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本編

133:ベイヴィルの仕立て屋

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 それから、少し間が空いてしまったので溜まっていた納品依頼を消化したり、ちょうど良いのでジェフにも僕とハスペの繋がりに勘づかれた事と、穏便に秘匿契約を交わそうと考えている事を連絡した。

 ジェフからも契約を交わす事を勧められ、契約のたたきも送られてきた。ありがたい。

 ちなみに生産の方だが、転生した影響なのか心無しか効果が高めになってしまったというか……何故か幻梟が付与されてしまい、どうやっても外す事が出来なくなってしまった。

 色々調べてみたところ、生産物から持ち主に幻梟が移ることは無さそうで一先ず安心したが、幻梟が付与されたアイテムを所持している者が僕へ害意を持つと、その幻梟によって秘技が自動的に発動される。

 ……インベントリに入っている状態でも発動されるのは、いよいよ…………。そして、自分のインベントリ内にあるいくつかのアイテムへも不安を覚えた。

 とりあえず、ジェフには隠さずに伝えた方が良いだろうと生産物の変化についても報告をした。これについては、購入者へ直接付与される物ではない事、むしろ僕へのセーフティとして利点だという事で問題無いという判断だった。

 お互いの為にもあまり他のプレイヤーと敵対するような場に出ない方が良さそうだ。うぅん……転生で少し緩和されたと思ったら、また新たな問題が……まぁ、以前よりは幾分マシか?


 ということで、シャケ茶漬け達と会うまでに何をしようか。借家へ移って図書館に行ってもいいが……。

「そういや、ベイヴィルんとこ行くんだったか?」
「む? ……ああ、そうだったな……いや、でも……」

 バラムの言葉で、ギルから出資先の一つである仕立て屋のベイヴィルのところに顔を出すのをすっかり忘れていたのを思い出す。
 しかし、そこでバラムが購入してきてくれたムートンのマントは不可抗力とはいえ、ユニーク装備に吸収されて失われてしまったと言っていい状態なので、なんとなく気が引ける。

「マントの事を気にしてるなら向こうも商売だ、売った後の扱いなんざ気にしねぇよ」
「そうだろうか」
「ああ。むしろそのマントでも見せてやれば、喜ぶんじゃねぇか?」
「むむ……相手の反応は分からないが……顔を出さないのは向こうに悪いな。うん、とりあえず訪ねてみよう」

 住民は全員知り合いでもおかしくない、小さな町だ。おそらく僕がこの町に滞在している事は伝わっているだろうに、ここで顔を出さないのは一番不義理な気がした。

「分かった。飯食ったら案内してやる」
「ああ、頼む」
『我も勿論行くであるぞ!』


 ということで、まずは下の食堂で腹ごしらえをしてから早速ベイヴィルの仕立て屋へと向かった。ちなみにシルヴァは今回もフクロウに変身している。


 バラムの案内でベイヴィルの仕立て屋へと向かう。その店は、東門に近い方の裏通りの一角にあった。

 《勘破》によると、店の中には住民のマーカーが一つだけ表示されていて、このマーカーの持ち主がベイヴィルなのだと察せられる。
 入店の直前にフードを外す。

 今回も、顔見知りらしいバラムに先に開けてもらう。

「婆さん、来てやったぞ」
「んん? その声はラスティ坊やかい? 呼んだ覚えは無いんだけどねぇ…………おやまぁ!」

 そこにはとても小柄な老齢の婦人がいた。少し目に留まる部分としては、頭に巻角があり、角の形から察するに羊の耳が生えている事だった。
 よく観察してみると、毛質や手にも羊を思わせるような特徴が表れている。

 多分だが、彼女は羊を元にした獣人なのだろう。

 婦人はバラムの傍にいる僕を認めると、ポテポテとした足取りでこちらに来てくれた。婦人が僕の手を優しくとってニッコリと笑う。

「あらぁ、いつ来てくれるかって首を長くして待っていたのよ」
「挨拶が遅れて申し訳ない。トウノと言う」
「まぁ、丁寧な坊やなのねぇ。私はここで細々と仕立て屋をしているベイヴィルって言うの。よろしくねぇ。こんなところで立ち話もなんだから、奥にどうぞ」
「すまない。失礼する」

 ベイヴィルに促されて、奥の部屋に通される。そこは作業机や作業中と思われる布が置かれており、作業場なのだと思うが、程良く明かりが差し込んでいたり、植物の植った鉢植えがそこかしこに置かれていて中々温かみのある空間となっていた。
 ハイモの作業場とはまた違った趣きだ。

「散らかっててごめんなさいねぇ」
「いや、とんでもない」

 ベイヴィルはお茶まで出してくれる。仄かに花か何かの香りがする気がする。
 彼女自身も腰を下ろし、お茶に口をつける。

「坊やが出資してくれたおかげで大分暮らしに余裕が出来たのよ。ありがとうねぇ」
「助けになったなら何よりだ。僕がここに来るのは初めてだが、大剣使いからここのマントを貰って愛用している」
「ええ、ええ。あの恐ろしい魔物襲撃騒ぎの前にラスティ坊やが珍しく新品のマントを依頼してきたからよぉく覚えてますよ」
「その呼び方やめろっつってんだろ」

 ベイヴィルが思い出すように頷きながら話すのに、バラムが苦い顔をしてツッコミを入れる。確かに『ラスティ坊や』ってバラムが呼ばれているのは……ちょっと面白いな……。

「……何考えてる」

 などと考えていると、バラムから半目でこちらを見ていた。

「いや、別に……」

 僕は何気なく目を逸らしながらお茶を啜る。

「うふふ、仲良しさんで良いわねぇ」

 ベイヴィルはこちらを見てホッコリとした顔をしている。

 そうだ、有耶無耶にならない内にマントの件の詫びを入れてしまわねば。

「あ、そうだ。その……マントを愛用しているというのは本当なんだが、先日ちょっとしたアクシデントでこの装備セットの一部に吸収されて……というか変化してしまって……申し訳ない」
「あら、そうなの? 別に構わないけど、その変化とかって何かしら?」

 ベイヴィルが頬に手を当てて首を傾げる。僕は自分の外套を手繰り寄せて彼女の前に見せる。

「実は今装備しているこの外套が元々ムートンのマントだったんだが……」
「あらまぁ。ちょっと見てみていいかしら?」
「ああ」

 首元に下げた、おそらく老眼鏡をかけて僕の外套を手にとり隅々まで観察したり、手触りを確かめたりする。

「本当に完全にムートンじゃなくなってしまっているわねぇ」
「すまない……」
「あらぁ、それは本当に構わないのよ。こんなに綺麗で薄いのに触ってみると丈夫そうな生地、見た事も無いわ。こんな物が世の中にはあるのねぇ」

 一通り観察し終えると、丁寧に皺を伸ばしてそっと戻してくれた。

「ありがとうねぇ。この歳で久しぶりにワクワクするような生地を見れて良かったわ」
「いえ、そう言ってもらえると……」
「生地が変わるというのは、特別な装備や力の影響を受けるとたまにある事なのよ。このマントに《認識阻害》が付いているけど、これもその影響なのかしら?」
「いや、それは……僕の技能でムートンのマントの時に付与してみたんだ」
「まぁ! そうなの? 優秀な付与士さんでもあるのねぇ」
「え……ええ、まぁ」

 ベイヴィルに僕が付与士だと勘違いさせてしまったようだが《編纂》の性能を詳しく説明するのも躊躇われたので、つい誤魔化してしまう。

「私は付与が出来ないのだけど、最近出回ってる鎮め札っていうのがあるじゃない? あれみたいなものでもっと色々な効果を付与出来るアイテムがあると、付与士ではない私でも作れる物の幅が広がると思うのだけど……」
「ふぅむ?」

 鎮め札とは違う色々な効果の付与アイテム、か。そろそろまた新商品開発をしてみても良いのかもしれないな。少し考えてみるか。


「あら、もうこんな時間。引き止めてしまってごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ仕事中に邪魔してしまった」
「良いのよぉ、この通りのんびりやってるから。じゃあ、また仕立てが必要でも必要でなくてもいつでもいらしてね。ラスティ坊やももっと顔を見せてくれていいのよ」
「ああ、またお茶でも飲みに来させてくれ」
「は、気が向いたらな」


 こうして、ベイヴィルの仕立て屋をお暇した。


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お待たせしてすいませんが、シャケ茶漬けの知り合いは次話登場します( 'ω' )و
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