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本編

137:ハズレダンジョン

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「そういえば、私達まだ検証野郎Zとフレンド登録してなくないー?」
「あっ、そういえば……」
「確かに、全員とフレンドなのは俺だけか」
「皆さんが良ければ是非フレンド申請させてください」
「勿論オッケーさー!」

 ということで、この場にいるメンバーでまだ検証野郎Zとフレンドになっていなかった僕とあぬ丸、鍋の蓋でフレンド登録をし合う。

「そうとなったらー、一回はイベント前にこのメンバーでフィールドに出ときたいよねぇ?」
「だなー。兄貴とたまにパーティ組む検証野郎Z以外は、どんな戦い方するのかすら想像がつかねぇよ」

 確かに、ぶっつけ本番でイベントに臨むよりは、まだ期間もあるのでそれぞれ何が出来て、どう補完し合えるのか知っておいて損は無いだろう。
 しかし、そうなると。

「……誘っておいてなんだが、僕は戦いはほぼ出来ないからほとんど戦力にならないかもしれないな……」
「通常のパーティプレイでは確かに戦いがメインですが、参加するのはバトルロイヤルではなくサバイバルですし、戦う事だけが戦力では無いと思います。それに防衛戦や前回イベントでの貢献度を考えると“戦力にならない”は無理があるかと」
「検証野郎Zのマジレスがトウのんを襲うー! でも、ほんとそれ!」
「なら良いんだが……」

 どうやら僕が思っている以上に、戦えない事は気にされていないようなのでホッとする。だからこそ、それ以外の部分で出来ることがあれば頑張ろうと思えた。

『今の主殿は戦えないというより正確には“戦いにならない”であるがのぅ!』
「……」

 ずっと大人しくしていたシルヴァからこっそり茶々が入る。まぁ、それはそうなんだが……。

「というか兄貴がパーティに入るってだけで百人力……いや、千人力だぜ!」
「そうだな、そのくらいだと思う」
「お! トウノ君もそう思うか! やっぱ、そうだよなー! くぅー! 久しぶりに兄貴と一緒に戦えるなんて嬉しいぜー!」

 この世界の強さの基準は分からないが、それでも強い方であったろうバラムがさらに転生まで果たしているので、むしろそんな存在がプレイヤーに混じってイベントに参加していいのか、改めて不安になる。個別メールでは問題無いとのことだったが、本当に大丈夫なのだろうか……。

 ……そうだ、この事も皆に知らせなくては。

 僕は皆に個別に来た運営メールの内容を伝える。僕と盟友契約を結んだ住民が参加する場合、それなりに難易度調整が入ったサーバーに振り分けられる可能性が高い件についてだ。

「それは“でしょうね”って感じー?」
「だな」
「まぁ、妥当な処置でしょう」
「参加不可にした方が楽だったろうになぁ。また兄貴とイベント参加する機会をくれた運営マジグッジョブ!」

 と、皆の反応はこんな感じだった。うーん、皆なんか大人というか、オンラインゲーム慣れしている感をヒシヒシと感じる。

「話を戻してー、お試しパーティプレイはどうするー?」
「そりゃまぁ、したいよな。兄貴とパーティ組めるならいつだって」
「ブレないねぇ。皆が空いてそうならこれから行っちゃう?」
「俺は平気だけど」
「私も問題ありませんが」
「俺もまだまだ大丈夫だぜ」

 あぬ丸の提案に僕以外の皆から承諾の声が上がる。僕もログイン時間的にも、活動時間的にもまだまだ余裕がある。

『行っても問題無いだろうか。出来たら行きたいんだが……』
『…………ああ、余程危険な所じゃなければ良い。勿論俺も行くぞ。山羊も来いよ』
『無論である。サバイバルイベントとやらの予行演習なのだろう? ならば我らも行かなくてはのぅ!』

 ウィスパーで僕もお試しパーティプレイに行きたい意志を2人に伝えると、無事賛同してくれた。

「ああ、僕達も行ける」
「……むふっ、明らかに私達には聞こえない会話をしてたねぇ……」
「あぬ丸はまた……本人の前で言う事じゃないだろ……」
「まぁまぁ、良いじゃん! そうとなれば早速しゅっぱーつ!」

 ということで僕達は少し慌ただしくドブネズミの洞穴を後にした。




「……で、何処へ行くんだ?」

 勢いのままに店を出たものの、これからどうするのだろう。

「うーん、あんまり考えてなかったけど、トウのんもいることだし“ハズレダンジョン”に行ってみるー?」
「っ、ダンジョン……?」
「あ゙あ゙?」

 『ダンジョン』という言葉に僕は反射的に体に緊張が走り、バラムは機嫌が急降下して一気に周囲の空気が冷える。

「ダンジョンって言っても、他と違って俺らレベルでも割と戦える所なんす! だから心配なさらず!」

 冷えた空気を察してか、シャケ茶漬けが慌ててフォローを入れる。

「あれ? トウのんとオトモダチはハズレダンジョン知らない?」
「……レアボスのダンジョンではないなら分からないな」
『何を言うであるか、主殿!』

 僕の知っているダンジョンは図書館にある本の中に存在しているものと、シルヴァが自分が封印されていた空間を魔改造して作ったダンジョンだけだ。
 本の方は現状、僕達以外が辿り着いているとは思えないので、あるとすればシルヴァのダンジョンだが……。

「違う違う、そっちはむしろ私達のレベル帯にマッチしててドロップも割と良い“アタリダンジョン”だよー」
『ほれ、この通りである! 我はちゃんと異人達をリサーチしてコミットしておるからな!』
『……そうか、悪かった』

 どうやらシルヴァのダンジョンでは無いようだ。そして危惧していた通り、シルヴァは順調に僕達の言葉を覚え始めているらしい。

 その後詳しく聞いたところによると、ユヌ北西の森の深層にあるダンジョンがプレイヤー達からそう呼ばれているらしい。

 ギルからは秘境に存在すると聞いていたが、案外近場にもあったんだな。

 他に開示されたダンジョンについては、そもそも現状そこに行くのも大変かつ、中の魔物も相当強いらしく、最前線の攻略組でもまだまだ手が出ないほどだとか。

「レアボスダンジョンより少し敵が弱いくらいで初心者やエンジョイ勢がバトルに慣れるのには良いんだけど、ドロップアイテムもショボけりゃ素材の市場価値もショボいっていう中々モチベの上がらないダンジョンなんだ」
「……あそこか」

 ここまで聞いて、バラムに思い当たるものがあったのか、反応を示した。

「知ってたのか」
「そりゃな。あそこがダンジョンだってことも忘れてたが」

 ユヌを活動拠点にしていたバラムはダンジョンがユヌの北西にあると知って思い当たるものがあったようだ。ただ、住民の傭兵や冒険者の間でも、比較的安全ではあるが実入りが少ない事で有名で、最早ダンジョン扱いもされていないとのこと。

「地元住民からもそんな扱いなんだな」
「そんな所行くくらいならレアボスパイセンのダンジョンで良くないか?」
「……」

 皆は知る由も無いことではあるが、それはそれでどうなんだろう。まぁ、バラムもたまに行っているみたいだし、色々融通はきくのか?

「でもー、このゲームでは結構レアらしいダンジョンの中身がアレだけって逆に怪しくない? トウのんの《解析》なら何か分かるかもしれないよー?」
「そう言われるとそうだが……俺はあんまり知らないんだけど、トウノ君の《解析》ってそんなすごいの?」
「最早別物レベルだよぉ。あれから時間もかなり経ってるし、もっと別物になってるんじゃないかなぁ?」

 と、ここで皆の視線が僕に集まる。……他のプレイヤーの状況はあまり分からないんだが……。

「まぁ、職業補正のかかる《解析》《編纂》あたりなら、高い性能ではあるんじゃないだろうか……」
「トウノさんの職業……『縁覚編纂士』ですか……また随分変わった単語が合わさった職業名ですね」
「あれ、トウのんもう昇格したの? 早くない?」
「……まぁ、色々とあって。あと一応、昇格では無い、と思う」

 通知では『昇格』ではなく『変化』とあった事からの推測になる。ただまぁ、違いは何だと言われると僕にも分からないのだが。

「というか装備はまぁ、私達もちょいちょい変えてるから良いにしても、明るいところで見ると色々と変わってるようなー?」
「……装備は変わったな」
「ほーぅ?」

 あぬ丸が鋭いところを突いてくる。転生関係は不確定要素が多過ぎたり、正直説明が面倒なので今はあまり明かしたくない。

「本当に興味深い事ばかりですね、トウノさんは」
「そう言われると兄貴も雰囲気がちょっと変わった気がするけど! するけども、全部俺達に明かさなきゃいけないわけじゃないんだし、これ以上詰めると兄貴にぶちのめされるぞー」
「そりゃそうだねー。んじゃ、とりあえずハズレダンジョン行ってみよっかー!」

 僕が何となく渋ったのを察してくれてか、深追いせずに引いてくれる。何ともありがたい。



 そうして“ハズレダンジョン”に向かうべく、皆でアークトゥリアの石像から転移しようとして────僕とバラムとシルヴァはやっぱり使用することが出来なかったので、ユヌ北西に一番近い欠け月の写しに別々に集合することとなった。

 ちなみにドゥトワのアークトゥリアの石像はユヌのものより多少はディテールが細かくなっていたが、周囲にダチョウやらゴリラやらのブロンズ像……という名の珍妙な魔導ゴーレムに囲まれて何やら窮屈そうな印象だった。
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