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本編

113:多分マジカル増築

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 出された軽食を食べ終え、一息ついていると、ローザがこちらへやって来る。

「トウノ、アンタうちに出資してくれただろう?」
「ああ。えぇと、始めてみた商売の方が結構上手くいったから、少しでも足しになればと」
「ああ、人を雇う余裕が出来て助かってるよぉ」
「為になったなら良かった」

 以前はローザと旦那さんの2人だけで切り盛りをしているようだったが、人を雇ったらしい。今は確認出来ないが、もしかしたら厨房にでもいるのかもしれない。

「あと増築もしてねぇ、一番上の階をアンタ達の部屋として使っとくれ」
「増築…………ん? 僕“達”の部屋?」

 よく考えたらよく分からない言葉がローザから出て来る。出資し始めてからこっちの時間経過で1ヶ月強経ったかどうかだと言うのに増築が終わっていてしかも階数が増えているらしい。……外からはそんな大きく変わった感じはしなかったんだが…………いや、そういえばこの世界の建物は外観の大きさと中の広さが合ってないこともあるんだったな……。ギルドとか。

 そして『アンタ達』とは……僕と……バラムの事だろうか?

「そうそう。元々少し前にそこのデカいのが部屋を一室丸々所有したんだけどねぇ。トウノにも部屋を贈りたいってなった時に近くじゃないと拗ねるかと思って隣同士にしといたよぉ」

 つ、次から次に知らないことが出て来る……。

「うぅん……バラムが部屋を所有していた?」
「それがねぇ、ウチの娘に借りがあるとかで、借りを返す為の娘からの要望が宿の部屋を買うことだったらしくてさぁ」
「そうなのか」

 ローザの娘とはもちろんカーラのことなのだろうが、バラムはカーラに借りがあったのか? しかもそれについてカーラは実家の宿屋の一室をバラムに買わせたらしい。……相変わらず、商売に関して強かなようだ。

 まぁ、バラムもこの宿を気に入っているようだし、一方的に散財したという事でも無いとは思うのだが。

 チラッとバラムを見ると、妙に不満そうな顔をしていた。何故に?

「……何で分けたんだ」
「部屋をかい? アンタねぇ、トウノにだって1人の時間やアンタと一緒にいたくない時くらいあるだろう」
「あ?」

 ローザの呆れたような物言いにバラムが片眉を上げてこちらを見てくる。…………直前の話題からして僕がバラムと一緒にいたくない時があるのかどうかを問われているのだろうか。

「別に……今のところ一緒にいたくないと思ったことは無いぞ」
「ふん」

 僕がこの問いについて思ったことを伝えると、バラムはそっぽを向いてしまったが、表情は何処となく満足気だった。その様子を見たローザが呆れ気味に苦笑いしている。

 とりあえず、僕が確認したい事としては。

「……つまり、僕の部屋が一番上の階にあって、泊まれるということで良いのか?」
「ああ! 自分の家だと思っていつでも帰って来な!」

 そう言うとローザはニカッと笑った。


 ホッとするような美味しい食事でお腹も満たせて、ユヌでの滞在場所も再び確保出来たところで、門番からも言われていた通り、ギルドへと向かう。宿にいる間にギルからも時間が出来たら顔を見せて欲しいと知らせが入ったので、向かうのは職業ギルドの方だ。

 ユヌにいる間は幾度となく通った裏通りを進み、ギルドの裏口へと辿り着く。ふと、正面口から出入りしたことは数える程しかないなぁ、と思い、その中の1回があった時にまだ顔も名前も知らなかったバラムに、僕がプレイヤーに絡まれていたところを助けてもらったなぁと思い出す。

 あの頃はバラムとこんなに行動を共にすると思わなかったというか、そもそも始まりの町をこんなに早く出れるようになるとも思って無かったというか…………本当に少しも想像していなかった状況になっているな……。

「おい、何ぼうっとしてんだ」
「ん、いや、何でもない」

 バラムに声をかけられて我に返る。少し思い出……のようなものに浸ってしまっていたようだ。

 気を取り直して、裏口からギルドの中に入る。裏口の見張りの人も僕を知っていたのか、笑顔で通してくれた。

「トウノさんと大剣使いさん! お久しぶりです、お元気でしたか?」

 中に入ると、早速朗らかな女性のギルド職員に声をかけられる。カーラだ。

「ああ。色々あったが……まぁ、元気だ」
「ギルさんからこの前の萌芽祭でも活躍していたと聞きましたよ」
「……何のことか」
「ふふっ、そうでしたね」

 彷徨う霊魂を直接昇華していた件はバラムとシルヴァ、図書館の老女くらいしか知らないはずなので、カーラの言う“活躍”とは、ハスペ名義で卸している鎮め札の事だろう。
 カーラなら僕が鎮め札を作っている事を知っているはずではあるが、一応隠しているのでとぼけてみた。

「……トウノさん、なんだか初めてお会いした時よりも表情とか雰囲気が柔らかくなった気がしますね?」
「そうだろうか?」
「ええ」

 あまり自分の表情などを気にしたことが無いのでよく分からないが、そういう機微に聡そうなカーラが言うならそうなのかもしれない。

「あの異人とカーラさん良い雰囲気ですね、何者でしょうか?」
「ちょ、馬鹿、お前……っ」
「あーあ、俺は知らねっす」
「? 何なんです? ……ひえっ」

 少し離れた所で職員達の話し声が聞こえる。……何だか、この感じも久しぶりだな。チラッと見るといつ間にかその職員達の背後にバラムがいた。ユヌでは顔が広いようなので、知り合いでもいたのだろうか。

「大剣使いさんも少し変わられましたかね?」

 カーラもそちらを見てクスクスと可笑しそうに笑う。

「トウノくぅーん……」
「ん?」

 何処からか、か細い声が聞こえて来る。聞き覚えのある声なのと何となく察するものがあったので、声が聞こえた方向の紙束の裏を覗きに行く。

「大丈夫か? ギル」
「いやぁ、大丈夫かどうかと聞かれるとそんなにかな……」

 そこには紙束に埋もれるようにして、作業をするギルがいた。顔が大分疲れている。初心者プレイヤー以外はもうほとんどユヌにはいないはずなのに何故これほどの紙束が?

「とりあえず、手伝おう。……未だにこれだけ情報が溜まるのか?」
「ありがとう、とても助かるよ……。最近はそうでも無かったんだけど、萌芽祭が終わった直後で一時的にね……」
「なるほど」

 一応、たまたま忙しくなっていただけのようだ。……今までの感じからして通常の時も何かと仕事を受けていそうだが。

 紙束の方は《編纂》でサクッと情報整理と資料出力を終える。最初の指名クエストの時や防衛戦の準備期間に比べたら、量も内容も軽いものだ。

「終わったぞ」
「やっぱりすごい早いねぇ。誰かトウノ君ほどの実力じゃなくても編纂士になってくれないものか……」
「《編纂》じゃなくて《編修》でも、この作業程度なら楽になると思うが」

 《編修》の詳細な出来ること、出来ないことが分からないが言葉の印象としては資料作成くらいなら十分そうなイメージだ。

「そうだねぇ、少し考えてみるよ。あ、遅くなってしまったけど、久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
「ああ、ギルは……もう少し休んだ方が良いな」
「あはは、ごもっとも」

 ギルのこの様子を見ていると何処かの叔父さんを思い出すな……。

「そういえば、ドゥトワの商業ギルドのギルドマスターとは兄弟だったんだな?」
「ふふふ、実はそうだったんだ。驚いたかい?」
「ああ。でも言われてみれば似てるなとも思った。それよりもジェフの《錬金術》の方が驚かされたな。……色んな意味で」
「ああ……兄は腕は良いんだけど、センスが独特でねぇ」

 ギルが遠い目をする。おそらく僕も今同じ表情をしているのではないだろうか。インベントリに入っている『ペリカンくん』と『ペリカンくん2号』が脳裏に過ぎる。


「そういえば、門番から気になる報告が届いていたけど、それは執務室の方で聞こうか?」
「……分かった」

 どうやら門番から一報が入っていたらしいギルが、僕の首元に目をやりながらそう言った。


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バラムの借りについては「43:陣中見舞い ※大剣使い視点」にて。
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