上 下
111 / 186
本編

110:色々している内にイベント終了

しおりを挟む
 その後、転生する為に再び遺跡に行く事は決定したが、僕は遺跡付近の転移ポイントを解放していない為、普通に移動する他無い。

 なので、まずは移動中のリスクを減らす為にもあと数日残っているイベントの終了を待つこととなった。

 ……と、言われると結構時間があるので何をしようかということで、バラムとシルヴァ立ち会いの元、図書館で借りた本の安全チェックをしたり、ユニコーンの素材の確認などをしたりした。

 まずはダンジョンの入り口となっている『一角獣達の棲む泉』を取り出す。正直、僕には何も分からなかったのだが、シルヴァの解説によると出した瞬間は反抗的だったようなのだが、バラムとシルヴァが威圧して黙らせた……らしい。

 とはいえ、恐る恐る本を開くと……普通に読めた。挿絵やページの所々に施された装飾がとても美しく、諸々のいざこざが無ければ素直に楽しめたかもしれない。しっかり読むのは後にするにしても、流し読みしたところは一角獣という幻の精獣の寓話のような内容だった。……清らかな者を好むだとか、愛し子を選ぶ役目云々という記載もあってとても微妙な気持ちになる。

 僕が清らか……かは疑問だが、あれが好ましく思う者にする仕打ちか?とは思う。……まぁ、種族による思想や文化の違い、と思ってこの件はもう忘れよう。

 そして、ページの最後の方にあった一角獣の挿絵だが……角が折れてボロボロだった。これまでの挿絵の美しさからして、一角獣をこんな風に描くとは思えない。ということは、これはバラム達との戦いの結果が反映されてしまっているのだろうか。

『ククッ、この様子ではもう主殿に手出しはしないであろう』

 と、シルヴァのお墨付きも貰ったので、後でさくっと読んでさくっと返却してしまおう。

 他の本も確認していくと、ダンジョンの入り口となってる物は無いようだったが、少し反抗的?な本をバラム達が威圧していた。……バラムとシルヴァが恫喝しているように見えるのは気のせいだろうか?

 これで借りた分の本は安心して読めそうだ。バラムは渋っていたが、図書館で借りる新たな本については、盟友の証を通じてシルヴァが問題のある本と無い本を教えてくれるというので、何とか借りる事を禁止される事は避けられた。

 ……シルヴァには後で秘技を使った飴玉を少し多めに渡そう。

 次に一角獣の素材だが、明らかに現状のプレイヤーが入手することを想定されていなさそうな高スペックな素材ばかりだった。とっておいてバラムやシルヴァの装備に使った方が良いのでは?と思っていたのだが、どちらも一角獣の気配が強いものは身につけたくないという構えだった。

 勿体無いのでは……と思いつつも1人と1頭の要望なので秘技を色々と駆使して、一角獣素材を元に僕の力が多く付与された謎の素材が生まれた。

 具体的には〈汚れを濯ぐ〉でバラム達と相性が悪い要素諸々をリセットして〈我が力を与えん〉で僕の力を付与する、というのを机に素材を並べて《揺籃編纂士トウノの旋律》で浴びせ続けるという荒技な工程となっている。

 そうしている内に《古ルートムンド語》と《編纂》による秘技、《揺籃編纂士トウノの旋律》に興味を持ったシルヴァに色々試させられたりした。

 その結果、いくつかの装備や素材に変化があった。

 まず《編纂》で僕のマントに霧惑のダチュラの認識阻害の効果を付与した物が出来た。フードを頭まで被れば効果が発動し、フードを下ろすと効果が解除されるという中々使い勝手の良さそうな切り替え機能まである。

 また、効果を一つ切り離したからか、霧惑のダチュラの花の形が崩れ粉末状になってしまった。余った《幻覚》《魅了》効果はその粉の方に残っている。…………より『ダメ、絶対。』感が増してしまった。
 倫理的に問題無い使い方の方があまり思い浮かばないが、引き続き粉の方はインベントリ封印である。

 次に、一角獣素材を僕の力で染め直した時の要領で魔石に僕の力を込めてみたところ『碧錆玉』という全体的に深い碧色の石に錆色の斑点が所々に入った石が出来た。……錆……心当たりは色々無くもないのが……まぁ、いいか。

 これをシルヴァが大興奮で石を噛み砕いて食べ始めたのには、珍しくバラムも少し引いていた。僕も驚いた。

 ただ、バラムも匂いを嗅いだ後は欲しがったので作って渡したが……流石に石を食べたりはしないよな?

 これについてはあまりにも僕の力と気配が濃すぎるということで、売りには出さないこととなった。

 とまぁ、シルヴァによる僕の技能実験の成果はこんなところだ。


 それなりに時間が出来たので、最近進められていなかった《古ルートムンド語》の入門書作りの続きをする。

 合間に書き進めてはいたので、大枠はほとんど完成していると思うのだが……いかんせん僕も《古ルートムンド語》の全てを知れているわけでは無い。なので、本当にこれで良いのか最後の詰めに少し不安が残る状態だ。

『主殿、それは何をしておるのだ?』
「ん? ああ、《古ルートムンド語》を習得する為の入門書を作ってみている」
『ほほう! 主殿は面白い事を考えるであるなぁ!』

 そうして頭を捻っていると、シルヴァが僕の手元を覗き込んで興味を示した。

『主殿、こことここはこう表現した方が良いである』

 シルヴァがそう言うと、宙に黒い文字を浮かび上がらせる。

「……この言葉が分かるのか?」
『ふふん“我ら”の神聖な言葉であるからな、当然である』
「そ、そうなのか……」

 ということで、シルヴァの推敲により《古ルートムンド語》の入門書もあっさり完成してしまった。


 そして、これを誰の為に作っていたのかと言えば────。


「バラム、《古ルートムンド語》の入門書を作ってみたから、その、良ければ習得に役立ててくれ」
「! ……ああ、これですぐ習得してみせる」

 バラムが入門書を大事そうに撫でるのを見て、不思議な満足感が胸を満たす。……誰かの為を思って贈った物を喜んでもらうのは、贈る側も嬉しいものなのだと知った。

 ……ただ、その後入門書の僕の匂いがかなり強いようで、つい嗅いでしまいバラムの気が散るという問題が発生してしまったが。




 その後、ジェフに萌芽祭が落ち着いたら一度ユヌに戻ることを連絡した。すると、その日の内にジェフが家を訪ねて来た。行動が早い。

 戻っている間の生産物の納品や借家の事を相談したところ、借家の方は資金に余裕があるならそのまま借りていた方が色々便宜を図りやすいとのことだった。
 資金は出資をしても貯まる一方なので、助言通りにこのまま借り続けることにする。

 そして生産物の方だが、ユヌに戻っている間は納品が滞るので販売は売り切れ次第中止だろうか、と考えていると……。

「異人のアイテム保管の能力でゴーレムをお持ちになればよろしいのでは?」
「…………」

 確かに。ゴーレムはインベントリに入れられる……か? その場で試してみたところ、魔石を取り外した状態なら問題無くインベントリに入れることが出来た。ブロンズ製ということを忘れてしまうくらいに生物のような動きをするので、道具扱いであることをすっかり忘れていた。

 ということで、ゴーレムを持ち運べばいつでも何処でも納品出来る……出来てしまうことが判明した。

 また、ずっと気になっていたペリカンくん2号の頭上にいるオウムの声のボリュームについてやっとジェフに相談する事も出来た。

 何故か少し残念そうな顔をして声のボリュームを半分くらい抑える調整をしてくれた。これで僕達に平穏が訪れた。アイテムが届く度に驚かされて中々ストレスだったからな……。


 そんなこんなでユヌへ向かう準備もそれなりに整った後は、家と図書館の往復に、時々現れる彷徨う霊魂の昇華……たまに『ドブネズミの洞穴』に食事に行ったり、夜にはアンバーに会いに行ったりというような中々充実した日々を送った。

 ちなみに『ドブネズミの洞穴』に行く時にはシルヴァも同行したのだが、謎のこだわりでブラウンラットに変化していた。ただ、色は変えられないようで真っ黒だったが。

 ちゃんと店前のブラウンラットの入店許可も貰い、僕達と同じ食事を摂っていた。小さいネズミの体の何処に消えているのだろう?




 そうして過ごしている内に、僕にとってはあまりイベント感の無かったワールドイベント『四原精の萌芽祭』は終了した。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...