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本編

112:再びのユヌ

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 どうやってダンジョンを作ったのかはこの際目を瞑り、どうして作ろうなどと思ったのかだが……。

「そうか……じゃあ何で異人達を呼び込みたいんだ?」
『主殿以外の異人達を時折眺めてみるのも面白そうだと言うのと、ダンジョンを訪れる者が増えれば経験値が我に入るのでな。これでさらに力を取り戻して封印前の状態に近づけるという寸法なのだ!』
「な、なるほど……」

 聞いている感じはたまにライトノベルで読むダンジョン経営モノのようなシステムなのだろうか? まぁ、これに関してはシルヴァの領分なので僕は関係無さそうか。

『撒き餌としてたまに主殿に生産を依頼するかもしれないからのぅ、その時はよろしく頼むである』
「……まぁ、それくらいなら」

 少し関係を持ってしまいそうだ。

『ここは主殿以外の異人にはあまり知られていないようであるからな、これから精力的に呼び込んでいかねばなるまい!』

 そう言うと黒馬姿のシルヴァはボフンと鼻息を荒くする。

 そういえば、今もこの前に来た時もここでは他のプレイヤーと全く遭遇しない。……引きこもり生活が長くなっていて忘れていたが、ここも住民から教えてもらわないと来れないエリアなのだろうか? 
 確か最初にここを訪れた時はバラムの案内だったと思うので、そんな気がする。

「おい、終わったんならさっさと町へ行くぞ」
『待たせてしまったであるな』
「ブルル」
「む」

 後ろから温かい大きな息が吹きけられる。振り向くとアンバーがいた。

「待たせて悪かった。今日もよろしく頼む」
「ヒヒン」

 アンバーの鼻梁をひと撫でして、最近の乗馬で大分慣れてきた動作で《騎乗》する。そして《認識阻害》の効果が発動するようにマントのフードを被った。

 隣を見ると、バラムもシルヴァに乗るところだった。……背が高いとはいえ、こんな大きい馬によくひらりと乗れるな、と感心する。

 体格の良いバラムととても逞しい黒馬のシルヴァの佇まいはかなりの迫力だ。まるでどこかの名のある武将と名馬みたいだな。

 などと取り留めもないことをぼんやり考えていると、バラムがこちらを振り返る。

「後について来い」
「ああ」

 ユヌからドゥトワへ向かった時と同じように、先導するバラムの後を追うようにアンバーを進める。同じように、とは言ってもシルヴァがいたり色々技能が成長していたり増えたり、転生条件とやらを満たしたり……と色々あの時から変わった事もあるが。


 ユヌ東の平原を駆け足程度の緩やかな速度で進んでいく。天気は曇りではあるが、雨が降るほどでは無さそうだし、ユヌの方に行けば天気が大きく崩れることは無いだろう。

『前回はPK……異人殺しと遭遇したが、もうこの辺りにはいないのだろうか』
『西の丘の方でこの世界に来たばかりらしい異人を標的にしてるか、港町の方に出るらしい』
『この辺にいた同胞を襲っていた奴らは萌芽祭の折に蹴散らしてやったである。最近はとんと見なくなったであるが』
『そ、そうか……』

 バラムはギルド等でしっかり最新の情報を仕入れたものなのだろう。シルヴァの証言と突き合わせると、シルヴァに襲われ続けたPKが他の場所へ散っていったようだ。

 まぁ、道中の安全度が上がったのは良い事か。

『寄れそうな欠け月には寄って行くから解放しておけ』
『む、それは助かる』

 前回のルートだと廃寺院の欠け月の写ししか解放出来なかったから今回も解放出来ないかもと薄ら思っていたが、そうならないように考えてくれていたようだ。ありがたい。

 道中、バラムだけでも魔物がほとんど寄りつかないのに、シルヴァもいることで魔物が出てくる気配が一切無かった。平和なものである。

 なのでとくに問題無くユヌの南と北にある欠け月の写しを転移先として、無事に解放することが出来た。
 その際に初心者っぽいプレイヤーと遭遇したりしたが、マントの《認識阻害》が効いているのか、バラムとシルヴァコンビがとても目立つからか、プレイヤー達の目がバラム達に向いている間にさくっと解放することが出来た。


 そうして、ユヌの北門が見えるところまで来たところで────。


「『!』」

 バラムとシルヴァの警戒度が一気に上がる。……《勘破》の範囲内におかしな存在はいなさそうだが、2人の感知範囲では何か察するものがあったのだろうか。突然のダンジョンでも痛感したが、やはり僕はフィールドなどに出るのは向いていなさそうだ。

「……チッ」
『この気配は……我が行った方が良いであるな。お主は主殿を連れて町へ行くのだ』

 ということで、シルヴァが何者かの元へ、僕とバラムはこのままユヌへ入ることとなった。

『ついでに異人達へ我のダンジョンを宣伝して来るかのぅ』

 殺気立ったバラムと対照的にシルヴァは呑気な風だ。相手にとくに問題は無いのだろうか。……まぁ、シルヴァなら問題無さそうか。

『では主殿、不届者を軽く締めつつ異人達に我がダンジョンを宣伝をしてから合流するである』
「分かった、気をつけて。……シルヴァだけで町に入れるのか?」
『ククク、造作も無い事よ』
「……町の人に迷惑がかからないようにして欲しいが……」
『分かっているである。ではのー!』

 そう言うと、黒馬から鷲へと姿を変えて何処かへ飛び立つ。乗ったままだったバラムは適当に飛び退いて着地していた。……いや、バラムの扱い。

「さっさと町に入るぞ」
「ああ。僕も降りるか?」
「いや、乗ったままでいろ」

 ということでバラムは徒歩、僕は騎乗した状態で目と鼻の先にある北門へと向かう。

 すると、北門にいた門番が胡乱げな目でバラムを見ていた。

「何だよ」
「『何だよ』じゃねぇよ。お前が乗ってる馬が突然鷲になったんだぞ」
「……そういうこともあるだろ」
「ねぇよ!」

 ……この距離だ、当然目撃されているか。騒ぎになっていないのは、長くユヌで活動していたバラムに対する信頼からなのか。というかバラム、それで通すのは中々無理があると思う。

「……つーかアレって、最近ここらで目撃情報がある黒い鷲か……?」
「……まぁ、適当なギルド幹部に報告はしておく」
「頼むぜ、ホント……。で、そっちは?」

 門番が僕の方へと水を向ける。バラムの方を見ると頷いたので、フードを取ってマントの《認識阻害》効果を切る。

「おお、救世主殿か! まぁ、鉄銹と行動してんならそりゃそうか。さ、入ってくれ」
「……ああ」

 久しぶりに『救世主』と言われて面食らうが、気を取り直して町へと入る。門をくぐると、アンバーの名前を教えてくれた人がいたので、アンバーを彼に預ける。

 門番との会話からしてだが、ユヌ独特の暖かな空気に何となく安心感が湧いてくる。

「それほど長いことは離れて無かったのに、何だか懐かしい気がするな」
「そうか?」
「ああ」

 ドゥトワでは町の雰囲気を感じれるような場所にほとんど出ていなかったからというのもあるかもしれないが。
 ……うーん、普通のプレイヤーならアークトゥリアの石像で町から町に簡単に転移出来るので、こう感じる僕が特殊なのだろうか? ……まぁ、今更か。

 それはさておき。

「それで、まずは何処に行くんだ?」
「宿に行く」
「ギルドにも寄れよー!」

 少し遠くで門番が叫ぶ。

「チッ。宿に行ってから職業ギルドに行くぞ」
「分かった」

 ということで、バラムの後について少し久しぶりのユヌの町を進んでいく。僕とバラムの間での『宿』と言えばもちろん────。


「おやまぁ! 久しぶりだねぇ、元気にしてたかい?」


 宿屋の女将ローザが、僕達を見るなり快活に出迎えてくれた。

「さぁ、適当に座っとくれ」

 ローザに促されて、いつもバラムが座っていたあたりの席に座る。

「トウノ、顔色は良いようだけど向こうでもしっかり食べてたかい?」
「ああ。向こうでも美味しい食事処はあったが、ここの食事は常に恋しかった」
「あらまぁ! 相変わらずおだてるのが上手いねぇ! どうする、軽食でも食べていくかい?」
「頼む」

 しばらくすると、ホットミルクと蜂蜜がたっぷりとかかった焼きたてのパンケーキが出て来た。……バラムの方はパンケーキが何段も重なっているが……軽食……? いや、普段の食べっぷりからして問題無いのは分かるが。

 そんな事を考えている間にもバラムはパンケーキに手をつけ始め、もう1枚目が消えている。早い。

 ……まぁ、そうだな。


「美味しそうだ、いただきます」


 僕も久しぶりの宿屋の食事を楽しむとしよう。
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