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本編
140:妖精ってやつは……
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ダンジョン突入と同時に流れた通知の内容に対する違和感に首を捻る。ダンジョン『煤けた地下道』と通知が来たが、《解析》では『金壺の地下道』という名前だったはずだ。
これはどういうことだろう?
と、そんな事を考えている間にも、薄暗くてカビ臭い石造りの通路の先に何者かの影が浮かんでいた。
「ブゴッ!? ブゴオオ……!」
多少凶悪な顔つきをした豚頭に、傭兵のような格好をした魔物が僕達の存在に驚いた様子を見せると、奥へと走り去っていく。これは事前にあぬ丸から聞いていた通りだ。
[オークウォリアー]
戦闘能力に長けたオーク。
数体の魔物を統率している事もあり、その場合は脅威度が上がる為注意が必要。
分厚い皮と脂肪、筋肉によって防御力がとても高く、攻撃は大振りで避けやすいが当たると危険。
分類:魔物
生息地:北方の山・中層、カトル東の森・深層
属性:土
弱点:刺突、遠距離物理、風属性
素材:牙、皮、足、肝、魔石(小)
状態:正常
《解析》でも変わったところはとくに無さそうだった。強いて言えば、この辺りのフィールドの魔物と比べると二段くらい強そうな魔物、ということくらいか。
「今日も元気に逃げていきますわぁ」
「どうする? 追うか?」
『いや……というか……』
『我ら以外は気づいていなさそうであるな』
『ああ』
皆の反応から多分気づいていないのだろうな、と思うんだが……僕達の感知には……。
『この入り口すぐの右の壁の奥に通路がある、と思う』
「えっ、マジ?」
「ああ、何かある」
「兄貴も分かるんすね! 流石っす!」
「ここー? ふんっ!」
ドゴッ!!
あぬ丸がすかさず壁に向かって正拳突きを叩き込む。とても重い音と衝撃が伝わってきたが、壁はびくともしない。
「あれぇ? このくらいの壁なら砕けてるはずなんだけどなぁ……」
『そ、そうなのか……すごいな』
あぬ丸の拳は石壁くらいは軽く砕けるらしい。
「いや、ダンジョンだぜ? 普通の壁とは違って破壊不可とかなんじゃないか?」
「そっかー。まぁ、試してみただけよぉ」
『どうやら合言葉のようなものを“使わないといけない”ようだ』
「使わないといけない? 言わないといけない、じゃなくてですか?」
向こうに通路があると思しき壁を見てみると、開き方も一応分かるようになっている。と、言っても多くの者はそれを見ても意味が分からないだろう。
『ああ。僕ならどうにか出来そうなんだが壁に触れないといけないようだ。……《変化》を解いてもいいか?』
「ダメだ」
『うぅん……』
即却下されてしまった。どうしたものか。
と、考えていると、バラムが壁の方に体を寄せて来る。何処となく自分の体で僕を隠すような位置どりをしているような……?
『ここからあの“根”を伸ばしたら触れた事にならねぇか?』
『む? ……ああ、出来るかもしれないな、やってみよう』
確かにそれなら《変化》を解かずに壁に触れられるかもしれない。とはいえ、接触判定になるかは分からないのだが……。
とりあえず技能を発動し、バラムの首元から黒い根がニョロッと出てくる。フクロウのサイズに合わせてか、若干人の姿で発動した時よりも直径が細くなっている……今どんな絵面になっているんだろうか。
それはともかく。さっさとこの壁をどうにかしてしまおう。
僕は根を操作して目の前の壁に触れさせて────《古ルートムンド語》で“合言葉”を付与した。
すると。
目の前の壁が初めから何も無かったかのように消え去った。
「うおっ! 急に壁が消えたぞ!?」
「ほぁー、本当に何か見つけちゃったなぁ」
「……なんとなく、トウノさんのプレイの常を垣間見た気分だな……」
皆には前触れもなく急に壁が消えたように見えたのだろう、驚かせてしまった。本当に根だけで触れた事になるのかは半信半疑だったので、僕も少し驚いている。
「結局その“合言葉”とは何だったんでしょうか?」
『……いや、もう開いたんだし、いいんじゃないか?』
「えー、気になるから教えてよー」
「おう、そこではぐらかされると余計に気になってプレイに集中出来ないぜ」
『そ、そうか……』
僕は合言葉を伝えるのを躊躇うが、皆が気になっているというので仕方がないので伝える。
『うぅん……合言葉は“馬鹿が見る、豚のケツ”だ』
「「「「…………」」」」
重い沈黙が降りる。
合言葉は、この壁の仕掛けを見つけられずにオークウォリアーを追う者を揶揄した言葉になっていた。
「へーぇ? 随分と煽ってくれんじゃんー?」
「おうよ、しかも開く為にこの言葉を使わないといけないたぁ、舐めた真似してくれるよなぁ?」
「ここで煽られたらますます思うツボなような……」
「中々上手いことを言いますね」
反応はまちまちだが、あぬ丸とシャケ茶漬けは若干カチンときている気がする。
『多分、これが『妖精が関係している』という所以だと思う』
仕掛けや煽りの雰囲気からこれは妖精の仕業と見て良さそうだ。……妖精は他者を煽らずにはいられないものなのだろうか。と、何処かの黒山羊を思い浮かべる。
「ほーう? じゃあこの通路の奥に辿り着ければその妖精とやらに会えるのか?」
『それは……どうだろうな……』
今のところ《勘破》の範囲に妖精らしきマーカーは無いが……。
「……まぁいる“匂い”はするな」
「おお、兄貴がそう言うならいるんすね! じゃあ、俺たちをコケにした落とし前つけてやりましょう!」
「俺は別にコケにされてねぇよ」
「あでっ!」
バラムがシャケ茶漬けにローキックを入れる。痛そうだ……。
『うむ、我もこの先にいると思うである。それにしても煽り文句が少し幼稚であるな! もう少し捻っていかねば!』
『……』
シルヴァも同族?の気配を感じ取っているようだ。そして、煽り文句の評価までしている。やはり妖精は煽ることが標準なのか……?
「よし! それじゃあこの先に進んでみますか!」
「新マップと妖精をボコすのワクワクするなぁ!」
「難易度が違うかもしれないから、油断しないようにな」
「この扉をどうやって開けたのかを知りたいところですが、それは落ち着いたら教えてください」
『そうしてもらえると助かる。何なら後で紙にまとめておこう』
「ああ、それは良いですね、お願いします」
僕的にも文書化する方が思考を整理出来るし《編纂》で下書きとしても残せるので、今後検証野郎Zの気になる点を教える時は文書化するのが良いかもしれない。いつかまた資料としてギルドに提供出来るものがまとめられるかもしれないし。
「おい、妖精は油断ならねぇ相手だ。気を引き締めろ」
「うっす!」
「はーい」
「はい」
「ピキュッ!」
「ええ」
流石、傭兵としてもベテランなバラムの一言で弛緩した雰囲気が引き締まる。
「そんじゃあ、突入!」
あぬ丸が先陣を切る形で新たな通路へと突入した。
そして中はと言うと……。
『前方5歩先と、8歩先の頭上に罠がある。突き当たりを左に行った先の行き止まりの左側の壁に隠し部屋だ』
「いやぁ、トウのんのおかげでスイスイですなぁ!」
「そういやこのパーティ、シーフ系がいなかったな……」
そう、入り口の仕掛けは始まりに過ぎないと言わんばかりに隠蔽された罠や部屋がふんだんに仕込まれていたのだった。
これはどういうことだろう?
と、そんな事を考えている間にも、薄暗くてカビ臭い石造りの通路の先に何者かの影が浮かんでいた。
「ブゴッ!? ブゴオオ……!」
多少凶悪な顔つきをした豚頭に、傭兵のような格好をした魔物が僕達の存在に驚いた様子を見せると、奥へと走り去っていく。これは事前にあぬ丸から聞いていた通りだ。
[オークウォリアー]
戦闘能力に長けたオーク。
数体の魔物を統率している事もあり、その場合は脅威度が上がる為注意が必要。
分厚い皮と脂肪、筋肉によって防御力がとても高く、攻撃は大振りで避けやすいが当たると危険。
分類:魔物
生息地:北方の山・中層、カトル東の森・深層
属性:土
弱点:刺突、遠距離物理、風属性
素材:牙、皮、足、肝、魔石(小)
状態:正常
《解析》でも変わったところはとくに無さそうだった。強いて言えば、この辺りのフィールドの魔物と比べると二段くらい強そうな魔物、ということくらいか。
「今日も元気に逃げていきますわぁ」
「どうする? 追うか?」
『いや……というか……』
『我ら以外は気づいていなさそうであるな』
『ああ』
皆の反応から多分気づいていないのだろうな、と思うんだが……僕達の感知には……。
『この入り口すぐの右の壁の奥に通路がある、と思う』
「えっ、マジ?」
「ああ、何かある」
「兄貴も分かるんすね! 流石っす!」
「ここー? ふんっ!」
ドゴッ!!
あぬ丸がすかさず壁に向かって正拳突きを叩き込む。とても重い音と衝撃が伝わってきたが、壁はびくともしない。
「あれぇ? このくらいの壁なら砕けてるはずなんだけどなぁ……」
『そ、そうなのか……すごいな』
あぬ丸の拳は石壁くらいは軽く砕けるらしい。
「いや、ダンジョンだぜ? 普通の壁とは違って破壊不可とかなんじゃないか?」
「そっかー。まぁ、試してみただけよぉ」
『どうやら合言葉のようなものを“使わないといけない”ようだ』
「使わないといけない? 言わないといけない、じゃなくてですか?」
向こうに通路があると思しき壁を見てみると、開き方も一応分かるようになっている。と、言っても多くの者はそれを見ても意味が分からないだろう。
『ああ。僕ならどうにか出来そうなんだが壁に触れないといけないようだ。……《変化》を解いてもいいか?』
「ダメだ」
『うぅん……』
即却下されてしまった。どうしたものか。
と、考えていると、バラムが壁の方に体を寄せて来る。何処となく自分の体で僕を隠すような位置どりをしているような……?
『ここからあの“根”を伸ばしたら触れた事にならねぇか?』
『む? ……ああ、出来るかもしれないな、やってみよう』
確かにそれなら《変化》を解かずに壁に触れられるかもしれない。とはいえ、接触判定になるかは分からないのだが……。
とりあえず技能を発動し、バラムの首元から黒い根がニョロッと出てくる。フクロウのサイズに合わせてか、若干人の姿で発動した時よりも直径が細くなっている……今どんな絵面になっているんだろうか。
それはともかく。さっさとこの壁をどうにかしてしまおう。
僕は根を操作して目の前の壁に触れさせて────《古ルートムンド語》で“合言葉”を付与した。
すると。
目の前の壁が初めから何も無かったかのように消え去った。
「うおっ! 急に壁が消えたぞ!?」
「ほぁー、本当に何か見つけちゃったなぁ」
「……なんとなく、トウノさんのプレイの常を垣間見た気分だな……」
皆には前触れもなく急に壁が消えたように見えたのだろう、驚かせてしまった。本当に根だけで触れた事になるのかは半信半疑だったので、僕も少し驚いている。
「結局その“合言葉”とは何だったんでしょうか?」
『……いや、もう開いたんだし、いいんじゃないか?』
「えー、気になるから教えてよー」
「おう、そこではぐらかされると余計に気になってプレイに集中出来ないぜ」
『そ、そうか……』
僕は合言葉を伝えるのを躊躇うが、皆が気になっているというので仕方がないので伝える。
『うぅん……合言葉は“馬鹿が見る、豚のケツ”だ』
「「「「…………」」」」
重い沈黙が降りる。
合言葉は、この壁の仕掛けを見つけられずにオークウォリアーを追う者を揶揄した言葉になっていた。
「へーぇ? 随分と煽ってくれんじゃんー?」
「おうよ、しかも開く為にこの言葉を使わないといけないたぁ、舐めた真似してくれるよなぁ?」
「ここで煽られたらますます思うツボなような……」
「中々上手いことを言いますね」
反応はまちまちだが、あぬ丸とシャケ茶漬けは若干カチンときている気がする。
『多分、これが『妖精が関係している』という所以だと思う』
仕掛けや煽りの雰囲気からこれは妖精の仕業と見て良さそうだ。……妖精は他者を煽らずにはいられないものなのだろうか。と、何処かの黒山羊を思い浮かべる。
「ほーう? じゃあこの通路の奥に辿り着ければその妖精とやらに会えるのか?」
『それは……どうだろうな……』
今のところ《勘破》の範囲に妖精らしきマーカーは無いが……。
「……まぁいる“匂い”はするな」
「おお、兄貴がそう言うならいるんすね! じゃあ、俺たちをコケにした落とし前つけてやりましょう!」
「俺は別にコケにされてねぇよ」
「あでっ!」
バラムがシャケ茶漬けにローキックを入れる。痛そうだ……。
『うむ、我もこの先にいると思うである。それにしても煽り文句が少し幼稚であるな! もう少し捻っていかねば!』
『……』
シルヴァも同族?の気配を感じ取っているようだ。そして、煽り文句の評価までしている。やはり妖精は煽ることが標準なのか……?
「よし! それじゃあこの先に進んでみますか!」
「新マップと妖精をボコすのワクワクするなぁ!」
「難易度が違うかもしれないから、油断しないようにな」
「この扉をどうやって開けたのかを知りたいところですが、それは落ち着いたら教えてください」
『そうしてもらえると助かる。何なら後で紙にまとめておこう』
「ああ、それは良いですね、お願いします」
僕的にも文書化する方が思考を整理出来るし《編纂》で下書きとしても残せるので、今後検証野郎Zの気になる点を教える時は文書化するのが良いかもしれない。いつかまた資料としてギルドに提供出来るものがまとめられるかもしれないし。
「おい、妖精は油断ならねぇ相手だ。気を引き締めろ」
「うっす!」
「はーい」
「はい」
「ピキュッ!」
「ええ」
流石、傭兵としてもベテランなバラムの一言で弛緩した雰囲気が引き締まる。
「そんじゃあ、突入!」
あぬ丸が先陣を切る形で新たな通路へと突入した。
そして中はと言うと……。
『前方5歩先と、8歩先の頭上に罠がある。突き当たりを左に行った先の行き止まりの左側の壁に隠し部屋だ』
「いやぁ、トウのんのおかげでスイスイですなぁ!」
「そういやこのパーティ、シーフ系がいなかったな……」
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