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本編

146:勝手に動きすぎる

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 《解析》結果から察するに、鎮めるだけでなく魔物になる前の状態に戻れたようだ。
 正確には《魔物化》を金壺自身の意志で切り替えられるようになった、というべきか。

 ……『神器』とか《神力顕現》とか色々ツッコみどころはあったかもしれないが……まぁ、今は、ちょっと……スルーさせて欲しい。

「っ!」

 赤服レプラコーンがかなり小さくなった金壺に向かって駆け出し、その勢いのままに飛びつき壺を抱き込む。

「相棒! お前……っ、戻れたんかぁっ!」
「ポッドー!」

 顔が無いのでよく分からないが、声色的に金壺の方もなんとなく嬉しそうにしている……気がする。
 金の山から這い出してきたあぬ丸達が、状況についていけずにポカンとしていた。

「んん? 結局どうなったのー?」
「ゴールデングラトニーポッドを鎮めるだけでなく、魔物化も解けたようだ。……まぁ、またあの姿にもなれるようだが」
「ということは?」
「ああ、クエストクリアだろう」


〈【緊急クエスト:ゴールデングラトニーポッドを鎮めろ!】をクリアしました〉
〈『金庫番の金壺』の魔物化を解くことが出来ました。追加報酬が発生します〉
〈クリア報酬と追加報酬は古き妖精レプラコーンより受け取ってください〉


 クエストクリアの通知がここでまとめて流れた。

「お、通知が来たな。よっしゃ、追加報酬だってよ!」
「隠し条件の想定とクリアは中々難易度が高いと分かってきていますが、あっさりですね」
「これぞ、さすトウ~」

 クリア通知にワイワイと盛り上がるあぬ丸達を眺めていると、不意に服を引っ張られる感覚があり、そちらを向くと、赤服レプラコーンと金壺がいたの、だが……。

「……服の色が変わったか?」

 さっきまで赤一色の服だったと思うんだが、他のレプラコーン達のように緑色の面積が増えている。

「おぅよ! 相棒が魔物やなくなったからな、ワイも元の姿……いや、さらに進化した姿になったんや!」
「ふぅん?」

 確かにもう少し観察してみると、一色というわけではなく、ところどころに赤色がアクセントとして入っていたり金色の装飾が増えていたりと、豪華さが増した印象だ。

「その……でだ、最初はワイらのダンジョンをどエライ勢いで侵略しよって、何が目的やと思っとったんやが、結果的には相棒もワイらも助けてもろて……おおきに!」
「ゴルポポ!」

 赤服……いや、古き妖精レプラコーンが照れながらも感謝を伝えてくれた。……この様子を見るに、余程そこの金壺が大事だったのだろう。

「のっぴきならない理由ではあったんやが、暴走寸前やった相棒の魔物化を解いてくれた礼や! ワイも若造とそこの変幻悪夢のような契約をしたっても……どわぁっ!?」
「うわっ」

 レプラコーンの話の途中で、勝手に僕の右手が上がってレプラコーンの前に突き出される。向こうも驚くだろうが、僕も驚いた。

「ワイが話しとる最中にいきなり何や……の……って、おまっ! お前までおるんか! 若造ほんま何なんや!? 世界をどうにかするつもりなんか!?」

 何かに気づくと後ずさってまた僕に対する警戒度が上がってしまった。……僕の右手で妖精が反応しそうなものと言えば。

『ククク、主殿の盟友の座は我が友が予約済みである。横から掻っ攫おうなどとすれば後が怖いであるぞ』
「ばっ…! 知っとったら、若造をダンジョンに入れることすらせんかったわ! “ツムメ”の唾付きなんぞこっちから願い下げや! ……ヒィッ!!」

 右手の指輪から僕ではなく、レプラコーンに向かって「余計なことを言うんじゃない」という意思を感じる。あとついでに「自由になったら覚えておけ」という恫喝的な意思も……。

 ……指輪の言う「余計なこと」とは、レプラコーンが口走った“ツムメ”のことだろうか……? これが指輪の向こうにいる推定古き妖精の名前なのだろうか。シルヴァのプーカや、このレプラコーンの法則の中では思い当たる種族がいないのだが……。

「こ、この話はやめや! えぇと、追加の報酬はどうしたら……」
「ゴルポッド! ゴルポポポ……」
「なんや、相棒? ふんふん……」

 頭を抱えてしまったレプラコーンに、金壺が何やら語りかけている。そういえば追加報酬の話だったな。

「よし! それで行こか! 流石ワイの相棒やなー!」
「ゴルポポッ!」

 どうやら話がまとまったらしい。

「まずは若造に元々やろうと思うとった報酬がコレや」

 そう言って、横を浮遊している金壺によく似た、しかし一回りさらに小さい壺を差し出された。これが緊急クエストのクリア報酬欄にあった『金庫番の三つ葉壺』なのだろう。

「これの格を上げたるわ! ほぼ、相棒の次くらいの格やで? 感謝しいや!」
「……それは、すごいな」
「せやで! 若造にしては物の価値がよぅ分かっとるやないか」

 詳しく何が出来るとかは正直分からないが、そこの金壺の分類は『神器』だった。それの『次くらいの格』というだけで価値は推して知るべし、だろう。

「それじゃあ、やったるでぇ相棒!」
「ゴルポッドー!」

 レプラコーンと金壺が気合いを入れたかと思うと、小さい方の壺も浮遊し、その周りを何やら見たこともない動きでシャカシャカと踊りだした。

「なんか……MPが削られそうな踊りだな……」

 シャケ茶漬けの感想に同意出来たので、僕も頷いておく。
 しかし、脱力しそうな踊りとは裏腹に、何か大きな力が周囲に満ちてきて、小さな壺へと集束していく。

「いやっほぅ! 久々の相棒との踊り、ノッてきたでぇ!」
「ポポゴールドォ!」

 1人と1個のテンションも最高潮だ。何が出来るんだろう、とボンヤリ見ていると────。

「んなっ!?」
「ゴルポッ!?」
「ん? あれ……」


 いつの間にか黒い触手が小さな壺の方へ忍び寄っていた。


 ……というか、これ僕の“根”だな……?


 無意識に出してしまったのか、勝手に出てきたのか分からないが、とにかく引っ込ませないと……と、操作に意識を向けるが……。


 ポロッ


「「「!?」」」

 小さな壺の真上まで伸びた根の先端が勝手に千切れ、小さな壺の中へと入っていってしまった。そこで、僕の引っ込める操作が反映され、根が消える。
 タッチの差で間に合わなかった感がある。

「おどれ、何変なモンを入れ……!」
「ゴ、ゴルポポーッ!」


 ボフンッ!!


 焦った様子のレプラコーンと金壺だったが、小さな壺からコミカルな音と煙が弾け────視界が塞がれる。視界が塞がれたのは大きな体が目の前に現れたからだが。

「な、何や、とんでもないモンが出来てもうたわ……」
「ポッドォ……」

 レプラコーン達の呟きに大きな体の陰から顔を覗かせると、サイズはそのままだが、金色の部分が黒く染まり、碧色の宝石が4つハマった壺がそこにはあった。

 僕が認識したことを察知したのか、黒い壺は真っ直ぐ僕の方へ飛んできた。……迎えうったバラムの腕も躱して。

 色々な意味で怖いのでとりあえず《解析》結果を確認する。


[底根の四つ葉壺]
金庫番の妖精レプラコーンと金庫番の金壺が祝い、縁覚編纂士トウノの一部が混ざって出来たもの。
本来の機能から大分変異してしまった。
縁覚編纂士トウノ以外に使われることを拒否する。もし、他の者が使えばどうなるかは保証出来ない。
耐久力:S
品質:EX
分類:妖器
効果:《格納記録》、《底根変換》
素材:金庫番の三つ葉壺、底根の根
製作技能:《金庫番の祝い》《金壺の祝い》
製作者:古き妖精レプラコーン、金庫番の金壺

《格納記録》
この壺に格納した物の情報を記録する
※記録に使用された物はロストする

《底根変換》
底根族の根と引き換えに、記録した物を生成する



 ……また、取り扱いに困るものを。
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