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本編
85:イベント開始と出資
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それからはまた図書館と家を往復したり、合間にバラム用の《古ルートムンド語》入門書の構成を練ったりしている内に、システムメンテナンスがはいり、ワールドイベントが始まった。
「パッチノート……パッチノート……これか。…………一部技能の不具合修正……あー……」
メンテナンス後のアップデート情報を確認してみると、『一部技能のライブ配信などの回線を辿って干渉する不具合を修正』とあった。これは、防衛戦で配信画面越しに《解析》と多分《編纂》も出来てしまっていたことが運営からすると不具合にあたったらしい。
……まぁ、プレイヤーがゲームの回線に干渉出来るなんて正しい挙動とは思えないので、これはむしろ修正してもらえてとても安心する。ただ《感知》……今は《勘破》だが、この技能で認識出来る対象に《解析》や《編纂》を行えることについては何の修正も入っていないようだった。……自分で言うのもなんだが、《解析》はともかく《編纂》はもっと色々と下方修正してくれた方がより安心出来るんだが……。
そして右手の指輪が「……チッ」と悪態をついている気がするのは気のせいだと思いたい。考えすぎかもしれないが、配信回線に干渉出来ていたのは僕の技能というより指輪の何らかの能力だったのだろうか……? ……まぁ、もう出来ないようなので良しとしよう。
他にも、インベントリを持つ者同士限定でインベントリから物を取り出さなくてもUI操作でインベントリ内の物の受け渡しや交換が出来るようになったようだ。
“インベントリを持つ者同士”ということなので、多分バラムも使えるんじゃないかと思う。
うん、地味だがプレイが快適になる良いアップデートなのでは無いだろうか。
一応、指輪が反応を示したので、その内容とインベントリ内部から物の受け渡しが出来るようになったことをバラムに伝えた。
早速インベントリ間の交換を試してみて「便利だな」という感想と共にバラム用の飴玉素材が大量に送られてきた。……相変わらず適応能力が高い。
指輪の反応については「は、ざまぁねぇな」と指輪に対して煽るような態度をとって上機嫌になっていた。もうバラムと指輪はすっかり犬猿の仲感がある。
そして、ワールドイベントも始まってはいるが、僕の行動や周辺への変化はとくに無い。
一応図書館の方はフィールド扱いではあるので何か変化があるかとも思ったが、今のところはイベント開始前からとくに変化は無さそうだった。
念の為、掲示板や攻略サイトを流し見してみたところ、フィールドではイベントエネミーが発生し、倒せばイベントアイテムをドロップするし、町での生産作業でも時折イベントアイテムが出てきたり、イベントに関連していると思われるクエストも各地で発生しているらしい。
また、“エレメント”という存在もちらほら姿を現しているようで、手のひらよりも小さくぼんやりとした人型にトンボのような羽が生えていて、まさに“フェアリー”や“妖精”といった見た目らしい。
妖精……かぁ。指輪や黒山羊のことが無ければ僕もエレメントを妖精と混同していたと思うが、“妖精”と名のつく存在を知っている以上、エレメントがどんなに妖精らしいイメージだとしても、この世界では両者は異なる種として厳密に分かれていそうな気がしてならない。
実際、エレメントに聞こえる位置で“妖精”と口にすると、怒ってイベントアイテムを持ち去られたり、イベントエネミーをけしかけられたりするようだ。
ただ、妖精と言っても“古き妖精”と“妖精”が同一と呼べるのかという問題もあるが、今は確かめる術が無いので置いておくことにする。
それはさておき。
四属性のエレメントに関するイベントということで、今まであまり入手手段や強化手段が乏しかった属性武具やアイテムを手に入れられそうとのことで大変賑わっているようだ。これについては僕にはあまり関係の無い話だろうが。
イベントが始まって一番の変化と言えば、商業ギルドから鎮め札と強壮の飴玉、強壮活性の飴玉の納品依頼の量と頻度がかなり上がったことだろうか。
あまりに納品依頼が多かったので、納品物にどうして納品量が増えているのかを聞く手紙を同封してみると、イベントが始まったあたりから僕の生産アイテムの売れ行きがさらに上昇している為、とのことだった。現在の口座状況も教えてもらったが、思っていた5倍くらいの金額が入っていてとても驚いた。ジェフの言った通り、このまま行けば借家を年単位で借りられてしまいそうだ。
僕の現在のプレイスタイルだとこれから支出が増えることはあまり無さそうなので、資金の使い道について相談すると、何故かジェフが直接家に訪ねて来た。
「トウノさんのお悩みですが、気に入った店や職人に出資をしてみるというのはどうでしょう?」
「なるほど……異人でも出来るのか?」
「もちろんです! それに、出資なら後々トウノさんにも金銭ではない恩恵があるかもしれませんしねぇ」
「ふぅむ……ドゥトワ以外の町の店にも出資出来るのか?」
「全てとは言えませんが、ギルドがある町ならある程度は可能ですねぇ」
「それなら……」
ということでユヌのローザの宿屋とハイモの道具屋、行ったことは無いがバラムがくれたマントを作っているベイヴィルの仕立て屋と、ドゥトワではドブネズミの洞穴に出資することにした。意外と数が多くなったので貯めておく分も確保しておくことを考えると控えめな額になった。
「良い店をご存知ですねぇ。こちら確かに承りました」
元々想定していたのか、出資申請書が何処からともなく出て来てあっという間に申請完了してしまった。仕事が早い。
ちなみに、図書館への出資もしたかったのだが、あそこはギルドは管轄外とのことだった。ただ、金銭ではなく資料や本を寄贈すると良いだろうと教えてくれた。今度行った時に今まで作った資料を寄贈してみよう。もうギルドの写本を入手していていらないかもしれないが、その時はその時だ。
「まぁ、どちらかと言えばトウノさんも出資される側なんですけどねぇ」
「そうなのか?」
「ええ。品目は少ないですが、どれも飛ぶように売れているので、出資して繋ぎをとりたいと考える者がかなり出て来ていますねぇ」
「……こっちの住民から?」
「ええ、異人で出資するほどに懐の余裕がある方はまだ少ないようですし。ああ、ちゃんと邪な考えの者は弾いているのでご安心を」
「あ、ああ。手間をかける」
「いえいえ、我々も随分得させてもらっていますから」
僕の生産物は原価が安かったり、なんならAP消費くらいで原価ゼロだったりするので出資される必要はほぼ無いんだが……。まぁ、その辺りの加減も事情を把握しているジェフならなんとかしてくれるだろう。
「他に相談事があれば伺いますが、どうですか?」
「うーん、そうだな…………あ、ドゥトワには魔楽器工房はあるのだろうか?」
「魔楽器工房ですか? 東にある王都や北東にある職人の町でないとありませんねぇ。何かご用がおありですか?」
「いや、たまたまそういう工房があると聞いたから機会があれば見てみたい、くらいの好奇心だ」
どうやらプレイヤー的にはまだまだ先の町に魔楽器工房はあるらしい。……僕が行く日がいつになるのやら。そもそも行くことがあるのかどうかもちょっと怪しい気がする。王都も本がたくさんありそうなイメージがあるので、レディ・ブルイヤールの図書館の本を読破したら行けるように頑張ってみても良いかもしれない。
「魔楽器工房はありませんが、以前魔楽器工房にいた職人ならおりますがねぇ……」
「そうなのか?」
「中々奇抜な発想の持ち主で、異端扱いで破門されたのですよ。個人でどうにか足掻いていますが、どうにも燻っていましてねぇ」
「ふぅむ……出資は何かの足しになるだろうか?」
「おや、会ったこともないのに良いのですか」
「ああ。ここで話題に出したのならある程度は見込みがあって善良な人物なんだろう」
「ふふふ、それほど私を信頼いただけているとは光栄ですねぇ。ま、弟の人徳もありそうですが」
「……ノーコメントで」
……まぁ、それも否定はしないが、弟の信頼を得続けているのだから、間接的にジェフ自身の人徳もあることになるはずだ。
「では、私はこんなところでお暇しましょう」
「ああ、相談に乗ってくれて助かった」
「いえいえ、また何か困り事がありましたらなんなりと。トウノさんは大事なお得意様ですからねぇ」
そう言って、人好きのする笑顔を浮かべたジェフはギルドへと戻っていった。
「パッチノート……パッチノート……これか。…………一部技能の不具合修正……あー……」
メンテナンス後のアップデート情報を確認してみると、『一部技能のライブ配信などの回線を辿って干渉する不具合を修正』とあった。これは、防衛戦で配信画面越しに《解析》と多分《編纂》も出来てしまっていたことが運営からすると不具合にあたったらしい。
……まぁ、プレイヤーがゲームの回線に干渉出来るなんて正しい挙動とは思えないので、これはむしろ修正してもらえてとても安心する。ただ《感知》……今は《勘破》だが、この技能で認識出来る対象に《解析》や《編纂》を行えることについては何の修正も入っていないようだった。……自分で言うのもなんだが、《解析》はともかく《編纂》はもっと色々と下方修正してくれた方がより安心出来るんだが……。
そして右手の指輪が「……チッ」と悪態をついている気がするのは気のせいだと思いたい。考えすぎかもしれないが、配信回線に干渉出来ていたのは僕の技能というより指輪の何らかの能力だったのだろうか……? ……まぁ、もう出来ないようなので良しとしよう。
他にも、インベントリを持つ者同士限定でインベントリから物を取り出さなくてもUI操作でインベントリ内の物の受け渡しや交換が出来るようになったようだ。
“インベントリを持つ者同士”ということなので、多分バラムも使えるんじゃないかと思う。
うん、地味だがプレイが快適になる良いアップデートなのでは無いだろうか。
一応、指輪が反応を示したので、その内容とインベントリ内部から物の受け渡しが出来るようになったことをバラムに伝えた。
早速インベントリ間の交換を試してみて「便利だな」という感想と共にバラム用の飴玉素材が大量に送られてきた。……相変わらず適応能力が高い。
指輪の反応については「は、ざまぁねぇな」と指輪に対して煽るような態度をとって上機嫌になっていた。もうバラムと指輪はすっかり犬猿の仲感がある。
そして、ワールドイベントも始まってはいるが、僕の行動や周辺への変化はとくに無い。
一応図書館の方はフィールド扱いではあるので何か変化があるかとも思ったが、今のところはイベント開始前からとくに変化は無さそうだった。
念の為、掲示板や攻略サイトを流し見してみたところ、フィールドではイベントエネミーが発生し、倒せばイベントアイテムをドロップするし、町での生産作業でも時折イベントアイテムが出てきたり、イベントに関連していると思われるクエストも各地で発生しているらしい。
また、“エレメント”という存在もちらほら姿を現しているようで、手のひらよりも小さくぼんやりとした人型にトンボのような羽が生えていて、まさに“フェアリー”や“妖精”といった見た目らしい。
妖精……かぁ。指輪や黒山羊のことが無ければ僕もエレメントを妖精と混同していたと思うが、“妖精”と名のつく存在を知っている以上、エレメントがどんなに妖精らしいイメージだとしても、この世界では両者は異なる種として厳密に分かれていそうな気がしてならない。
実際、エレメントに聞こえる位置で“妖精”と口にすると、怒ってイベントアイテムを持ち去られたり、イベントエネミーをけしかけられたりするようだ。
ただ、妖精と言っても“古き妖精”と“妖精”が同一と呼べるのかという問題もあるが、今は確かめる術が無いので置いておくことにする。
それはさておき。
四属性のエレメントに関するイベントということで、今まであまり入手手段や強化手段が乏しかった属性武具やアイテムを手に入れられそうとのことで大変賑わっているようだ。これについては僕にはあまり関係の無い話だろうが。
イベントが始まって一番の変化と言えば、商業ギルドから鎮め札と強壮の飴玉、強壮活性の飴玉の納品依頼の量と頻度がかなり上がったことだろうか。
あまりに納品依頼が多かったので、納品物にどうして納品量が増えているのかを聞く手紙を同封してみると、イベントが始まったあたりから僕の生産アイテムの売れ行きがさらに上昇している為、とのことだった。現在の口座状況も教えてもらったが、思っていた5倍くらいの金額が入っていてとても驚いた。ジェフの言った通り、このまま行けば借家を年単位で借りられてしまいそうだ。
僕の現在のプレイスタイルだとこれから支出が増えることはあまり無さそうなので、資金の使い道について相談すると、何故かジェフが直接家に訪ねて来た。
「トウノさんのお悩みですが、気に入った店や職人に出資をしてみるというのはどうでしょう?」
「なるほど……異人でも出来るのか?」
「もちろんです! それに、出資なら後々トウノさんにも金銭ではない恩恵があるかもしれませんしねぇ」
「ふぅむ……ドゥトワ以外の町の店にも出資出来るのか?」
「全てとは言えませんが、ギルドがある町ならある程度は可能ですねぇ」
「それなら……」
ということでユヌのローザの宿屋とハイモの道具屋、行ったことは無いがバラムがくれたマントを作っているベイヴィルの仕立て屋と、ドゥトワではドブネズミの洞穴に出資することにした。意外と数が多くなったので貯めておく分も確保しておくことを考えると控えめな額になった。
「良い店をご存知ですねぇ。こちら確かに承りました」
元々想定していたのか、出資申請書が何処からともなく出て来てあっという間に申請完了してしまった。仕事が早い。
ちなみに、図書館への出資もしたかったのだが、あそこはギルドは管轄外とのことだった。ただ、金銭ではなく資料や本を寄贈すると良いだろうと教えてくれた。今度行った時に今まで作った資料を寄贈してみよう。もうギルドの写本を入手していていらないかもしれないが、その時はその時だ。
「まぁ、どちらかと言えばトウノさんも出資される側なんですけどねぇ」
「そうなのか?」
「ええ。品目は少ないですが、どれも飛ぶように売れているので、出資して繋ぎをとりたいと考える者がかなり出て来ていますねぇ」
「……こっちの住民から?」
「ええ、異人で出資するほどに懐の余裕がある方はまだ少ないようですし。ああ、ちゃんと邪な考えの者は弾いているのでご安心を」
「あ、ああ。手間をかける」
「いえいえ、我々も随分得させてもらっていますから」
僕の生産物は原価が安かったり、なんならAP消費くらいで原価ゼロだったりするので出資される必要はほぼ無いんだが……。まぁ、その辺りの加減も事情を把握しているジェフならなんとかしてくれるだろう。
「他に相談事があれば伺いますが、どうですか?」
「うーん、そうだな…………あ、ドゥトワには魔楽器工房はあるのだろうか?」
「魔楽器工房ですか? 東にある王都や北東にある職人の町でないとありませんねぇ。何かご用がおありですか?」
「いや、たまたまそういう工房があると聞いたから機会があれば見てみたい、くらいの好奇心だ」
どうやらプレイヤー的にはまだまだ先の町に魔楽器工房はあるらしい。……僕が行く日がいつになるのやら。そもそも行くことがあるのかどうかもちょっと怪しい気がする。王都も本がたくさんありそうなイメージがあるので、レディ・ブルイヤールの図書館の本を読破したら行けるように頑張ってみても良いかもしれない。
「魔楽器工房はありませんが、以前魔楽器工房にいた職人ならおりますがねぇ……」
「そうなのか?」
「中々奇抜な発想の持ち主で、異端扱いで破門されたのですよ。個人でどうにか足掻いていますが、どうにも燻っていましてねぇ」
「ふぅむ……出資は何かの足しになるだろうか?」
「おや、会ったこともないのに良いのですか」
「ああ。ここで話題に出したのならある程度は見込みがあって善良な人物なんだろう」
「ふふふ、それほど私を信頼いただけているとは光栄ですねぇ。ま、弟の人徳もありそうですが」
「……ノーコメントで」
……まぁ、それも否定はしないが、弟の信頼を得続けているのだから、間接的にジェフ自身の人徳もあることになるはずだ。
「では、私はこんなところでお暇しましょう」
「ああ、相談に乗ってくれて助かった」
「いえいえ、また何か困り事がありましたらなんなりと。トウノさんは大事なお得意様ですからねぇ」
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