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本編
109:ある意味、爆弾(夢)魔
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シルヴァに飴玉を作って渡している内にウィスパーも使えるようになったようだが、元々脳内に響かせるように声を聞かせる形だったので、違いがよく分からなかった。
ただ、新たな発見としては、僕の盟友同士でも何らかの繋がりが生まれるらしく、バラムとシルヴァ間でもウィスパーで連絡がとり合えるようだ。
『我も似たような事は出来るが、魔力も何も消費せずに転移出来るのは便利であるな!』
何故かあっという間に絆レベルが上がって欠け月の写しで転移が出来るところまで解放されていた。……何故に?
『では狩りがてら、各地の欠け月の写しを巡って来るである』
「……」
早速転移ポイントを解放しに行くらしい。……新しい物好きということだったが、シルヴァも随分と順応力が高い……。
「おい、早速こいつの傍を離れるのかよ」
『ククッ、案ずるでない。主殿が身につけている盟友の証が我が半身として常に主殿と共に在り、何処にいても主殿の状況を共有出来ておるし、証を目印に転移する事も出来るから心配無用である』
「…………ああ?」
「そんなことまで出来るのか……」
『ふふん、伊達に永く生きておらんのよ』
そう言って得意気に鼻を鳴らす。こんな調子であるが、僕達ではどうやっているのかすら分からない能力を色々と持っているようで、実力の差というのが推し量れた。
…………僕がたまたま封印を解けてしまっただけで、まだまだ先に出会うキャラクターだった疑惑があるかもしれない。
『それではちょっと出てくるである。夜狗の小僧もしっかりのぅ』
「……うるせぇ」
「まぁ一応、気をつけて」
『うむ。ではのー!』
シルヴァは家の勝手口から庭へ出ていき、夜の闇へと消えて行った。
さっきまで賑やかだった室内が静寂に包まれる。
「……嵐のようだったな」
「……チッ」
日暮れ時に突如ダンジョンに引き込まれてからゲーム内時間でも実はそれほど経っていないが、起こった事の密度が濃過ぎてドッと疲れが押し寄せてくる。
「はぁ……少し疲れたな……」
……これはバッドステータスの《倦怠感》というより、現実の僕の疲労な気がする。これは一旦ログアウトして休んだ方が良いかもしれないな。
「……ああ」
「うん?」
気怠げな吐息が聞こえた方を見ると、珍しくバラムも少し疲れた顔をしていた。…………そう言えば『強壮活性』か『狂騒活性』の飴玉を使っていたと思うので効果終了後の反動かもしれない。
「飴玉のバッドステータスか?」
「まぁな……」
「そうか、じゃあ休もう。僕も少し疲れたから『異人の眠り』をしたい」
「……」
「……うん?」
僕が休息とログアウトを伝えると、バラムが何処か不満そうな顔をする。……何か気に障る事でもあっただろうか。
「……まぁ、仕方ねぇか。じゃあ、部屋に行くぞ」
「あ、ああ」
そうしてお互い何処か気怠げな空気の中、部屋へと戻る……が、流れるようにバラムの部屋に誘導されて一つのベッドに一緒に入る。
「ふぅ……」
全身をバラムの高い体温に包まれて、やっと体から余計な力が抜ける。
……そして、一角獣の容赦の無い威圧や纏わりつくような不快な匂い、僕を貫こうと迫って来た角の光景がフラッシュバックして胸が騒ついた。
気づけば、目の前の大きな体に腕を回して縋っていた。
「どうした?」
「………………ちょっと……先ほどの恐怖を思い出してしまって…………助けに来てくれて、ありがとう……」
「……ああ、無事で良かった……。腹立たしいが、あの山羊にも助けられた」
バラムからも優しく腕が回されて、抱き締められる。それだけで恐怖や不安が解けていく。……と同時に、バラムにも僕と似たような感情があるのを感じる。恐怖や不安を。
……僕でも少しは慰められるだろうか……と、手を伸ばして頭に置いてみる。
一瞬固まったが、すぐに僕の手の方に頭が押し付けられた。撫でろという意図と受け取ってそっと撫でる。
「……んぅ」
バラムの方は僕の頭に、瞼に、頬に、唇にと顔中に口づけを落とす。……多分、僕を慰めようとしてくれている、んだと思う。温もりだけでなく、その行為から伝わってくる労りに、胸が温かく明るくなって、いつの間にか恐怖や不安は跡形も無く消えていた。
……バラムも、僕と同じように感じていたら良い……と思いながら、しばらくお互いに触れ合ってからログアウトした。
*
やはり少し疲れていたのか、珍しく強制入眠外での眠り……所謂昼寝をして少し遅れてログインする事となった。
ゲーム内時間では昼過ぎというところだ。
部屋には僕だけだったが《勘破》によると、敷地内にはバラムと、シルヴァも戻って来ているようだった。……バラムを示すマーカーがすごい速さでこちらに来る。
「起きたか」
「ああ、向こうで昼寝してしまった」
「お前が休めたなら良い」
手が伸びてきて、頬に当てられる。
「ん……バラムは?」
「俺も全快だ」
互いに調子を確かめ、問題無さそうだったので、まずはログインした時のルーティンをこなそうと1階へ降りる。1階には、普通の山羊サイズになったシルヴァがいた。
何やら僕の周りを回って検分していたかと思うと……。
『ふんふん、主殿はこれ以上無いほどよく満ちているであるな! 妙な横槍が入る前にさっさと転生してしまった方が良いのではないか?』
「「……」」
また唐突に爆弾情報を投げてくる……。バラムが憮然とした顔をしているが、僕も似たような表情をしているかもしれない。
「転生……したくても“出来る”ということしか、現状分からないんだ」
『そうなのであるか? 主殿なら西の儀式場で適当に転生を願えば行えると思うぞ?』
「「…………」」
西の……“儀式場”……聞き覚えは無い。無いが……心当たりは大分ある気がする。
「西については大分資料を読んだが、『儀式場』として伝わっている場所は無いと思う……もう少し詳しく教えてもらえるだろうか」
『ふぅむ? やはり、永い時の中で意味が失われてしまったであるか? ここより西に小さな町があったであろう。そこからさらに南西の森を抜けた奥にあるのが儀式場よ』
「「………………」」
……はい。地理的にはどう考えてもユヌ南西の遺跡だ。
「ま、まぁ、その地理関係で言えば心当たりのある場所はある。ただ、少し前に狂った魔物が溢れて崩れてしまったんだが……そこで転生が出来るのか?」
『おお、今もしっかり存在しているであるか。土地が無事なら建造物などただの飾りよ。そこで転生が出来るはずである』
「……狂った魔物が出てしまっているが、それでも?」
『うむ。むしろ正常に機能していると思うである』
……確かに、あそこにあった石碑の内容的に、狂った魔物が溢れるのは石碑が作られた時の既定路線ではあっただろうと推測出来る。ならば、あそこに備わっているその他の機能も未だ失われていない、とも考えられるか?
「そうか……ところで『適当に転生を願う』とは?」
『条件さえ満たしていれば、己の望む在り様を思い描きながら転生を願えば大抵それっぽいものになれるである』
「……なんか、アバウトだな……」
まぁ、思い描いたものに自動に近付けてくれるなら良いのか? 何かに似てると思ったらこのゲーム始める時にビルドをサポートAIに任せた時に似ている、のかもしれない。
しかし、思いがけず転生の目処が立ってしまったな。
「……こいつが転生すれば、狙われなくなるか?」
『うむ。一応、主殿が望む姿次第ではあるが』
「そうか。……トウノ、どうしたい」
バラムが僕を真っ直ぐ見つめて問うてくる。そうだな……僕、僕は……。
「転生、しよう。昨日のダンジョン騒動で改めて僕は戦いの場に向いてないと痛感したしな。その為にも狙われづらくなるというのならば、しない手は無い」
「そうか」
「それに、このままだと読書もままならなくなりそうだしな」
冗談めかす為に、少し大袈裟に肩を竦めて言う。本の中身がダンジョン化していたり、意志を持っている物があると分かったのだ。これでは安心して読書も出来ない。それはとても困る。
「は、ついでのように言ってるがそっちが本音だろ」
「む」
僅かに表情を緩めたバラムに頬を抓られる。
が、痛みは無かった。
ただ、新たな発見としては、僕の盟友同士でも何らかの繋がりが生まれるらしく、バラムとシルヴァ間でもウィスパーで連絡がとり合えるようだ。
『我も似たような事は出来るが、魔力も何も消費せずに転移出来るのは便利であるな!』
何故かあっという間に絆レベルが上がって欠け月の写しで転移が出来るところまで解放されていた。……何故に?
『では狩りがてら、各地の欠け月の写しを巡って来るである』
「……」
早速転移ポイントを解放しに行くらしい。……新しい物好きということだったが、シルヴァも随分と順応力が高い……。
「おい、早速こいつの傍を離れるのかよ」
『ククッ、案ずるでない。主殿が身につけている盟友の証が我が半身として常に主殿と共に在り、何処にいても主殿の状況を共有出来ておるし、証を目印に転移する事も出来るから心配無用である』
「…………ああ?」
「そんなことまで出来るのか……」
『ふふん、伊達に永く生きておらんのよ』
そう言って得意気に鼻を鳴らす。こんな調子であるが、僕達ではどうやっているのかすら分からない能力を色々と持っているようで、実力の差というのが推し量れた。
…………僕がたまたま封印を解けてしまっただけで、まだまだ先に出会うキャラクターだった疑惑があるかもしれない。
『それではちょっと出てくるである。夜狗の小僧もしっかりのぅ』
「……うるせぇ」
「まぁ一応、気をつけて」
『うむ。ではのー!』
シルヴァは家の勝手口から庭へ出ていき、夜の闇へと消えて行った。
さっきまで賑やかだった室内が静寂に包まれる。
「……嵐のようだったな」
「……チッ」
日暮れ時に突如ダンジョンに引き込まれてからゲーム内時間でも実はそれほど経っていないが、起こった事の密度が濃過ぎてドッと疲れが押し寄せてくる。
「はぁ……少し疲れたな……」
……これはバッドステータスの《倦怠感》というより、現実の僕の疲労な気がする。これは一旦ログアウトして休んだ方が良いかもしれないな。
「……ああ」
「うん?」
気怠げな吐息が聞こえた方を見ると、珍しくバラムも少し疲れた顔をしていた。…………そう言えば『強壮活性』か『狂騒活性』の飴玉を使っていたと思うので効果終了後の反動かもしれない。
「飴玉のバッドステータスか?」
「まぁな……」
「そうか、じゃあ休もう。僕も少し疲れたから『異人の眠り』をしたい」
「……」
「……うん?」
僕が休息とログアウトを伝えると、バラムが何処か不満そうな顔をする。……何か気に障る事でもあっただろうか。
「……まぁ、仕方ねぇか。じゃあ、部屋に行くぞ」
「あ、ああ」
そうしてお互い何処か気怠げな空気の中、部屋へと戻る……が、流れるようにバラムの部屋に誘導されて一つのベッドに一緒に入る。
「ふぅ……」
全身をバラムの高い体温に包まれて、やっと体から余計な力が抜ける。
……そして、一角獣の容赦の無い威圧や纏わりつくような不快な匂い、僕を貫こうと迫って来た角の光景がフラッシュバックして胸が騒ついた。
気づけば、目の前の大きな体に腕を回して縋っていた。
「どうした?」
「………………ちょっと……先ほどの恐怖を思い出してしまって…………助けに来てくれて、ありがとう……」
「……ああ、無事で良かった……。腹立たしいが、あの山羊にも助けられた」
バラムからも優しく腕が回されて、抱き締められる。それだけで恐怖や不安が解けていく。……と同時に、バラムにも僕と似たような感情があるのを感じる。恐怖や不安を。
……僕でも少しは慰められるだろうか……と、手を伸ばして頭に置いてみる。
一瞬固まったが、すぐに僕の手の方に頭が押し付けられた。撫でろという意図と受け取ってそっと撫でる。
「……んぅ」
バラムの方は僕の頭に、瞼に、頬に、唇にと顔中に口づけを落とす。……多分、僕を慰めようとしてくれている、んだと思う。温もりだけでなく、その行為から伝わってくる労りに、胸が温かく明るくなって、いつの間にか恐怖や不安は跡形も無く消えていた。
……バラムも、僕と同じように感じていたら良い……と思いながら、しばらくお互いに触れ合ってからログアウトした。
*
やはり少し疲れていたのか、珍しく強制入眠外での眠り……所謂昼寝をして少し遅れてログインする事となった。
ゲーム内時間では昼過ぎというところだ。
部屋には僕だけだったが《勘破》によると、敷地内にはバラムと、シルヴァも戻って来ているようだった。……バラムを示すマーカーがすごい速さでこちらに来る。
「起きたか」
「ああ、向こうで昼寝してしまった」
「お前が休めたなら良い」
手が伸びてきて、頬に当てられる。
「ん……バラムは?」
「俺も全快だ」
互いに調子を確かめ、問題無さそうだったので、まずはログインした時のルーティンをこなそうと1階へ降りる。1階には、普通の山羊サイズになったシルヴァがいた。
何やら僕の周りを回って検分していたかと思うと……。
『ふんふん、主殿はこれ以上無いほどよく満ちているであるな! 妙な横槍が入る前にさっさと転生してしまった方が良いのではないか?』
「「……」」
また唐突に爆弾情報を投げてくる……。バラムが憮然とした顔をしているが、僕も似たような表情をしているかもしれない。
「転生……したくても“出来る”ということしか、現状分からないんだ」
『そうなのであるか? 主殿なら西の儀式場で適当に転生を願えば行えると思うぞ?』
「「…………」」
西の……“儀式場”……聞き覚えは無い。無いが……心当たりは大分ある気がする。
「西については大分資料を読んだが、『儀式場』として伝わっている場所は無いと思う……もう少し詳しく教えてもらえるだろうか」
『ふぅむ? やはり、永い時の中で意味が失われてしまったであるか? ここより西に小さな町があったであろう。そこからさらに南西の森を抜けた奥にあるのが儀式場よ』
「「………………」」
……はい。地理的にはどう考えてもユヌ南西の遺跡だ。
「ま、まぁ、その地理関係で言えば心当たりのある場所はある。ただ、少し前に狂った魔物が溢れて崩れてしまったんだが……そこで転生が出来るのか?」
『おお、今もしっかり存在しているであるか。土地が無事なら建造物などただの飾りよ。そこで転生が出来るはずである』
「……狂った魔物が出てしまっているが、それでも?」
『うむ。むしろ正常に機能していると思うである』
……確かに、あそこにあった石碑の内容的に、狂った魔物が溢れるのは石碑が作られた時の既定路線ではあっただろうと推測出来る。ならば、あそこに備わっているその他の機能も未だ失われていない、とも考えられるか?
「そうか……ところで『適当に転生を願う』とは?」
『条件さえ満たしていれば、己の望む在り様を思い描きながら転生を願えば大抵それっぽいものになれるである』
「……なんか、アバウトだな……」
まぁ、思い描いたものに自動に近付けてくれるなら良いのか? 何かに似てると思ったらこのゲーム始める時にビルドをサポートAIに任せた時に似ている、のかもしれない。
しかし、思いがけず転生の目処が立ってしまったな。
「……こいつが転生すれば、狙われなくなるか?」
『うむ。一応、主殿が望む姿次第ではあるが』
「そうか。……トウノ、どうしたい」
バラムが僕を真っ直ぐ見つめて問うてくる。そうだな……僕、僕は……。
「転生、しよう。昨日のダンジョン騒動で改めて僕は戦いの場に向いてないと痛感したしな。その為にも狙われづらくなるというのならば、しない手は無い」
「そうか」
「それに、このままだと読書もままならなくなりそうだしな」
冗談めかす為に、少し大袈裟に肩を竦めて言う。本の中身がダンジョン化していたり、意志を持っている物があると分かったのだ。これでは安心して読書も出来ない。それはとても困る。
「は、ついでのように言ってるがそっちが本音だろ」
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