書き写しと時々《解析》していくことしばらく。《歴史学》の補正もあってか、ある時からあまり苦労なくこの図柄を『文字』と認識出来るようにはなってきた。

「ふぅむ……あと少しなんだが……」

 あと何かピースが一つハマれば、この一文字の意味だけは分かりそうな感覚があるのだが……それが何かが分からない。

「うぅん……」
『主殿、大分長いこと作業しているであるから、一息入れた方が良いのではないか?』
「うん? もうそんなに経っていたか?」
『うむ! 夜狗の小僧も「休ませろ」とうるさいである』
「む……まぁ、そうだな。少し休憩しよう」

 外の様子が全く分からない洞窟内は時間経過が分かりづらいが、既に半日以上経っているようだった。
 一応、携帯食も持ち込んでいるので、休憩ついでに満腹度も満たそう。

『主殿、ここで休むといいである』

 そう言って少し体を大きくしたシルヴァが横たわって鼻先で腹を示す。腹に寄りかかれということだろうか、と、ゆっくりシルヴァのお腹に背中を預けるように座る。

 満足気な鼻息が聞こえたので合っていたようだ。

 携帯食料を齧りながら……携帯焚き火台と水を持っていれば携帯食スープが飲めたのになぁ、と思う。

 いつもはバラムがそれらを準備してくれていたが、こういう時の為に自分でも持っておくべきか。


 ……何となく寒い気がして、外套を手繰り寄せて体を丸める。


 そしてそれとなく、左耳の辺りに触れていた。
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