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本編

123:転生関連は挙動が怪しい

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 目の前で神秘的な星雲を背に負った黒猫が人のような表情の豊かさで、焦ったようなバツが悪そうな顔で語りかけてくる。動物顔で表情豊かなのは何処かの黒山羊で大分見慣れたものだ。

『遅れたのはすまなかったと思うが、チクるのは違うじゃろう!』
「いや……すまない。プレイ不能なバグかと思ってしまって。問い合わせを撤回するメールを送っておこう」
『うう、頼むのじゃ……。そもそも転生がこんなに早く、しかも一番手が妾の出番とは思わんじゃろうが……』
「…………」

 黒猫が項垂れながらブツブツと言っている。この猫、さっきからメタ的な……というかこのゲームの想定進行の話もしてないか? これ、僕が聞いていて良いやつだろうか。

 とりあえず、忘れない内に問い合わせの撤回メールをささっと送信する。

 ちなみに、黒猫が現れた事で場が動き出したのか、体も動かせるようになった。

「あの、とりあえず転生は出来るのだろうか?」
『む! ……おほん。そうじゃな、ここにこうしてお前と妾が召喚されている以上は転生出来るのじゃ。これが転生先候補じゃ』

 そう言うと宙に文字が浮かび上がる。


〈通常〉
闇人族
精人族
貴人族

〈特殊〉
幽人族
巫人族


 うーん、漢字の印象から何となくイメージはつくが、詳細は分からない。ただ、やはり僕は闇系統に寄っているようだ。この儀式場限定の選択肢がある場合もあるが。

『ほぅ……特殊種族の選択肢は出るだけでも珍しいのに2つもあるとは驚きなのじゃ。詳しい事は文字を注視してもいいし、妾に聞くでも良いぞ』
「分かった。そうだな……まずこの『通常』と『特殊』だとどう違うんだ?」
『転生条件が緩くてなれる者が多い方が『通常』、条件が中々複雑でなれる者が少ない方が『特殊』と覚えておけば良いのじゃ』
「なるほど」

 それから詳細を見たり黒猫に質問したりしたところ、只人族が最もニュートラルな状態だとすれば、転生種族は少なからず“特化”が起こり、他の人系種族と同じように得手不得手が出来るのだという。

 オールマイティなステータスでいきたい場合でも、只人族でいるよりはステータスが全体的に上がるので転生した方が良いようだ。その場合はあえて『通常』の種族から選んだ方が得手不得手の差は小さくなるらしい。
 逆に『特殊』の種族は得意なものの上がり幅や補正は大きいが不得意なもののマイナス補正もまた大きいとのことだ。

 まぁ、僕にはあまり関係無さそうではあるが。強いて言えばAPに補正の高い種族だと良い、くらいだろうか?

 ……ただ欲を言えばもう少し死にづらくなりたい。ダンジョンやフィールドに出てみると、バラムとシルヴァの負担になっているのは仕方がないにしてももう少し軽減出来ないものかと思ってしまう。そういう風なステータス振りをしてきたのは、他ならぬ僕自身ではあるのだが……。

「APの補正が高くて、死にづらそうなのはどの種族になるんだ?」
『それじゃと闇人族か幽人族なのじゃ。どちらも弱点にさえ気をつければ死ににくいはずじゃ。AP補正の一点だと貴人族じゃがの。言うてAP補正はどれもそれほどの差は無いのじゃ』
「ふぅむ……」

 改めて黒猫から候補に上がった闇人族、幽人族、貴人族を確認してみると、闇人族は暗闇に紛れる事や闇属性の力の補正や耐性が高く、認識阻害の補強をして隠れ潜むのに向いていそうだ。光属性に弱いので注意しないといけないが。

 幽人族は闇人族の特性が強まった上で、さらに物理耐性と魔法耐性もそこそこ高く、まだまだ序盤でこれは中々強種族と言えるのではないだろうか。……ただし、闇人族よりもさらに光属性に弱い。初歩の技程度でも瀕死レベルのダメージを負ってしまうそうだ。

 そして貴人族だが、こちらが只人族の転生の正統派?ルートのようだ。一番得手不得手の差が狭く、これといった弱点も無いが、抜きん出た耐性も無い種族になる。補正で言えば、団体統率系の技能に補正がかかるそうなので、レイド戦などに参加していると助かるのではないだろうか。
 多分だがバラムの言っていた王族、貴族が転生しているとしたらこの種族になっているのだろう。

『最近はほんのちょびっとの只人族が貴人族になるだけじゃからつまらんのじゃ。しかも東か南でだけだしの!』

 貴人族の説明を求めた時の黒猫の台詞からも、僕の推測があながち的外れでは無さそうな事が窺える。

 ちなみに残りの種族だが、精人族は精霊系にほんの少し近くなり、たくさんの魔法を扱いたいならこの種族だとか。エルフとイメージが被る印象だったのでそれだったら初期アバターをエルフにすれば良かったのでは……と思ったが、それはある程度種族を選べるプレイヤーだから出来ることであって、只人族として生まれた者が魔法を志すならこの種族を経て精霊の力を得ていくようだ。魔法はエルフ系統にはまだ敵わないが、その代わり体の頑強さがあるので魔法剣士のような前衛にも立てる魔法使いはこの種族が向いているとか。

 ……まぁ『精霊』と出た時点で僕が選ぶ事は無いだろう。

 最後に巫人族だが……割と今の僕のステータスやプレイスタイルに一番近そうなのが妙に納得いかないが、戦いに必要なステータスはほとんどマイナス補正な代わりに聖属性の力がかなり強まり、儀式系技能により団体範囲でバフをかけるのが得意だとか。しかし、戦う事も身を守る事も不得手なのでしっかり守らねばならない、と。そして、人系種族、精霊、果ては一部の魔物からも重宝される種族の為、見つかると奪い合いが起きるとか。

 …………この種族は絶対に選ばない、というかこういう状況を打破したくて転生するのにこれになってしまっては本末転倒だ。


 なので、この中で何を選ぶかだが……。


「この中で言えば幽人族だろうか。一番死にづらそうだし」
『光属性で消し飛ぶがの。じゃあこれに転生するで良いのじゃな?』
「ああ」

 黒猫の確認に頷く。

『では転生の儀を……って、何じゃ! 今こいつを転生させるとこなんじゃ、後にせい! いや……っ、ちょ、待っ……!』

 突如黒猫の挙動が一気におかしくなる。まるで僕以外の誰かが他にいるかのように喋りだし、百面相をしながら大暴れした後────沈黙した。

 ………………百面相をして暴れる黒猫は今までで一番怖かったかもしれない。というか何だろうか、今度こそバグってしまったのだろうか。


 というか。


「僕の転生はどうなったんだ?」
『それなんだけどね』
「っ!」

 沈黙した黒猫が再び動き始め、言葉を紡ぐが、一言聞いただけで先程のちょっとおっちょこちょいそうな「のじゃ」口調の黒猫では無いのが分かり、背中が総毛立つ。

『そんなに怯えないでおくれよ! ちょっと姿は違うけど僕だよ、トウノ!』
「………………いや、全く心当たりが無いが」
『またまた~』

 急に先程までの黒猫の中身とは違う存在がフレンドリーに接してきてさらに怖い。向こうは僕と会った事があるような風に話しかけてくるが、そもそもアルストでの僕の交友関係はまあまあ限定的だし、その中でこの黒猫の人格にあたるような存在はいない。

 僕が本当に心当たりが無さそうなのが分かると黒猫ががっくりと頭を下げる。

『そんな……僕のことを覚えていないなんてひどいよ、トウノ。この世界で初めて会った人物を覚えてないなんて……』

 若干わざとらしく前足で目を覆って、人が泣く時のような仕草をする。


 ………………ん?
 この世界で初めて会った……そして妙にフレンドリーなこの態度……。


「……もしかして、キャラクタークリエイトの時のサポートAI、だろうか?」
『ここまで言わないと思い出してくれないなんて悲しいよ……。だけど、その通り! 改めて久しぶりだね、トウノ!』


 そう言うと黒猫は目を細めてにんまりと笑った。
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